どこまでも付いていきます下駄の雪

楠乃小玉

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十五話 手加減はせぬ

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 そうしている内に、一宮宗是の発した使者が
 福島越前守から預かった書簡を携えて帰って来た。

 そこには、寿桂尼様返還の条件として
 館内の武士郎党すべてを無事本領に帰還させること。

 その担保として足利将軍家から今川義元公への跡目相続の許し状を預かること、
 もし、一人たりとも福山方が殺されたならば報復として
 この書状を破棄するということが書かれてあった。

 宗是がそれを義元公にお見せすると
 義元公は即座にそれを承諾された。

 使者はまた福島館に入ってゆき、
 次に出てきた時には寿桂尼様を連れて帰ってきた。

 「大切な将軍家からの書状を取られてしもうた、愚かな母を許しておくれ」

 寿桂尼様は目から大粒の涙を流して義元公にすがられた。

 「何を仰せです母上、我は母上がご無事であればそれ以上何も望みませぬ。
 今川家家督は我の努力で取ってみせましょう」

 「おお、なんと立派にお育ちになって。そなたは良い子じゃ、良い子じゃ」

 寿桂尼様は何度も頷かれ涙を流されて笑顔になられた。

 「あれを」

 いずこかの郎党が叫んだ。
 その指刺す方向、福島館から黒煙が上がった。

 鎧に身を固めた武者たちが騎馬で門から出てくる。

 それに郎党が続く。

 そのうちの一人が馬を進めて義元公の前に進み刀を抜いた。

 当方も刀を抜いてにらみ合う。

 「何を不逞な、君主の母君をないがしろにする不忠者が」

 義元公が武者を叱られた。

 「何を言うか主君殺しの逆賊が」

 相手が怒鳴り返してきた。

 「何、なんと言うたか」

 義元公の顔に明かに狼狽の色が見てとれた。

 「騙されてはなりませぬ、群臣の前で嘘を吐き、動揺を誘う策略でございまする」

 耳元で雪斎殿がささやかれた。義元公はすかさず相手武者に言い返す。

 「何を言うか、主君殺しはそちらであろう、下郎め、天が許さぬぞ」

 「天はご照覧あれ、必ず悪しき梅岳承芳めに天罰が下らんことを」

 鎧武者は恐れ多くも義元公を旧名で呼び捨てにして去っていった。

「お気にめされるな、嘘を吐くということは、
 それだけ花倉方も追い詰められているということでございます」

 雪斎様が義元公を勇気づけられる。

 「うむ、身内と思うて情をかけておったが、
 相手がかような邪悪な輩であるなら、手加減はせぬ」

 義元公もこれを機会にお心を強くなされたようであった。
 天文五年五月二十四日の事である。
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