初恋のつづき、していいですか? 〜未練しかない幼馴染へ〜

ムラサキ

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初恋泥棒

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 テストも無事に終わり、いよいよ桜蘭祭の準備が始まりだした。キャンパス内はテストから解放され浮き足だった学生で賑わっている。そしてこの時期になると大量出没するリア充。それらを横目に今日も平穏な日常を過ごす雫であった。

(うちらのサークルもそろそろ動き出すか~。)

雫の所属するサークルは園芸サークル。花の栽培だけでなく野菜の栽培までも行う。地域の緑化活動にも参加しており、自然保護団体さんとの交流も年に数回ほどある。また他大学との交流も最近は始まった。しかし現状はそれらに参加するのは全体の部員の半分以下。ほとんどは腰掛け要員で、半分飲みサークルと化している。

「若宮!」

 突如、雫の名が呼ばれる。誰だ?誰だ?誰だー?雫がキョロキョロと頭を動かすとこちらに手を振っているギャルが目に入った。

「若宮 雫!」
「美月ちゃん!おひさ~。」
「久しぶり!見かけてはいるけどな!」

横井 美月。この子も小学校からの幼馴染。昔から裏表ない性格で、女子にも男子にも態度が変わらない子だ。このギャルの見た目とは裏腹に頭脳明晰。同じ大学でも偏差値差のある理学部に通っている。小学校の時はよく二人で図書館に入り浸り、本を読んでいた。それでも雫と違うのは、同じく小説好きの蓮に簡単に話しかけていたことだ。雫はいつも羨ましいなと思いながら眺めていた。

「同窓会の件、聞いたか?」
「うん。結構楽しみ。」
「やっぱ?!だよな!私も楽しみなんだよ!」
「…ん?その反応だと周りの子は違うのかな?」
「…あー…。まあ、迅には悪いけど、うちのグループは結構冷たい感じかな。協力はしてくれてるけど…。ほら、もう五人中二人はママになってるから。」
「えぇっ!!!」
「え?知らない?美雪と海はもう結婚してるよ。子供はまだだけど咲も。」
「まじか…。もうそんな歳か…。震えるよ…。」
「お、落ち着けって………。そういうさ、知らない話とかみんなの様子とか話せると思うからすげー楽しみ。正直、すれ違ってる奴らも仲良くなるかも。昔と違って酒が飲めるからな!…十年越しの答え合わせ的な?」
「確かに。的な感じだね!くくくっ…」
「笑い方の癖どうした。…あ、全員参加ってのも聞いたか?」
「え?蓮は?」
「重い腰、上げたらしいよ。迅が頑張ったらしい。昨日、電話かけたら疲労感満載で話してくれたよ。」
「……そっ、か。」
「雫?」

雫はそっと近くにあったベンチに腰をかけた。続けて美月も雫の隣に腰をかける。

「そっか~~~………。」
「ん?」
「…何でもない。」
「ふーん……。あ!ついでで思い出した!うちのとこの吉十郎のこと振ったんだって?」
「吉十郎?」
「ほら、雫に告白した!…太眉だよ!」
「あ、あ~!吉十郎くんっていうんだ!名前も濃いね~。理学部だったんだ~。」
「え~…、そこからか~…。勝ち目のない勝負に出たんだな、あいつ。……結構、良いやつだよ?派手さはないかもだけど。義理と人情って感じ。」
「その単語って意味はいいのにセットにすると一気に治安悪くなるよね。」
「いやいや!ヤクザとかじゃないぞ!?」
「うん。さすがにわかる。それは。」
「じゃあ、なんで?」
「…うーん。ま~、ねぇ…。」

美月は雫の顔を覗き込み、ニヤリとした。

「さては、好きな人がいるんだろ?」
「え~…、どうかな~…」
「ふーん。まあ同窓会で根掘り葉掘り聞いてやろっ!」

そう言うと美月はベンチから立ち上がった。

「じゃあな!また今度!」
「うん!バイバイ!」

手を振りながら去っていく美月を見えなくなるまで見送ると、スマホを取り出した。

(迅の奴。なんで先に言ってくれないんだよ…。)

雫は画面をスクロールし、『井田 迅』と書かれたところを押そうとした瞬間だった。画面が急に切り替わり、映し出されたのは『そうちゃん』の字。雫はドキリとして一瞬迷うが、その電話に出た。

「…もしもし。」
<……颯太、です。>
「…雫、です。」
<…今度、時間空いてる時、話せませんか……?>

雫は言葉を詰まらせた。雫が勝手に終わらせてしまった恋物語。そうちゃんの中ではまだ終わってない。決着をつけようとしているのだ。この時になって成美から言われた言葉が思い浮かぶ。雫のこじらせで、そうちゃんもこじらせかけている。こじらせの二次災害だ。もし雫がそうちゃんの立場だったら。もう二、三年も前だ。この電話は相当勇気がいることだと感じた。雫だって決着を、と思っていたが勇気がでなかった。本来なら雫から行かなければいけないのに。

「わかりました…!」

そうちゃんはほっとしたような溜め息をついて「じゃあ」と言った後、電話を切った。雫の頭はその瞬間、フル回転をし始めた。ガリレオの域に達しそうなフル回転。『なんて説明しよう』。これに尽きた。

(素直に話す?いや、なんかキモいだろ。かと言って中途半端に嘘言ってもバレそう。…てかなんでまだ印象よくいたいって思ってんだ?…なんかめっちゃ中途半端だ~…。)

 決心つかずして雫はそうちゃんの元に向かった。場所は園芸サークルの部室。そうちゃんと初めて仲良くなった出会いの地だ。集合がかからない場合、基本ここは人がいない。雫が部室のドアを開けると
そこにはそうちゃんが一人で待っていた。

「…お待たせ。」
「うん…。」

雫はぎこちなくそうちゃんに近づき、黙った。何を話せばいいのか。目だけは絶え間なく泳ぎ続ける。

「…あのさ、」

沈黙を破るそうちゃん。体ごと雫に向ける。雫も肩肘を張る。

「…そんな力むなよ。喋りづらいじゃん。」
「あ…、ごめん。」
「そこで喋ろ。」

そうちゃんが指を刺した場所は外にあるベンチ。二人とも外用スリッパに履き替え、外に出て肩を並べてベンチに座った。

「まあ、なんとなく言わんとしてることわかると思うけどさ、」
「…はい。」
「…雫が俺から何も言わずに離れていった意味、聞きたい。」
「……。」
「別により戻そうとか思ってない。てか、正直百年の恋も冷めるレベルで怒ってる。何も言わないで、あんだけ人の心弄んで…。まじで最低だと思う。」
「…ごめんなさい。」
「……否定しないんだね。」
「…なんて言ったらいいか…。」

そうちゃんは俯いたまま顔を上げない雫を横目で見た。

「…この前、一年の子に告白された。付き合おうと思ってる。」
「…そっか。」
「だけどさ、こんだけ雫に怒って、恨んでってしてんのに全然頭から離れなくてさ。変にこじらせた。…それだけ本気で好きだったよ。」
「……もう、本当に、申し訳ない…。」
「謝って解決するもんじゃないだろ。逆に傷つくわ。……実は定期的に石井から雫の話聞いてたんだ。キモいだろ?」

石井くん。成美の彼氏だ。

「…ううん。そんなこと思はない。私も、なるからそうちゃんの事聞いてた。」
「またそうやって思わせぶり。」
「…うっ。」
「……あれから彼氏、作ってないんだろ?この前も理学部のやつ振ってるし……。」
「…うん。」
「もしかしたらって思ってさ。…俺にどうこうってより、雫の中で俺の知らない事情みたいなのがあるのかなって。そうじゃなくても、もし俺単体に嫌な思いがあって、恋愛できてないなら、なんか変に罪悪感あるし。」
「…そうちゃん。」
「もし、何か抱えてんなら俺が一番解決できるんじゃないかなって。自意識過剰かもだし、キモいかもだけど。」
「…まじで…。どんだけ優しいんだよぉ。罪悪感で死にたくなっちゃうじゃん。」
「ふんっ、苦しめ苦しめ!」

そうちゃんは昔のように雫に笑いかけた。雫も泣きたいような嬉しいような気持ちになった。

「…でさ、俺的に思ったんだけど、雫ってLGBTQの人なんかなって…。」
「え?」
「ほら、ソウイウコトしそうになった時に、急にだったろ?自分の性に目覚めたとかなんかなって…。」
「うん。ごめん。全然違うわ。」
「そ、そうか。…じゃあ、やっぱ俺の…」
「ストップ!そうちゃん、ちゃんと話すから頭にあるもの一旦消して?」

そうちゃん。もはやこじらせの真骨頂に達している。もう何にでも可能性を見出しているのかもしれない。ニュースでよく聞くようになったLGBTQ。セクシャルにも多様性ができた時代だ。そうなっても無理もない。
 雫はそうちゃんに初恋こじらせの話をした。そうちゃんは何も言わずに聞いていた。ただ雫をずっと見ていた。

「…って感じです……。」
「…………はぁ………。」
「……うーん…。」
「え、待って。俺、雫のこじらせが原因でこじらせたってこと?」
「ご名答です…。」
「え、まじで?…なんだそれ。俺のキャンパスライフ……。俺、二十二になっても童貞、卒業できてないんだぞ!?」

そうちゃんは立ち上がり、恥もなくして雫に抗議をした。真剣に恥を晒したそうちゃんに雫もムッとする。そして立ち上がったそうちゃんを見上げた。ここに来て初めて目があった。

「…それ言ったら、私もそうちゃんに裸見られてから誰にも見せてないし…。処女のままだよ。」
「なっ!!」
「え?」
「…ごめん、不覚にも今少しムラっと…。」
「すんません…。発言に気をつけます。」
「…ほんとだよ……。」

落ち着いたのか、そうちゃんは再び雫の横に座った。

「で、同窓会で話せそうなん?」
「…中学の同窓会では緊張しすぎて、全然だった…。」
「大丈夫かよ……。」

そうちゃんはまた俯いた雫の顎を大きな掌で鷲掴みした。

「頑張れよ。人の初恋奪っておいて、負けたら許さねぇからな?」
「…ん?はふほい…?」
「ハハッ!今のすげーバカっぽい!うける!」
「ちょっと!!」

雫がそうちゃんの手を振り解くと、そうちゃんは満足そうに立ち上がった。

「彼女は雫の前にもいたはいたけどさ、ちゃんと好きになったの雫が初めてだったから。だから俺の初恋は…」

そういうとそうちゃんは雫の鼻を軽く掴んで頭を撫でた。

「…そうだったんだ。」
「おん。…まあ、今日でそれも終わり。俺は遅れ取り戻すために新しい彼女と幸せになりますわ。」
「うん。おめでとう。」
「……ドラマとかだったら、潔く『これからは友達で』とか言うんだろうけど、やめとくわ。本当は今日、唾でも吐いて泣かせてやろって思ってたのに、また好きになりかけてる。かと言ってもまた何年も雫のこと待ってらんねぇし。…だから、じゃあな。」
「…うん。今まで、ありがとう。」
「はい。ありがとうございました!じゃ!」

そうちゃんは本来の笑顔を取り戻し、雫を置いて出ていく。雫はしばらくその場で空を仰いだ。そうちゃんのように勇気を出せれたなら…。

(…そうちゃんが良い人で良かった。不覚にも背中を押されてしまった…気がする。)

雫はそうちゃんの去った方向を見る。

(ごめんね…。そうちゃん。ありがとう。)

人に傷つけられ、人を傷つけ。人生メモリアルに残る経験だった。がんばれ。雫。

 家に帰り、風呂を済ませ眠りにつく頃、迅からのメッセージが返ってきた。雫は通知音と共に携帯を開く。雫が先ほど送ったメッセージは『蓮のこと美月ちゃんから聞いた。なんで言わんのよ~。』だ。そして、迅からの返信は、

『ごめーん、忘れてたわ~。』

「なんだそれ。誰が誰のためにやるって言ってたんだよ。」

ピロン

『席順については、蓮の隣を用意して差し上げましょう!』

「え!ガチ!やった!…あ、り、が、と、う、っと。」

 雫は迅に疑問が残るものの、まあいっかと胸を撫で下ろし、ゆっくりと眠りについた。
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