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番外編~恋多き女優?涼風彩の秘密~
#1
しおりを挟む「前回はどこまでお話したかしら?」
「お嬢さんがお生まれになって、暫く休業されてたところまでです」
「あら、まだそんなところだったのかしら? イヤだわ。歳はとりたくないものね?」
「そんな、まだまだお若くて、お綺麗で、羨ましい限りです」
「ふふっお上手ね。でも嬉しい。ありがとう」
一流と言われるホテルの一室。
艶かしく磨き上げられたアンティークのようなテーブルを挟み、仕事用の愛想笑いを浮かべて、誰にでも使ってるでろうお世辞を口にするゴーストライターの三十代の女性。
何でも私の自叙伝を出版するらしい。
そんなことにも、もう驚きもしないけど……。
けど、そんなものを出したところで、わざわざお金を払ってまで 一体誰が読みたいと思うのかしら……。
今年で53歳になる私は、この仕事を初めて50周年を迎えてしまうらしい。
別にそれがどうしたって感じよね。
ただ歳をとったってだけじゃい。
そんなの褒められるようなものでも、祝ってもらえるようなものでもない。
私には、もっと大事なものがあるもの。
いくら仕事に誇りを持っていても、それくらいのものでしかない。
あの子たちに寂しい思いをさせて、ただ好きなことをやってきただけなんだから……。
***
「お兄ちゃん、彩乃も一緒に遊ぶー!」
「こら、彩乃。 お前はレッスンがあるだろ? ほら、もうすぐ母さんが呼びに来ちゃうぞ?」
「えー、ヤダ。お兄ちゃんや直斗《なおと》くんたちと遊びたい」
「彩乃ちゃん。じゃぁ少しだけ、遊ぼっか?」
私の母親はいわゆるステージママだった。
そのため、物心つく頃から子役をしていた私は、遊ぶ暇なんてなくて、いつもレッスンばかりさせられてた。
と言っても、綺麗な衣装を着せてもらって、色んな大人たちと対等に肩を並べて、お芝居をするのは嫌いじゃなかったんだけど……。
まだ子供だったし、やぱっり遊びたい盛りだったし。
そんな私を不憫に思っていたのか、二つ違いの兄の同級生がレッスンにいくまでの僅かな時間に、よく遊んでくれてたっけ。
色々と昔のことを思い出していたからか、あんまり思い出したくないものまで思い出してしまった。
だから、自叙伝なんて嫌だったのよ……。
どうせ恋多き女優なんて呼ばれてる私のことを面白可笑しく綴った本になるんでしょ……。
“思い出したくないもの“っていうのは、あの頃の綺麗な思い出のままで終わらなかったもののこと。
さっき思い出してしまった直斗くんっていうのは私の初恋の相手だった。
兄がよく遊んでた友達に妹が恋心を抱く……なんて話しは、よくある話しよね。
でも、それだけじゃなかったの……。
あれは、海翔の六つ上の娘の愛菜が生まれた年だったかしら、幼かった私が恋焦がれていた直斗くんに再会してしまったのは……。
あの頃は、結婚するはずだった愛菜の父親を突然の事故で亡くしてしまって。
仕事なんかする気力なんてなかったし、メディアに取り上げられて悲劇のヒロインなんかにされて、何もかもが煩わしく思えて。
このまま引退してしまおうかなんて考えてたくらいだった。
そんなことも含めて、これからのことを色々考えるために、まだ小さな愛菜を連れて帰った実家。
そこに兄を訪ねてやってきたのが、後に海翔の父親になる男……松岡直斗だった。
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