300年狩られ続けた《禁忌》持ちの令嬢は、三日で処刑を覆す。

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第十五話

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三日後。
予定通り、リュシアンが書庫に現れた。
深紅のローブを翻し、音もなく近づいてくる姿は、まるで獲物を狙う猛禽類のようだ。書庫の静寂が、彼の登場で一気に重苦しい空気に変わる。
「エリーズ・ド・モンフォール、返事を聞こう」

男は尊大な態度で私を見下ろした。鋭い目つきが、値踏みするように私を観察している。薄い唇には、勝利を確信した笑みが浮かんでいた。
私は震える声で答えた。演技だと分かっていても、本当に恐怖を感じる。
「......協力します」
できるだけ弱々しく、怯えたように。リュシアンに疑われないよう、細心の注意を払う。
「賢明な判断だ」
リュシアンは満足そうに笑った。勝ち誇ったような、人を見下すような笑い。虫酸が走るが、表情には出さない。
「では、早速だが今夜、秘宝庫に侵入する。お前も同行しろ」
思ったより早い。心臓が跳ね上がる。
「今夜、ですか......」
声が上ずりそうになるのを、必死で抑えた。
「そうだ。月が新月で、警備が手薄になる。絶好の機会だ」
リュシアンは私に小さな巻物を渡した。高級な羊皮紙に、精巧な偽造印が押されている。触れた瞬間、指先に冷たい魔力を感じた。かなり高度な偽造魔法が使われている。
「これは秘宝庫への立ち入り許可証だ。お前の名前で偽造してある。これを使って警備を通過しろ」
私の名前で。つまり、失敗すれば全ての罪が私に被せられる仕組みだ。この男は、最初から私を使い捨ての駒としか見ていない。
「分かりました」
手が震えそうになるのを、ぐっと堪える。巻物を受け取り、胸元に仕舞った。
「午前二時、北の門で落ち合う。遅れるな」
リュシアンはそう言い残して去っていった。深紅のローブが闇に溶けるように消えていく。彼の気配が完全に消えるまで、私は立ち尽くしていた。
足が震えている。膝から力が抜けそうだ。
でも、今は気を緩めるわけにはいかない。
私はすぐにアクセルに連絡した。
書庫を出て、オリバーの執務室へと急ぐ。廊下を歩きながら、何度も後ろを振り返る。リュシアンが見ているかもしれない。疑われないよう、自然に、でも急いで。
オリバーは私の顔を見るなり、全てを察したようだった。
「リュシアンが?」
「はい。今夜、動きます」
私が小声で告げると、老侍従は静かに頷いた。
「分かりました。すぐに伝書鳩を飛ばします」
オリバーが伝書鳩を飛ばしてくれる。白い鳩が窓から飛び立ち、王宮の外へと消えていく。
アクセルの元へ、私のメッセージを届けるために。


一時間後、返事が来た。
小さな筒に入った紙片を、オリバーが私に手渡してくれる。アクセルの几帳面な文字が、そこにあった。

『了解した。警備の配置は調べてある。お前は指示通りに動け。俺が必ず守る』

アクセルの文字を見て、私は勇気を取り戻した。
強く、力強い筆跡。その一文字一文字から、彼の決意が伝わってくる。
大丈夫。
彼と一緒なら、きっと乗り越えられる。
私は紙片を胸元に押し当てた。まるで護符のように、その温もりを感じながら。
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