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2.
ミュスカーは何故か渋っていたけれど、彼の父であるハノーヴァー卿にこれまでのあらましを説明して、婚約解消をしたい旨を告げたら私の気持ちを理解してくれた。
その上で少しだけ時間をくれないかと頼まれて困惑する。
ミュスカーを説得でもする気だろうか。
そんなことをしても彼は余計に意固地になるだけだろうし、私の気持ちも変わらない。
無駄なことだとは思ったけれど、ハノーヴァー卿には恩義もあるし、なにより未来の義理の父として私のことを可愛がってくれた人だ。出来る限り報いたい。
「では、一ヵ月だけでしたら」
「助かるよ。アメリア、辛い思いをさせてしまって本当にすまない」
優しい声。笑うと柔らかく緩む目尻。
かつての想い人と重なって、胸が少しだけ痛かった。
なんの進展もないまま一ヵ月が経過した。
ハノーヴァー卿からの沙汰もない。
ミュスカーは婚約解消なんてハッタリだったんだろうと強気で、ますますリリィに傾倒して私を蔑ろにした。
そんな態度を見ても、もう傷付きもしない。
私はもう諦めたのだ。ミュスカーと向き合うことを。
今日、改めて婚約解消を申し出よう。
そう思ったその日、ハノーヴァー卿から呼び出しがかかった。
ようやく解放されるのだ。
両親も納得してくれたし、あとは正式に手続きをするだけ。
馬車に向かう足取りは軽やかで、とてもこれから婚約者を失う女には見えないだろう。
父も母もどこか明るい顔をしている。
「さぁ、きちんと話をしておいで」
ハノーヴァー侯爵家の客間に通されて、父が言う。
てっきり同席してくれると思っていたのにそうではないらしい。
父も母も、笑顔で私を応接室へと送り出そうとしている。
「ええ、でもお父様たちはよろしいの?」
「なに、積もる話もあるだろうから私達はここで待っているよ」
「? 話し合い自体はすでに済んでいるのだけど……」
「いいから行っておいで。私達はアメリアの決断を尊重するから」
笑顔のまま強引に背中を押されて廊下を進む。
何度も出入りして慣れたお屋敷だから、呼び出された部屋の場所は分かっていた。
柔らかな絨毯の上を一人歩きながら、これまでのことを思う。
私を妻にしてくれるというミュスカーを愛そうと努力してきた。
過去の恋など忘れて、彼を支えようと前を向いた。
だけどもう無理なのだと気付いてしまった。
彼の目が私にだけ向けられていたら、また違った結果になっていたかもしれない。
けれどリリィという存在を過剰に優先する彼には、ほとほと愛想が尽きてしまったのだ。
彼女をどうにかしてまで添い遂げようと思うほどの愛は、私の心に芽生えてはくれなかった。
やはり婚約継続はどう考えても無理だ。
情に訴えられても絶対に断ろう。
そう決意して応接室の前で深呼吸をする。
「失礼します」
ノックの後で声を掛ける。
「やぁアメリア。久しぶりだね」
返事を待たずに扉を開けた瞬間、呆然と立ち尽くす。
応接室にはハノーヴァー卿ではなく、彼の長男であるアーロンが立っていた。
その上で少しだけ時間をくれないかと頼まれて困惑する。
ミュスカーを説得でもする気だろうか。
そんなことをしても彼は余計に意固地になるだけだろうし、私の気持ちも変わらない。
無駄なことだとは思ったけれど、ハノーヴァー卿には恩義もあるし、なにより未来の義理の父として私のことを可愛がってくれた人だ。出来る限り報いたい。
「では、一ヵ月だけでしたら」
「助かるよ。アメリア、辛い思いをさせてしまって本当にすまない」
優しい声。笑うと柔らかく緩む目尻。
かつての想い人と重なって、胸が少しだけ痛かった。
なんの進展もないまま一ヵ月が経過した。
ハノーヴァー卿からの沙汰もない。
ミュスカーは婚約解消なんてハッタリだったんだろうと強気で、ますますリリィに傾倒して私を蔑ろにした。
そんな態度を見ても、もう傷付きもしない。
私はもう諦めたのだ。ミュスカーと向き合うことを。
今日、改めて婚約解消を申し出よう。
そう思ったその日、ハノーヴァー卿から呼び出しがかかった。
ようやく解放されるのだ。
両親も納得してくれたし、あとは正式に手続きをするだけ。
馬車に向かう足取りは軽やかで、とてもこれから婚約者を失う女には見えないだろう。
父も母もどこか明るい顔をしている。
「さぁ、きちんと話をしておいで」
ハノーヴァー侯爵家の客間に通されて、父が言う。
てっきり同席してくれると思っていたのにそうではないらしい。
父も母も、笑顔で私を応接室へと送り出そうとしている。
「ええ、でもお父様たちはよろしいの?」
「なに、積もる話もあるだろうから私達はここで待っているよ」
「? 話し合い自体はすでに済んでいるのだけど……」
「いいから行っておいで。私達はアメリアの決断を尊重するから」
笑顔のまま強引に背中を押されて廊下を進む。
何度も出入りして慣れたお屋敷だから、呼び出された部屋の場所は分かっていた。
柔らかな絨毯の上を一人歩きながら、これまでのことを思う。
私を妻にしてくれるというミュスカーを愛そうと努力してきた。
過去の恋など忘れて、彼を支えようと前を向いた。
だけどもう無理なのだと気付いてしまった。
彼の目が私にだけ向けられていたら、また違った結果になっていたかもしれない。
けれどリリィという存在を過剰に優先する彼には、ほとほと愛想が尽きてしまったのだ。
彼女をどうにかしてまで添い遂げようと思うほどの愛は、私の心に芽生えてはくれなかった。
やはり婚約継続はどう考えても無理だ。
情に訴えられても絶対に断ろう。
そう決意して応接室の前で深呼吸をする。
「失礼します」
ノックの後で声を掛ける。
「やぁアメリア。久しぶりだね」
返事を待たずに扉を開けた瞬間、呆然と立ち尽くす。
応接室にはハノーヴァー卿ではなく、彼の長男であるアーロンが立っていた。
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