いじわるドクター

羽村美海

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26 / 201
episodo:4

#6

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会社を出てから、

どんなお弁当がいいかなぁ?

……なんて思っていた私だったけど。


いつもお弁当ばかっりを食べてそうな海翔さんに、何か作ってあげたくなってしまった。


でも、

そんなことしたら、

重いって思われたりしないかな?


でも、

お弁当バッカリだと栄養が偏っちゃうだろうし。


でも、

余計なお世話だって思われるかもしれないし。


でも、

やっぱり、

少しでも何か自分にできることをしたいって思ってしまう。


あーぁ…

さっきから

でも…って言葉を繰り返してばっかりだ……。


季節はいつのまにか秋から冬に移り変わったっていうのに、


海翔さんのことを想う…、ただそれだけで、


今は寒さなんかじゃなくって、


胸の奥がじんわりとあったかぁく感じられる。


夕暮れどきの見慣れた道程を歩いていても、

冬独特の殺風景なモノクロのような景色でさえも…、

色鮮やかなものに変わってしまう。


恋なんてしないなんて思っていた筈なのに、本当に呆れてしまう。


散々…悩んだ挙げ句、


近くのコンビニで幕の内弁当を買うことにしたのだった。


作ってあげたいなんて思ったけど…、

料理がそんなに得意じゃないし、好みがよく解んないし。


何より私には、

そんなことをする勇気なんてなかったから…。


「海翔さん、こんばんはぁ!」


「あぁ、悪かったな…」


診察室に居た海翔さんが、

いつものように素っ気なく短い返事を返してくる。


その声を聞いただけで、

嬉しくて頬が緩みそうになってしまう。


「ううん。海翔さんって、なんでも食べられるよね?」


昨日一緒に食べてる時に然りげ無く聞いたら、

特に嫌いなものもないって言ってたし、

聞かなくても大丈夫だとは思うけど…。


「ん、あぁ」


ーー良かった。


「じゃぁ、仮眠室に置いておくね?私もお腹空いたから、一緒に食べようと思って買ってきちゃったけど、いいかな?」


「それはいいけど。代金はらっとく。いくらだった?」


そんなの、気にしなくていいのに。


「大した金額じゃないからいらない。気になるんだったら、今度は海翔さんが奢って?」


「あぁ、解った、そうさせてもらう。ありがと」


少しでも、こうして一緒に過ごすための口実が欲しいから。



「そういえば、そのワンちゃんってどうしたの?」


仮眠室にお弁当を置いて戻ってくると、

私が来たときと同じように、診察台の上でミニチュワダックスフントが横になっている。


よく見ると、お腹が大きいようにも見える。


「あぁ、出産の兆候があるから今日入院させたんだ。
今は、少し前から陣痛が始まったから様子みてたんだ」


それで、お弁当頼んだんだ。


「え?人間みたいに入院して出産するの?」


「あぁ、小型犬は難産が多いし、逆子になったりすると親も死ぬことがあるからな。

そういう時は、手助けしてやらないといけないんだ。絶対ではないんだけどな」


「え、そうなんだ。犬って安産だと思ってた」


「んー、まぁ、普通はな。

コイツらは特に体型も他の犬と違うしな」


「そうなんだぁ?
頑張れぇ、お母さん。わぁ、可愛い、よくなついてるぅ。

ね、海翔さん、赤ちゃんが生まれるところ見ててもいい?」


ゆっくり顔に手を近づけてみると、

怒らずにペロペロと舐めはじめた。


「ん、あぁ。じゃぁ、先に食っとくか?まだ時間かかりそうだからな」


「やったー!」


いつもはあんまり喋らない海翔さんが、

色んな表情で喋ってくれるから、

特別な存在になれてる気がして嬉しくて、少しの時間でも一緒に居たいと思ってしまう。


どんどん、欲張りになってゆく…。
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