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62.仕切り直しと開き直り
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「ごめん今の忘れて! 聞かなかったことにして!」
慌てて取り消そうとしても、後の祭りだとはわかっている。
それでも言わずにはいられなかった。
だって最低のパターンだ。
こんなかっこ悪いことは絶対したくなかったのに。
「お、おう、わかった。忘れる」
私の剣幕に、ウィルが戸惑ったように頷く。
それでいいのだけど、そうしてくれるとありがたいのだけど、でも何かが違う。
パニックになっている頭の片隅で、少しだけ冷静な私が言う。
「ちがっ、そうじゃなくて、」
ええとなんだっけ。そう、気持ちをなかったことにしてほしいわけじゃない。
気持ちが漏れてしまった以上、もう隠すのは無理だ。
だからそれはもういい。
どうせ忘れたフリをされたところで虚しいだけだし。
そうじゃなくて、こんなクソみたいなセリフで恋心を露呈させたのを忘れてほしいのだ。
「……っ、あなたが好き」
だから伝える。
余計な言葉をそぎ落として、ただ真っ直ぐに。
「さっきの格好悪いのは忘れて。これだけ覚えておいて」
よし上手く言えた、とこぶしを握り締めて深くうなずく。
気持ちを告げたら胸のつかえのようなものがすっきりした。
完全に自己満足ではあるけど、なかなか悪くない軌道修正だ。
なんだ、最初からこうしておけば良かった。
そう気付いて肩の力が抜けた。
晴れ晴れした気分の私とは対照的に、ウィルが苦しそうに眉根を寄せた。
「……おまえは何もかも失った絶望で差し伸べられた手に縋っているだけだ」
つまり勘違いだと。
だからそれは恋じゃないと言うつもりか。
なんとなく、気持ちを伝えたらそう言われるだろうことは予測していた。
状況が状況だ。
婚約者に捨てられ、勘当され、海賊に攫われて流されるまま海賊になって人を殺して。
実際はどれも全然堪えてはいないのだけど、傍から見れば散々な人生だ。
心の拠り所を近くにいる人間に求めてしまったのだと思われても仕方ない。
ストックホルム症候群とでもいうのだったか。
私も私みたいな境遇の女の子を見たらそう思ってしまうかもしれない。
ましてやウィルは誘拐犯本人なのだから。
そう思い至って少し笑う。
ウィルが怪訝そうに顔を顰めた。
だからこそ、こんなところで引き下がるわけにはいかない。
引っ込んでしまった手を掴んで、真っ直ぐにウィルの目を見る。
「そう思いたいならそう思ってくれていい。けど私はあなたが他の女を抱くのが嫌で、誰でもいいなら私にすればいいのにって思ってる。都合のいい女でもいい。それくらい好きって思ってるのは本当のことよ」
衝動で露呈させてしまった恋心を、今更引っ込めるのは嫌だ。
気付かれないならまだしも、見ないふりをされるのも嫌だ。
完全に私のわがままでしかないのだけど、まぁ人生ズタボロになった可哀そうな女らしいのでその辺は同情して受け入れてください。
なにせストックホルム症候群に陥らせた張本人ですし。
「それだけ知っておいて」
きっぱり言って微笑む。
応える声はない。
「あ、でも彼女でもなんでもないから束縛する気はもちろんないわ。女の人と寝る理由があるのもわかってる。伝えたかっただけ。自分勝手でごめん」
「いや……それは、」
「別に優しくしてくれとか、態度を変えてほしいわけじゃないの。ただ聞かなかったことにしないでほしい。それだけ。だからウィルもいつも通りにしてくれると嬉しい」
無茶ぶりしているのはわかっている。
でも畳み掛けるしかない。
だって気まずくなるのだけは嫌だから。
「……わかった」
口は悪いけど優しい人だ。
私がこう言えば、きっと頷いてくれると知っている。
ずるいのは承知で、そこにつけこむ私は結構図々しかったらしい。
けれど開き直ってしまえば、案外悪い気はしなかった。
「ありがとう。大好き」
ホッと息を吐きながらさらりと付け加えると、ウィルが面食らった顔をした。
言ったでしょ、聞かなかった振りはしないでって。
それにしても今の顔可愛かったな。
そんなことを心の中で思って小さく微笑む。
「めんどくさい女だけど、船を降りないでいい?」
「当たり前だろ」
少し困ったような顔で、それでも笑いながら頷いてくれる。
うん、これでいい。
きっと明日からもいつも通りに接してくれるはずだ。
モテる人だから、振った女のあしらいも慣れているのだろう。
私が思う以上に平常運転で接してくれるに違いない。
それでも気を遣わせてしまうことにはなるから、せめてそれに見合うだけの努力をしよう。
これからも料理を頑張るし、あなたを、あなたの大切なものを守るために精一杯戦うから。
「話を聞いてくれてありがとう。また明日」
「ああ、おやすみ」
こっそり胸の内に誓って、部屋を出ていくウィルに手を振る。
静かになった室内で、深く深くため息を吐いた。
ドッと疲れが出て、電気を消すなりベッドに倒れ込むように身体を横たえる。
きっとこの後も綺麗な女の人のところへ行くのだろう。
想像したけれど、昨日ほど胸は痛まなかった。
深呼吸をしてゆっくりと目を閉じる。
ウィルが自分の気持ちを知ってくれているということだけで、今は幸せだった。
慌てて取り消そうとしても、後の祭りだとはわかっている。
それでも言わずにはいられなかった。
だって最低のパターンだ。
こんなかっこ悪いことは絶対したくなかったのに。
「お、おう、わかった。忘れる」
私の剣幕に、ウィルが戸惑ったように頷く。
それでいいのだけど、そうしてくれるとありがたいのだけど、でも何かが違う。
パニックになっている頭の片隅で、少しだけ冷静な私が言う。
「ちがっ、そうじゃなくて、」
ええとなんだっけ。そう、気持ちをなかったことにしてほしいわけじゃない。
気持ちが漏れてしまった以上、もう隠すのは無理だ。
だからそれはもういい。
どうせ忘れたフリをされたところで虚しいだけだし。
そうじゃなくて、こんなクソみたいなセリフで恋心を露呈させたのを忘れてほしいのだ。
「……っ、あなたが好き」
だから伝える。
余計な言葉をそぎ落として、ただ真っ直ぐに。
「さっきの格好悪いのは忘れて。これだけ覚えておいて」
よし上手く言えた、とこぶしを握り締めて深くうなずく。
気持ちを告げたら胸のつかえのようなものがすっきりした。
完全に自己満足ではあるけど、なかなか悪くない軌道修正だ。
なんだ、最初からこうしておけば良かった。
そう気付いて肩の力が抜けた。
晴れ晴れした気分の私とは対照的に、ウィルが苦しそうに眉根を寄せた。
「……おまえは何もかも失った絶望で差し伸べられた手に縋っているだけだ」
つまり勘違いだと。
だからそれは恋じゃないと言うつもりか。
なんとなく、気持ちを伝えたらそう言われるだろうことは予測していた。
状況が状況だ。
婚約者に捨てられ、勘当され、海賊に攫われて流されるまま海賊になって人を殺して。
実際はどれも全然堪えてはいないのだけど、傍から見れば散々な人生だ。
心の拠り所を近くにいる人間に求めてしまったのだと思われても仕方ない。
ストックホルム症候群とでもいうのだったか。
私も私みたいな境遇の女の子を見たらそう思ってしまうかもしれない。
ましてやウィルは誘拐犯本人なのだから。
そう思い至って少し笑う。
ウィルが怪訝そうに顔を顰めた。
だからこそ、こんなところで引き下がるわけにはいかない。
引っ込んでしまった手を掴んで、真っ直ぐにウィルの目を見る。
「そう思いたいならそう思ってくれていい。けど私はあなたが他の女を抱くのが嫌で、誰でもいいなら私にすればいいのにって思ってる。都合のいい女でもいい。それくらい好きって思ってるのは本当のことよ」
衝動で露呈させてしまった恋心を、今更引っ込めるのは嫌だ。
気付かれないならまだしも、見ないふりをされるのも嫌だ。
完全に私のわがままでしかないのだけど、まぁ人生ズタボロになった可哀そうな女らしいのでその辺は同情して受け入れてください。
なにせストックホルム症候群に陥らせた張本人ですし。
「それだけ知っておいて」
きっぱり言って微笑む。
応える声はない。
「あ、でも彼女でもなんでもないから束縛する気はもちろんないわ。女の人と寝る理由があるのもわかってる。伝えたかっただけ。自分勝手でごめん」
「いや……それは、」
「別に優しくしてくれとか、態度を変えてほしいわけじゃないの。ただ聞かなかったことにしないでほしい。それだけ。だからウィルもいつも通りにしてくれると嬉しい」
無茶ぶりしているのはわかっている。
でも畳み掛けるしかない。
だって気まずくなるのだけは嫌だから。
「……わかった」
口は悪いけど優しい人だ。
私がこう言えば、きっと頷いてくれると知っている。
ずるいのは承知で、そこにつけこむ私は結構図々しかったらしい。
けれど開き直ってしまえば、案外悪い気はしなかった。
「ありがとう。大好き」
ホッと息を吐きながらさらりと付け加えると、ウィルが面食らった顔をした。
言ったでしょ、聞かなかった振りはしないでって。
それにしても今の顔可愛かったな。
そんなことを心の中で思って小さく微笑む。
「めんどくさい女だけど、船を降りないでいい?」
「当たり前だろ」
少し困ったような顔で、それでも笑いながら頷いてくれる。
うん、これでいい。
きっと明日からもいつも通りに接してくれるはずだ。
モテる人だから、振った女のあしらいも慣れているのだろう。
私が思う以上に平常運転で接してくれるに違いない。
それでも気を遣わせてしまうことにはなるから、せめてそれに見合うだけの努力をしよう。
これからも料理を頑張るし、あなたを、あなたの大切なものを守るために精一杯戦うから。
「話を聞いてくれてありがとう。また明日」
「ああ、おやすみ」
こっそり胸の内に誓って、部屋を出ていくウィルに手を振る。
静かになった室内で、深く深くため息を吐いた。
ドッと疲れが出て、電気を消すなりベッドに倒れ込むように身体を横たえる。
きっとこの後も綺麗な女の人のところへ行くのだろう。
想像したけれど、昨日ほど胸は痛まなかった。
深呼吸をしてゆっくりと目を閉じる。
ウィルが自分の気持ちを知ってくれているということだけで、今は幸せだった。
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