いじわるドクター

羽村美海

文字の大きさ
上 下
170 / 201
番外編~ミルクと海翔先生のお留守番~ 

#2

しおりを挟む
車が見えなくなってもジッと見つめたまんまで、中に入ろうとしない海翔先生の顔を見上げると、 


「なぁ、ミルク。芽依が居ないと、遊んでもらえないから寂しいよな?」 


なんて、とっても寂しそうな表情をして、私の頭を優しく撫でながら、そんなことを言って来るもんだから、


 「ニャーン」 (海翔先生がでしょ?) 


思わず突っ込んでしまった。 


芽依ちゃんが出掛けたばかりだというのに、 本当に海翔先生の寂しがり屋にも困ったもんだ……。


そりゃ私だって、大好きな芽依ちゃんが居ないと寂しいけど、そのぶん、海翔先生が構ってくれるから大丈夫。 


だって、私はふたりのことが大好きなんだもん……。 


「ほら、ミルク。おとなしくしてるんだぞ?」 


そう言って、いつものように診察室のデスクに座ると、私を足元に下ろしてくれた海翔先生。 


「ニャーン」(はーい) 


もうスッカリ大人になった私は、お休みの日になると、仮眠室以外でも自由にさせてもらっている。


そして、診察室の窓際に芽依ちゃんが用意してくれた、ふっかふかのクッションが私の一番のお気に入りの場所だ。 



***



土曜日は基本お休みなんだけど、急患の場合は受け入れている。 


私がちょっとだけお昼寝をしている間に、ケガをしたという猫が連れてこられたようだ。 お陰で痛そうな鳴き声に安眠妨害されてしまった。 


海翔先生は、どんなに忙しくても疲れていても、 いつも変わらず優しく対応をしてくれるから、動物には勿論のこと、飼い主にもスッゴく人気がある。 


だから、 


「ごめんな。窮屈だろうけど、傷口舐めたらいけないから、しばらく我慢しろよ?」


 「良かったわね? たま。

ありがとうございます。 先生、何か気を付けることってあるんですか? 

ケガなんて初めてで、どうしたらいいのか解らなくて」 


「……え、あぁ、傷口舐めないよう、気を付けて下さい。まぁ、エリザベスカーラー付けてるから、大丈夫だと思いますが…」 


特に飼い主が女の人の場合は、診察が終わっても帰ろうとはせず、ケガって言っても大したことないのに、こんな感じで色々話しかけられても、仕事上無下にできない海翔先生のために、


 「ニャーン!」(海翔先生には芽依ちゃんが居るから、ダメ!) 


こうやって足元で私が鳴くと、 


「フーッ」 って大抵は診察してもらった猫や犬の方が怒るから、 


「こら! たま。そんなに怒らないの……。 すみません。お世話になりました」


 「あぁ、お大事に」 


早めに切り上げてもらえるのだ。 



急患の猫が帰ったあと、時計を見た海翔先生が 


「腹がへったと思ったら、もう2時過ぎかよ……。 ……けど、さっきの飼い主、たまのこと放っといて話に夢中なんだもんなぁ……。 あれじゃ、構ってもらえなくて、たまが怒るのも無理ないよな?」


いつものごとく、おかどちがいなことを呟いたから、 


「ニャ~ン」 (……本当は、飼い主じゃなくて、私に怒ってたんだけどね……) 


私もポロリと本音を漏らしてしまった。


 いつも思うけど、本当に海翔先生は芽依ちゃん以外の女の人にはーー全く関心がないようだ。 


ああやって女の人が色んなアプローチをしてきても、全くと言っていいほど気づいていないようだった。


まぁ、海翔先生のことだから、気づいたところで、 なんとも思ったりはしないんだろうけど……。 




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

沈むカタルシス

BL / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:31

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,463pt お気に入り:54

百合JKの異世界転移〜女の子だけのパーティで最強目指します!〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:707

モブの強姦って誰得ですか?

BL / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:799

車いすの少女が異世界に行ったら大変な事になりました

AYU
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:589pt お気に入り:50

元オペラ歌手の転生吟遊詩人

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:209

落ちこぼれ[☆1]魔法使いは、今日も無意識にチートを使う

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,173pt お気に入り:25,353

処理中です...