初恋のつづき、していいですか? 〜未練しかない幼馴染へ〜

ムラサキ

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きっかけ

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 一人きりの帰り道。田舎の夜道。暗い道。こうやって歩き出してみると案外怖くないものだ。満月も相まって、目が慣れれば意外と明るく見えるんだな。家に近づけば近づくほど車通りは少なくなる。雫は道路の真ん中を歩き始める。ここの道の奥は採石場だ。田舎道と言っても広く広がっている。その代わりに歩道が狭いのだ。足取り軽く、星空なんか見上げちゃったりする。小学校の頃、宇宙飛行士になるなんて言って図書館から借りていた宇宙図鑑。星座や惑星の特徴なんかを必死になって覚えていた。もう随分昔だが、あの頃に頭に入れた知識は意外と抜けないものだ。今、頭上に広がる星空からもなんとなく星座が見つけられる。
 今歩いているこの道。蓮や登校班が同じだった子たちと仲良く歩いた道だ。蓮への恋心はここから始まった。あれは小学一年生の頃……

プルルルルル…プルルルルル…

また回想ができなかった…!次回のお楽しみに。
 
雫は電話を取る。相手は迅だった。

「もしもし。どうした?」
<朗報。朗報。>
「なになに?」
<俺、本気で頑張っちゃいまーす!>
「は?」
<蓮が全く良い返事くれないんで、家に行きたいと思いますっ!>
「は!?大丈夫なの?」
<何回か電話で話してるんだけど、ただ単に嫌だってわけでもないらしいからさ。俺もあんま好かれてるって感じないし、親睦深める的な意味を込めて行ってきちゃいます!>
「…え~。逆効果の時に取り返しつかなそ~。」
<誰のためにこんな頑張ってると思ってんだよ。>
「え?」
<友人の雫のために頑張ってんだろがいっ!>
「…迅。」
<初恋こじらせすぎだ。別にくっつけてやろ~とかそんなお節介はしないかけどさ、こういうのは一回話して自分の中でけじめつけたほうがいいよ。特に雫みたいな場合は。>
「持つべきものは、迅だよ。最高っ!」
<だろだろ~!>
「私も行きたいって言いたいけど、余計なことして空回りたくないから我慢する。」
<おう。任せなさい!>
「あざっす!!!」

雫はそっと通話を切る。話しながら歩くと帰路もあっという間だ。すぐに家に着いてしまった。
 優しいのは蓮だけじゃない。自分の出身小学校の人間は、特にこれまで見てきた人と比べれば、圧倒的にいい人が多い。各々の好みやすれ違いによる人間関係の拗れはあるが、それでもいじめも何もなかった。同窓会についても来ると返事をした人間は皆協力的になってくれている。店探しやスケジュール調整は今のところとんとん拍子で進んでいる。大人数の高校の同窓会になるとこうもいかないだろう。少数学級の良いところだ。雫は久しぶりのスキップで家の玄関を潜った。

 次の日。雫はいつものように成美とカフェにいた。

「ふーん。それで同窓会に浮かれてチルくなる瞬間が多いと。」
「うん。何かと思い出しちゃうんだよね~。なんかラブソングが頭に流れちゃう感じ?エヘヘ」

ニマニマと笑いながらメロンソーダのアイスを食べる雫を成美はジトーっとした目で見つめる。

「初恋こじらせに拍車かかってるわけね。」
「……まあね。」
「なんかさ、雫の話聞いてるとその初恋の人いまいち分かんないんだけど。」
「え?」
「だってさ、小学校の頃の記憶の中にもただの幼馴染エピソードしかないし。雫の視点からしたらキラキラエフェクトかかってるかもしれないけど、相手からしたら別に大したことないかもじゃん。実際に振られてるわけだしさ。中学校ではラブレターのことバラされたわけでしょ?…なんか幼馴染マジック・初恋エフェクト・その他諸々がかかってる気がするな。」
「うっ…。私のHPが…。」
「まあ今回の同窓会でがっかりするかもしれないし。それはそれでケジメかもね。」
「…蓮は、そんな人じゃないと…思う…。」
「思いたいの間違いでしょ?別に命の恩人ってわけでもないのによくそんな情が残るよね。」
「なる、今日なんか手厳しいよ。」

雫は本気で少し涙目になる。成美は一つため息をつき、真剣な顔をした。

「雫。同窓会は結局年明けになったんだよね?」
「うん…。そこらへんって聞いたけど…。」
「じゃあ、その日までずっと初恋に恋焦がれるわけ?」
「………。」
「私は雫が大好きだから言ってんの。後悔してほしくないの。同窓会があるのは今年かもしれないけど、あんたの学生生活も今年がラストなんだよ?…同窓会で結局がっかり、で終わって気づいたら何もなかったなんて虚しすぎるでしょ…。別に恋愛だけが全てじゃないよ。でも、かといって恋愛ごときがって捨てれるものでもないよ。そこが心配なの!」

雫は成美の本気の言葉に言葉を詰まらせた。本当にその通りだった。いつまで夢見てるんだろ。別にキスをしたわけでもない。彼女になったことがあるわけでもない。ただ幼馴染として少し淡いエピソードがあるだけ。何をそんなに引きずってるんだろうか。しかし雫だってこういう自問自答をしなかったわけじゃない。もう雫の中にはある種諦めがある。

「なる。ありがとう。ちょっと頭冷めた。」
「…うん。私も熱くなって…ごめん。」
「でもさ、なる。私、こうやって生きてきてるからさ。なんかもう良いんだよね。必死に恋愛しようとすればするほどこじれてきた気がするし。気持ちには素直でいたいんだ。」
「……そっか。」

成美は雫の言葉に納得はできなかったが、ひとまず飲み込もうとコーヒーを一口飲む。

「結局、最後は雫が決めることだしね。どうなろうが私は雫を応援するよ。」
「なる~~~~!好きっ!」
「はいはい。…ってかさ、浮かれるのも良いけどテスト近いんだからそっちにも集中してよ?桜蘭祭もあるんだし。」
「わかってるって!」
「どうだか…。」

 雫は『こうやって生きてきた』。どういう意味?…言葉通りの意味。ずっっっっと蓮の存在・思い出が足枷になっている。心愛ちゃんとの嫌な思い出がある中学校だって、決して出会いがなかったわけじゃない。告白も三年間の間に二度ほどされている。逆にいいなと思うような男の子もいなかったわけじゃない。だが彼氏になる子はいなかった。本気で好きになれないのだ。蓮の時のような胸の高鳴りがない。億劫な学校に行くのが楽しみになったり、ふと目で追ってしまったり、足音で蓮の存在が分かってしまうような。そんな恋の症状が出ない。喋るだけで、近づくだけで胸がドキドキして顔が熱くなって、いやもうバレとるだろってくらい挙動がおかしくなって…。
 雫の中で諦めが生まれたのは高校生の頃。クラスのみんなが背中を押してくれるような恋が始まりかけた時だ。相手は秀才と言われるほどの優等生。文武両道。なのに自分を飾らなくて笑顔が爽やかな好青年。出会いは一年生のクラスが同じだったところだった。好きな音楽やアーティストが同じだったのだ。今思えばどこにでもいるだろと思うが、お互い周りに同じ趣向の人間がいなかったせいで何か通じ合った気になっていた。時が経ち、二年生になった時、その年の文化祭で告白をされた。だが、雫は何を思ったのかそれを断った。嬉しかったのには違いはなかったし、意識していたのも本当だった。でも何故か心のままに出た言葉は「ごめんなさい」。多分、おそらく、いや絶対…蓮がそこに関係していた。怖かったんだ。こうやって違う人を好きになっていって蓮を忘れていってしまうことが。忘れたいと思っているのに、その時はやっぱり忘れたくないと心が叫んだんだろうと思う。そこから二人は関係悪化。「思わせぶりな女」として冷たい目線を向けられた時期があった。その瞬間、ふと芽生えた諦め。高校生ながらに「高齢処女だけにはならないどこ」なんて思っていたのは少し黒歴史だ。そこからの色話は無し。なんでかって?世界的パンデミックにより格段にコミュニケーションが減ったからだ。イベント事は軒並み中止。受験生というのもあっただろう。なんともやりきれない高校生活だったことには違いはない。
 
 成美と解散し、雫は車を家まで走らせている道中、小学生の下校を横目に通過した。成美の言葉が刺さっている。「別に命の恩人ってわけでもない」…。それが実は違うんだな~…。まさかの蓮は雫の命の恩人。それは小学一年生の頃………

これ、もう回想入っても良い感じ?…大丈夫?

「もう!ナレーションが話しかけちゃダメだろっ!」

あらら。ごめんごめん。ではでは気を取り直して、

 時は遡り、雫と蓮が小学生一年の頃。まだ遠目で見たらランドセルが歩いているように見えるくらい小さい時期だ。雫と蓮、そして低学年男児二人組はよくチャンバラをしながら下校をしていた。道路が広いとは言っても歩道は小さい道だ。道路にはみ出すことなんてしょっちゅうあった。だがこの街の奥の山には採石場がある。ダンプやトラックが多く通る場所だ。本当に危険な場所だった。なのにこのバカ四人組は関係なしにチャンバラをする。主に雫と一人の男児。本気になって喧嘩になることも少なくなかった。
 ある日のこと、いつものようにチャンバラをしながらの下校。だがこの日だけは少し違った。チャンバラをするようの枝が太かったのだ。前日の嵐のせいだろう。道路にはいつも以上に太い枝が散らばっていた。チャンバラをするバカたちだ。それは物凄く調子に乗った。男児と雫はいつも以上に熱が入る。

「おりゃ!」
「ぎゃっ!!どりゃ!!」
「バリア~!雫の攻撃は無効となる~!」
「ずるじゃん!!ずる!!」
「ふん!これでも喰らえ!!」

そう言った男児の枝は雫の鳩尾を強く突く。押し出された雫。足をよろめかせながら不意に歩道線を越し、道路側に行ってしまった。


プウウウウウウウウっ!!!!!!

目の前に巨大なダンプ。足がすくんで動けない。どうしよう。七歳の頭でもわかる。死ぬ。その時だった。

「しずくっっ!!!!」

雫の名前を強く呼び、雫の腕を引っ張ったのが、坂野 蓮だった。
 雫はダンプのクラクションの音と一緒に蓮の腕の中に入った。大人から見れば小さい女の子が小さい男の子の上に被さっているようにしか見えなかっただろう。でも雫にとって蓮の腕と胸板はひどく大きく、逞しく感じた。おそらく吊り橋効果的なことはあったと思う。アドレナリンから来る心拍の上昇を恋と勘違いしたのかもしれない。でも、この時確かに雫は恋に落ち、今の今まで拗らせている。

「雫ちゃん!大丈夫!?」
「…う、うん。」
「よかった~…」

蓮は本気で安心したというように屈託ない笑顔を雫に向けた。蓮は雫の手を取り立ち上がらせる。

「おい!今のはお前が悪いぞ!雫ちゃんは女の子なのに!手加減しなよ!」
「……ごめんなさい。」

そこからの道中は何を話したのか覚えていない。蓮が雫の手を取ってからずっと手を握っていたせいで。
 蓮はすごくしっかりした男の子だった。雫がまだ怖がっているのだろうと思い、家に入るまで見送ってくれたのだ。雫は死にかけたバカな小学生から恋する乙女へと変貌を遂げたのだ。
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