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言いかけた何か
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時はさらに経ち、すでに秋。何かロマンティックな事件が起きるかもしれないと思っても起きるもんじゃない学園祭も終わり、即席リア充のマジックも冷め始め、失恋の時期になる。
雫はキャンパス内にあるイートインコーナーにいた。彼氏と連絡をとっている成美の横で、空になったオレンジジュースの紙パックを吸い上げていた。
「雫。」
「ズーーーーーー…」
「雫。」
「ズーーーーーーーーー…」
「雫!お行儀悪いからやめて!!」
「あ!……ごめん。」
「最近、ぼーっとするの増えたよね。どうかした?」
「うーん…。」
雫は先ほど視線を向けていた方に向き直る。成美はその雫の視線を追った。その先の窓の外にいるのはそうちゃん。と新しくできた彼女だ。雫とは違う、可愛らしくてウサギみたいな女の子だ。二人とも破局していくリア充に逆行するようにラブラブだ。
「はっはーん。逃した魚は大きいって感じ?罰当たりなことするからだよ。こじらせ女子!」
「…うーん。そうじゃなくてさ、」
「え?違うの?」
「蓮のタイプってああいうウサギタイプのなのかなって。…ねぇ、なる…。好きな人がどんな人好きなのかも知らないよ~…。」
「はぁ…。もう好きな人って言っちゃってるし。うーん。こうなったら、講座だな。」
「え?もうそんな時間?」
「そうじゃなくて、『恋愛講座』。計画、立てちゃおう。」
「え~~!!なるみさまぁぁあ!!」
「わかったわかった!わかったからゴミ咥えながら抱きつかないで!」
成美の恋愛講座。歴代の好きになった男を落とすため、ありとあらゆる努力を惜しまなかった成美のテクニック講座だ。恋愛経験値ほぼゼロの雫にとってこれほどまでに強い味方はいないだろう。
「いい?雫はすでに初対面ではないし、一度振られてるでしょ?だから雫にとって武器になるのは『ギャップ』だよ。」
「ギャップ?」
「そう。ゴリゴリのヤンキーが道端のゴミを拾ったとか。ギャルがめちゃくちゃ頭いいとか。クールな男の笑顔が意外と可愛かったりとか。ガサツな女だと思ってたら結構家庭的だったとか。」
「ほうほう。」
「雫はさ、小中とどんな女の子だったの?」
「うーん、オシャレに無頓着なひねくれ女子?」
「へ~、意外。今はこんなに可愛いのにね。」
「えへへ~…。」
「うふふ…って笑ってる場合か!綺麗になったのは一回成人式でネタバレしてるから手札としては弱い。もちろんその時より雫は綺麗になってるかもしれないけどね?」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「あとは…あ。髪は?どんなだった?」
「えっとね、基本ロングだったかな。癖っ毛だからショートにすると爆発するんだよね。」
「へ~、今もロングなのはそのせい?」
「ううん。巻いてればとりあえずオシャレに見えるかなってだけ~。」
「あ、そう。…じゃあさ、思いっきり切ってみる?」
「いやいやいや!爆発しちゃうんだって!」
「大丈夫、大丈夫。この時代だよ?どうとでもなる商品もあるし、もし心配なら当日に私がしてあげるって。」
「え、でも結構勇気いるよ~。」
「話しかける勇気よりも?」
「それは……。」
「お願い!一旦信じてみてよ!私の見立てだと絶対似合うと思う!ショートボブ!」
雫は成美の押しに弱い。こう言い始めると引かないのが成美だ。しばらく考え込んだあと雫は決心した。
「わかった!でもすぐに切る!」
「え?でも、同窓会は年明けでしょ?」
「だからだよ。切ったら髪って戻るのに時間いるし、もし気に入らなかったら、それまでの間に伸びるし、最悪エクステできるじゃん?」
「確かにね。…じゃあ、今度の休日、一緒に美容院行こうよ!」
「え、なるも切るの?」
「なんか私も切りたくなっちゃった!それに雫の誕生日も近いしさ。一緒に誕生日会もしちゃお!あそこのモール、最近行ってないし、そこにも行こうよ!」
「いいね!楽しみ!」
成美の唐突なビューティー計画が立てられ、後日、雫と成美はクーポンを使って美容院で髪を切った。人生で一番短くしたかもしれない。でも、思ったより爆発しない。というよりむしろロングよりいいのでは?成美の目は間違っていなかったのだ。
「え、なんか、私、こっちの方が可愛いかも…!」
「ほら!言ったじゃん!」
「おー!なるも可愛くなってる!髪切ると明るくなるね~!」
「でしょー?雫は色気出てきたんじゃな~い?ショートで前髪流してるのめっちゃ大人って感じ!私も前髪伸ばそうかな~。」
「え~、そんな褒められたら調子乗っちゃうじゃ~ん!」
「今日くらいは調子乗ろっ!!よし!次はモールにレッツゴー!」
「レッツゴー!」
それから二人はモールでたくさんのアパレルショップに寄った。雫はここ最近のトレンドに疎い。今の流行りに感心し、可愛らしい服に目を輝かせた。しかしどれも大学生のバイト代では高額。同窓会用に買う冬服のために温存だ。
「同窓会前に一緒に服買いに行こう。なんか私も燃えてきっちゃった!!」
「なる…。もう、本当に大好き!!」
外も暗くなった頃。時間をかけて見た割には手提げが増えなかった二人は成美が予約しておいたモール内のイタリア料理店に入る。女の子ってすごいよね。毎日一緒にいるのに、一日中喋ってるのに、話題が一切尽きない。おしゃれして装っても話題は洒落っ気のないくだらないことばかり。でも、その時間が大人になって寂しさを感じる時、心を救う思い出になるんだ。きっと青春って派手な恋愛や意義のある活動、燃え上がる受験闘争にだけあるものじゃない。こういうちょっとしたくだらない時間が振り返った時にキラキラとかが輝くんだろうと思う。だから学生の諸君、くだらないことを躊躇いなくしてほしい。何もかもにも冷めていてると、大人になった時の虚無感と喪失感がかなり大ダメージになって返ってくるぞ!!
二人が食事を終えると、ゆっくりと店内が暗転した。スタッフたちのハッピーバースデーの歌と共にパチパチと輝く花火がついたケーキが雫の前に運ばれた。周りのお客さんも雫の方を見て拍手をしてくれる。
「雫ちゃん!お誕生日おめでとう!!」
「あれ!?石井くん!?」
「ふふっ、ここ彼氏のバ先。」
「あ~、そうなんだ。」
「雫。お皿の字読んで。」
「ん?」
『こじらせ女子!初恋奪還ファイト!!』
「何これ!?」
「むーちゃんが書いてくれたの。知らない人に書かれるの恥ずかしいでしょ?」 ※むーちゃん…石井くん
「いやぁ、友達の彼氏に書かれるのも恥ずかしいけどなぁ。」
「まぁまぁ、そう言わないで。」
店内の明かりがつき、石井くんは二人に手を振ると仕事に戻った。
「まだまだあるよ!…はい!雫!お誕生日おめでとう!」
成美は雫にワイン色の高そうな包装紙に包まれたプレゼントを渡した。
「ウソー!嬉しすぎ!ありがとう…。開けていい?」
「もちろん!」
袋を開けるとそこにはブランドもののリップスティックが入っていた。色は雫が買ったことのない色の口紅だ。一般的なルージュよりも深いように見えるが、完全に大人っぽいという訳ではなく、可愛らしさも残る色味だ。
「えー!可愛い!…なんかいい匂いする女の人の色って感じ。」
「例えがなんか変態なんだよな~………いや、嗅ぐな嗅ぐな。そのリップは匂いついてないから!」
「なる。これ、高かったんじゃないの?」
「…まぁね。」
「感謝通り越して申し訳なくなってきた。」
「なんでよ。喜びだけで受け取って。…この前さ、雫の初恋に対して結構きついこと言っちゃったの、ちょっと後悔しててさ。雫の大切な思い出なのに…。ごめんなさい!」
「いいよ!いいよ!なるは私のこと思ってくれてるってすごく伝わったから!」
「ううん。口出したんだもん。最後まで責任とって応援するよ。…そのリップ塗って、大人の色気で落としちゃお!」
「……うん!私、頑張る!!頑張っちゃう!!」
「その息だ!こじらせ女子、ファイト!」
二人は誕生日会を終え、その場で解散した。成美は石井くんのバイトが終わるのを待つらしく、隣のカフェに入って行った。雫は一人、駐車場へと向かう。こうやって店を見回るとかなり服を見たんだなと思う。とても充実した時間だった。なのに手持ちのバッグと成美からのプレゼント以外は手提げなし。心なしか得した気になった。ある程度、歩くと向かい側から懐かしい顔が見えた。
「あれ?未来?」
「……雫ちゃん?えー、髪切ったの!?全然気づかなかった!大人っぽい!」
「ほんと?ありがとうー!未来は一人で来てるの?」
「うん。ここのスーパーの割引券使いたくて。」
雫は目線を落とす。未来の手元には大きな手提げ袋があった。ネギの緑の部分が顔を覗かせている。まるで主婦。未来は地元の実家を出て市街に彼氏と同棲している。彼氏は中学からの同級生で雫とも顔馴染みの仲だ。今は高校を卒業してから立ち上げた会社の社長としてバリバリ働いている。未来は去年専門学校を卒業し、美容師として働いている。
「なんか、もう奥さんの風格出てるね~。」
「そうかな~?でも、うん。もうすぐ結婚するよ。…実はね、まだ誰にも言わないで欲しいんだけど。」
「うん?」
「…この前、妊娠がわかって…。」
「え!?おめでとう!!」
「ありがと~。」
「じゃあ、同窓会の時はだいぶお腹大きくなってるんじゃない?」
「うん。だから妊婦用の服を買わないとなんだよね。」
「そっか~。無理して誘っちゃってごめんね。」
「いいの、いいの。雫ちゃんにはいつも助けてもらってるし。」
実は未来と未来の彼氏が出会ったきっかけは雫だ。またその話は別の時に。
「なんか立ち話しちゃったね。せっかくだし、どっか入る?」
「うん…。うーん、ごめんね。電車で帰るから早く帰らないとなんだ。」
「え?電車?車持ってなかったっけ?」
「今日はね、彼氏が乗ってってるの。」
(…え?妊婦が車乗らないで、男は車に乗るの?…)
「…あ、勘違いしないでね!私が乗って行っていいよって言ったの。まだそんな苦しくないし。彼氏も商談とかで車使えないと困るみたいで。もうすぐで中古車も買うし。」
「あ!うん。そうだよね。未来の彼氏だもん、そんな心配することないよね。ごめん、ごめん。一瞬心配しちゃった。」
(あぶね~。余計なお世話かくとこだった…。)
「それだったら乗せてくよ。まだまだ話したいし。」
「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて、」
二人は肩を並べて駐車場の方に向かった。雫はさりげなく未来の大きな買い物袋を持つ。買い物をしてなくて良かったと改めて思った。そういえばこうやって未来と二人で話すのは久しぶりだ。中学を卒業してからは極たまに玲那と須美と四人で集まったが、中学の時のように二人で話したのは一、二回程度しかない。それも高校時代だ。でも、幼馴染の中で言えば一番気が合ったのは未来だった。きっと玲那や須美と違って同じ部活だったのもあるが、小学生の時から哲学的な話から人生観を真面目に語り合える仲はかなり貴重だったこともある。しかし、未来が彼氏と付き合い始めた大学一年の頃から共感できるものや普段の会話の話題が変わってしまったため自然と疎遠になっていった。
「こうしてると急に自分が中学生に戻った気になっちゃうなぁ。」
「本当?…私はもうあの頃のこと色々忘れちゃったよ。」
「でも彼氏といると延長線上って感じしないの?」
「うーん、中学の時から仲良い訳じゃないし、ちゃんと意識したの専門に入った時からだからなぁ。」
「そっか。そういうもんなのね~。」
「うん。」
二人の間にしばらく沈黙する。そうだ。今更気づいたけど、話題がない!!…とりあえず聞き手に回るか。
「未来はさ、どうして『この人だ!』ってなったの?」
「ん?あー…、なんでかって聞かれると色々あるんだけど。一番最初に、『あ、この人と結婚するだろうな』ってなったのは私の気づかない部分を気づく人だなって思った時。」
「それは同棲してからってこと?」
「ううん。その前から。ほんとにちょっとしたことから将来のことまでさ、ふとした瞬間に思うんだ。向こうもそう思ってくれてるみたい。お互いで補完しあってる感じ。」
「なんか、素敵~。いいなぁ。」
「ここだけ切り取ればね?逆に言えば、気づいてよ!察してよ!っていうのは結構疎いの。お互いの思考の軸が違うんだろうね。同棲してからは痛いほどそれを感じる。くだらないことで喧嘩もするよ?…一回本当に別れそうな時もあったな~。でも、そういうの一つずつ乗り越えて今はやっと二人でって形になった気がするよ。元々違う環境で育ってる人間同士でしょ?どんな人と付き合ってもそういう楽しくない時間は絶対にあるから。その楽しくない時間も含めて一緒になりたいかだと思うんだ。」
「……なんか、大人…。」
この時、雫はなんだか自分がちっぽけに思えてしまった。自分が初恋に引っ張られている間に同じ歳の友人はどんどん先に行っている。もしかしたら蓮だってそうかもしれない。気づいたら勝手にエモくなって、チルくなって。その思い出にはもう雫一人しかいないのかもしれない。誰も覚えていない、共感もできない思い出に一人取り残されているような気がした。
「雫ちゃん。」
「……ん?あぁ、ごめん。ぼーっとしちゃった。」
「今、自分のこと低く見てたでしょ?」
「え?なんで?」
「顔に出てたよ。せっかくイメチェンしたのに勿体ないよ!堂々としてないと!」
「…ふふっ。うん。ありがと。」
二人は雫の赤い車に着いた。未来を助手席に座らせ、後部座席に荷物を置くと運転席に乗り込みエンジンをかける。未来のアパートまで車を走らせた。
「…雫ちゃんがさ、蓮くんのことをまだ忘れられないのはさ、中途半端に仲が良かったからでしょ?なんか二人とも喋ってないのにお互いがお互いを気にしてる感すごかったし。」
「それは…多分お互い気まずかったからじゃない?ラブレターの件で。」
「小学校の時からだよ。二人とも誰よりも一緒にいたって感じでもないでしょ?なのに誰にも入れない空気感みたいなの、あったよ。思い出会の時とかにみんななんとなく感じてたと思う。それが恋愛なのかはわかんないけど。」
「…そっか。そうだったんだ……。」
「だから今度頑張ったらワンチャンあるかもだしね!」
「…うん!さっき大学の友達からも応援されたんだよね。ワンチャンにかけて初恋再燃!それができなくても、ちゃんと失恋し直してくる。」
「うん。…あ!通じ合ってる時の話だけどさ、この前、園芸部の先輩に会って聞いたんだけどね。あの時。蓮くんが雫ちゃんの水やり当番の時にペアだったその先輩と交代した時!その裏話聞いたの!」
「え?」
ーーーーーー
中学二年の頃。もう蓮と心愛ちゃんが付き合い始めて随分経った頃。その日は雫の水やり当番。相手は二年の男の先輩のはずだった。しかし放課後、園芸部が所有している花壇のところに現れたのは、蓮だった。
「え?あれ?水嶋先輩は?」
「…代わってもらった。…俺の次の当番の日。母さんの病院だから。」
「…そっか。」
蓮の母・弓月は心臓疾患持ちで昔から通院している。ちなみに病院は尚美が医師として勤めている市民病院だ。
雫の言葉を最後に二人は黙ったまま水やりと草抜き、観察記録をつける。雫は時々、蓮に視線を送ったが蓮と目が合うことはなかった。
「…もう当番の名前、書いといたから。」
「あ、ありがとう…。」
蓮はバインダーに挟まれた日誌を雫に手渡す。いつもの日誌の当直名欄に『若宮 雫』と『坂野 蓮』の名前が並ぶ。蓮の字は昔から綺麗だ。蓮の字で自分の名前が書かれるのがなんだかくすぐったい。
「………。」
「………。」
「「あのさ、」」
急なハモリに驚く。二人はやっと目が合った。雫は咄嗟に先を譲った。
「あ、ごめん!…先いいよ。」
「………今での忘れたから、いいよ。」
「あ…。えっと……」
「………。」
「…スキナハナトカアリマスカ?」
「は…?」
(え、何言ってんの。私。バカなの?引いてるじゃん…。なんでいつもチャンスって時に余裕なくなんのっ!)
「…彼岸花。」
「え?」
「だから、彼岸花。通学路によく咲いてるやつ。」
「…あー…、綺麗だよね。彼岸花。」
「…もういい?」
「あ、うん。ごめん、引き留めて。」
「…別にそんなつもりじゃ……。」
二人にまた気まずい空気が流れる。その時、五時を告げるチャイムが鳴った。
「…あ!」
「え、なに?」
「やばいやばい!今日、西先生早く帰るんだった!…提出してくるね!今日はありがとう!じゃあ!」
「………。」
雫はバズーカーの如く一方的に喋りながら荷物をまとめ、半ば蓮から逃げるように職員室に向かった。
ーーーーーー
「あった、あった!懐かしいなぁ。あの時も結局、何も話せなかったなぁ。」
「その時の裏話を聞いたの。」
「え~、どんな?」
「蓮くんが水嶋先輩に会いに教室に来たんだって。その当日にだよ?急すぎじゃない?でね……
ーーーーーー
「水嶋先輩。今いいですか?」
「ん?はーい!」
昼休み。二年の教室に訪れた蓮は水嶋先輩を呼んだ。先輩曰く、この時の蓮はどこか焦った様子だったという。
「どうした?」
「今日の当番の相手って若宮ですよね?」
「あぁ、おん。どうした?」
「代わってもらえませんか?」
「え、俺は別にいいけど。どこの日と代わる?」
「いいですよ。二重でやりますから。」
「そうもいかないでしょう?後輩いびってるみたいじゃん。」
「…じゃあ、俺の当番が直近で十二日なんでその日で大丈夫ですか?」
「オッケー。…何?浮気?心愛ちゃんが怒るんじゃないの~??女の恨みはこえーぞー?」
「そんなんじゃないっす。…ありがとうございました。失礼します。」
そういうと蓮はすぐさま帰ったという。
「…何考えてんのかわかんねー奴。」
「副部長~、何?揉め事?」
「えー、そんなじゃないよ~?園芸部で揉め事とか絶対起きる訳ないじゃ~ん!」
ーーーーーー
「……なんだって。ね?絶対に蓮くん、雫ちゃんに会いに行ったんだよ!」
「………。」
思い出に浸りながら話していたらいつの間にか未来のアパートに着いていた。(※危ないので運転中は集中しましょう。)
約八年ぶりのネタバラシ。どんなリアクションをするのが正解なんだろうか。
(あ。そうか。あの時、何か言いかけてたんだ…。私がちゃんと聞かなかったから…。)
「雫ちゃん…?」
「…え?あー、そうだね。もし同窓会で打ち解けたら聞いてみようかな。」
「…うん。そうだね。」
雫は車を停め、後部座席から荷物を下ろすと助手席の未来を下ろし、玄関の前まで送った。
「色々、ありがと。またゆっくり電話でも。」
「うん。ありがとう。おやすみ~。気をつけて帰ってね。」
「は~い。」
雫は未来が無事に入ったことを確認すると、再び車を走らせた。未来からの今更なネタバラシに戸惑いが消えない。もう同窓会まで待てない気持ちも出てきた。この調子で蓮ともばったり会えないだろうか。
(いや。会っても、どうせ声かけられずに眺めて終わりだな…。)
自分の意気地のなさにイライラする雫であった。
雫はキャンパス内にあるイートインコーナーにいた。彼氏と連絡をとっている成美の横で、空になったオレンジジュースの紙パックを吸い上げていた。
「雫。」
「ズーーーーーー…」
「雫。」
「ズーーーーーーーーー…」
「雫!お行儀悪いからやめて!!」
「あ!……ごめん。」
「最近、ぼーっとするの増えたよね。どうかした?」
「うーん…。」
雫は先ほど視線を向けていた方に向き直る。成美はその雫の視線を追った。その先の窓の外にいるのはそうちゃん。と新しくできた彼女だ。雫とは違う、可愛らしくてウサギみたいな女の子だ。二人とも破局していくリア充に逆行するようにラブラブだ。
「はっはーん。逃した魚は大きいって感じ?罰当たりなことするからだよ。こじらせ女子!」
「…うーん。そうじゃなくてさ、」
「え?違うの?」
「蓮のタイプってああいうウサギタイプのなのかなって。…ねぇ、なる…。好きな人がどんな人好きなのかも知らないよ~…。」
「はぁ…。もう好きな人って言っちゃってるし。うーん。こうなったら、講座だな。」
「え?もうそんな時間?」
「そうじゃなくて、『恋愛講座』。計画、立てちゃおう。」
「え~~!!なるみさまぁぁあ!!」
「わかったわかった!わかったからゴミ咥えながら抱きつかないで!」
成美の恋愛講座。歴代の好きになった男を落とすため、ありとあらゆる努力を惜しまなかった成美のテクニック講座だ。恋愛経験値ほぼゼロの雫にとってこれほどまでに強い味方はいないだろう。
「いい?雫はすでに初対面ではないし、一度振られてるでしょ?だから雫にとって武器になるのは『ギャップ』だよ。」
「ギャップ?」
「そう。ゴリゴリのヤンキーが道端のゴミを拾ったとか。ギャルがめちゃくちゃ頭いいとか。クールな男の笑顔が意外と可愛かったりとか。ガサツな女だと思ってたら結構家庭的だったとか。」
「ほうほう。」
「雫はさ、小中とどんな女の子だったの?」
「うーん、オシャレに無頓着なひねくれ女子?」
「へ~、意外。今はこんなに可愛いのにね。」
「えへへ~…。」
「うふふ…って笑ってる場合か!綺麗になったのは一回成人式でネタバレしてるから手札としては弱い。もちろんその時より雫は綺麗になってるかもしれないけどね?」
「じゃあ、どうしたらいいの?」
「あとは…あ。髪は?どんなだった?」
「えっとね、基本ロングだったかな。癖っ毛だからショートにすると爆発するんだよね。」
「へ~、今もロングなのはそのせい?」
「ううん。巻いてればとりあえずオシャレに見えるかなってだけ~。」
「あ、そう。…じゃあさ、思いっきり切ってみる?」
「いやいやいや!爆発しちゃうんだって!」
「大丈夫、大丈夫。この時代だよ?どうとでもなる商品もあるし、もし心配なら当日に私がしてあげるって。」
「え、でも結構勇気いるよ~。」
「話しかける勇気よりも?」
「それは……。」
「お願い!一旦信じてみてよ!私の見立てだと絶対似合うと思う!ショートボブ!」
雫は成美の押しに弱い。こう言い始めると引かないのが成美だ。しばらく考え込んだあと雫は決心した。
「わかった!でもすぐに切る!」
「え?でも、同窓会は年明けでしょ?」
「だからだよ。切ったら髪って戻るのに時間いるし、もし気に入らなかったら、それまでの間に伸びるし、最悪エクステできるじゃん?」
「確かにね。…じゃあ、今度の休日、一緒に美容院行こうよ!」
「え、なるも切るの?」
「なんか私も切りたくなっちゃった!それに雫の誕生日も近いしさ。一緒に誕生日会もしちゃお!あそこのモール、最近行ってないし、そこにも行こうよ!」
「いいね!楽しみ!」
成美の唐突なビューティー計画が立てられ、後日、雫と成美はクーポンを使って美容院で髪を切った。人生で一番短くしたかもしれない。でも、思ったより爆発しない。というよりむしろロングよりいいのでは?成美の目は間違っていなかったのだ。
「え、なんか、私、こっちの方が可愛いかも…!」
「ほら!言ったじゃん!」
「おー!なるも可愛くなってる!髪切ると明るくなるね~!」
「でしょー?雫は色気出てきたんじゃな~い?ショートで前髪流してるのめっちゃ大人って感じ!私も前髪伸ばそうかな~。」
「え~、そんな褒められたら調子乗っちゃうじゃ~ん!」
「今日くらいは調子乗ろっ!!よし!次はモールにレッツゴー!」
「レッツゴー!」
それから二人はモールでたくさんのアパレルショップに寄った。雫はここ最近のトレンドに疎い。今の流行りに感心し、可愛らしい服に目を輝かせた。しかしどれも大学生のバイト代では高額。同窓会用に買う冬服のために温存だ。
「同窓会前に一緒に服買いに行こう。なんか私も燃えてきっちゃった!!」
「なる…。もう、本当に大好き!!」
外も暗くなった頃。時間をかけて見た割には手提げが増えなかった二人は成美が予約しておいたモール内のイタリア料理店に入る。女の子ってすごいよね。毎日一緒にいるのに、一日中喋ってるのに、話題が一切尽きない。おしゃれして装っても話題は洒落っ気のないくだらないことばかり。でも、その時間が大人になって寂しさを感じる時、心を救う思い出になるんだ。きっと青春って派手な恋愛や意義のある活動、燃え上がる受験闘争にだけあるものじゃない。こういうちょっとしたくだらない時間が振り返った時にキラキラとかが輝くんだろうと思う。だから学生の諸君、くだらないことを躊躇いなくしてほしい。何もかもにも冷めていてると、大人になった時の虚無感と喪失感がかなり大ダメージになって返ってくるぞ!!
二人が食事を終えると、ゆっくりと店内が暗転した。スタッフたちのハッピーバースデーの歌と共にパチパチと輝く花火がついたケーキが雫の前に運ばれた。周りのお客さんも雫の方を見て拍手をしてくれる。
「雫ちゃん!お誕生日おめでとう!!」
「あれ!?石井くん!?」
「ふふっ、ここ彼氏のバ先。」
「あ~、そうなんだ。」
「雫。お皿の字読んで。」
「ん?」
『こじらせ女子!初恋奪還ファイト!!』
「何これ!?」
「むーちゃんが書いてくれたの。知らない人に書かれるの恥ずかしいでしょ?」 ※むーちゃん…石井くん
「いやぁ、友達の彼氏に書かれるのも恥ずかしいけどなぁ。」
「まぁまぁ、そう言わないで。」
店内の明かりがつき、石井くんは二人に手を振ると仕事に戻った。
「まだまだあるよ!…はい!雫!お誕生日おめでとう!」
成美は雫にワイン色の高そうな包装紙に包まれたプレゼントを渡した。
「ウソー!嬉しすぎ!ありがとう…。開けていい?」
「もちろん!」
袋を開けるとそこにはブランドもののリップスティックが入っていた。色は雫が買ったことのない色の口紅だ。一般的なルージュよりも深いように見えるが、完全に大人っぽいという訳ではなく、可愛らしさも残る色味だ。
「えー!可愛い!…なんかいい匂いする女の人の色って感じ。」
「例えがなんか変態なんだよな~………いや、嗅ぐな嗅ぐな。そのリップは匂いついてないから!」
「なる。これ、高かったんじゃないの?」
「…まぁね。」
「感謝通り越して申し訳なくなってきた。」
「なんでよ。喜びだけで受け取って。…この前さ、雫の初恋に対して結構きついこと言っちゃったの、ちょっと後悔しててさ。雫の大切な思い出なのに…。ごめんなさい!」
「いいよ!いいよ!なるは私のこと思ってくれてるってすごく伝わったから!」
「ううん。口出したんだもん。最後まで責任とって応援するよ。…そのリップ塗って、大人の色気で落としちゃお!」
「……うん!私、頑張る!!頑張っちゃう!!」
「その息だ!こじらせ女子、ファイト!」
二人は誕生日会を終え、その場で解散した。成美は石井くんのバイトが終わるのを待つらしく、隣のカフェに入って行った。雫は一人、駐車場へと向かう。こうやって店を見回るとかなり服を見たんだなと思う。とても充実した時間だった。なのに手持ちのバッグと成美からのプレゼント以外は手提げなし。心なしか得した気になった。ある程度、歩くと向かい側から懐かしい顔が見えた。
「あれ?未来?」
「……雫ちゃん?えー、髪切ったの!?全然気づかなかった!大人っぽい!」
「ほんと?ありがとうー!未来は一人で来てるの?」
「うん。ここのスーパーの割引券使いたくて。」
雫は目線を落とす。未来の手元には大きな手提げ袋があった。ネギの緑の部分が顔を覗かせている。まるで主婦。未来は地元の実家を出て市街に彼氏と同棲している。彼氏は中学からの同級生で雫とも顔馴染みの仲だ。今は高校を卒業してから立ち上げた会社の社長としてバリバリ働いている。未来は去年専門学校を卒業し、美容師として働いている。
「なんか、もう奥さんの風格出てるね~。」
「そうかな~?でも、うん。もうすぐ結婚するよ。…実はね、まだ誰にも言わないで欲しいんだけど。」
「うん?」
「…この前、妊娠がわかって…。」
「え!?おめでとう!!」
「ありがと~。」
「じゃあ、同窓会の時はだいぶお腹大きくなってるんじゃない?」
「うん。だから妊婦用の服を買わないとなんだよね。」
「そっか~。無理して誘っちゃってごめんね。」
「いいの、いいの。雫ちゃんにはいつも助けてもらってるし。」
実は未来と未来の彼氏が出会ったきっかけは雫だ。またその話は別の時に。
「なんか立ち話しちゃったね。せっかくだし、どっか入る?」
「うん…。うーん、ごめんね。電車で帰るから早く帰らないとなんだ。」
「え?電車?車持ってなかったっけ?」
「今日はね、彼氏が乗ってってるの。」
(…え?妊婦が車乗らないで、男は車に乗るの?…)
「…あ、勘違いしないでね!私が乗って行っていいよって言ったの。まだそんな苦しくないし。彼氏も商談とかで車使えないと困るみたいで。もうすぐで中古車も買うし。」
「あ!うん。そうだよね。未来の彼氏だもん、そんな心配することないよね。ごめん、ごめん。一瞬心配しちゃった。」
(あぶね~。余計なお世話かくとこだった…。)
「それだったら乗せてくよ。まだまだ話したいし。」
「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて、」
二人は肩を並べて駐車場の方に向かった。雫はさりげなく未来の大きな買い物袋を持つ。買い物をしてなくて良かったと改めて思った。そういえばこうやって未来と二人で話すのは久しぶりだ。中学を卒業してからは極たまに玲那と須美と四人で集まったが、中学の時のように二人で話したのは一、二回程度しかない。それも高校時代だ。でも、幼馴染の中で言えば一番気が合ったのは未来だった。きっと玲那や須美と違って同じ部活だったのもあるが、小学生の時から哲学的な話から人生観を真面目に語り合える仲はかなり貴重だったこともある。しかし、未来が彼氏と付き合い始めた大学一年の頃から共感できるものや普段の会話の話題が変わってしまったため自然と疎遠になっていった。
「こうしてると急に自分が中学生に戻った気になっちゃうなぁ。」
「本当?…私はもうあの頃のこと色々忘れちゃったよ。」
「でも彼氏といると延長線上って感じしないの?」
「うーん、中学の時から仲良い訳じゃないし、ちゃんと意識したの専門に入った時からだからなぁ。」
「そっか。そういうもんなのね~。」
「うん。」
二人の間にしばらく沈黙する。そうだ。今更気づいたけど、話題がない!!…とりあえず聞き手に回るか。
「未来はさ、どうして『この人だ!』ってなったの?」
「ん?あー…、なんでかって聞かれると色々あるんだけど。一番最初に、『あ、この人と結婚するだろうな』ってなったのは私の気づかない部分を気づく人だなって思った時。」
「それは同棲してからってこと?」
「ううん。その前から。ほんとにちょっとしたことから将来のことまでさ、ふとした瞬間に思うんだ。向こうもそう思ってくれてるみたい。お互いで補完しあってる感じ。」
「なんか、素敵~。いいなぁ。」
「ここだけ切り取ればね?逆に言えば、気づいてよ!察してよ!っていうのは結構疎いの。お互いの思考の軸が違うんだろうね。同棲してからは痛いほどそれを感じる。くだらないことで喧嘩もするよ?…一回本当に別れそうな時もあったな~。でも、そういうの一つずつ乗り越えて今はやっと二人でって形になった気がするよ。元々違う環境で育ってる人間同士でしょ?どんな人と付き合ってもそういう楽しくない時間は絶対にあるから。その楽しくない時間も含めて一緒になりたいかだと思うんだ。」
「……なんか、大人…。」
この時、雫はなんだか自分がちっぽけに思えてしまった。自分が初恋に引っ張られている間に同じ歳の友人はどんどん先に行っている。もしかしたら蓮だってそうかもしれない。気づいたら勝手にエモくなって、チルくなって。その思い出にはもう雫一人しかいないのかもしれない。誰も覚えていない、共感もできない思い出に一人取り残されているような気がした。
「雫ちゃん。」
「……ん?あぁ、ごめん。ぼーっとしちゃった。」
「今、自分のこと低く見てたでしょ?」
「え?なんで?」
「顔に出てたよ。せっかくイメチェンしたのに勿体ないよ!堂々としてないと!」
「…ふふっ。うん。ありがと。」
二人は雫の赤い車に着いた。未来を助手席に座らせ、後部座席に荷物を置くと運転席に乗り込みエンジンをかける。未来のアパートまで車を走らせた。
「…雫ちゃんがさ、蓮くんのことをまだ忘れられないのはさ、中途半端に仲が良かったからでしょ?なんか二人とも喋ってないのにお互いがお互いを気にしてる感すごかったし。」
「それは…多分お互い気まずかったからじゃない?ラブレターの件で。」
「小学校の時からだよ。二人とも誰よりも一緒にいたって感じでもないでしょ?なのに誰にも入れない空気感みたいなの、あったよ。思い出会の時とかにみんななんとなく感じてたと思う。それが恋愛なのかはわかんないけど。」
「…そっか。そうだったんだ……。」
「だから今度頑張ったらワンチャンあるかもだしね!」
「…うん!さっき大学の友達からも応援されたんだよね。ワンチャンにかけて初恋再燃!それができなくても、ちゃんと失恋し直してくる。」
「うん。…あ!通じ合ってる時の話だけどさ、この前、園芸部の先輩に会って聞いたんだけどね。あの時。蓮くんが雫ちゃんの水やり当番の時にペアだったその先輩と交代した時!その裏話聞いたの!」
「え?」
ーーーーーー
中学二年の頃。もう蓮と心愛ちゃんが付き合い始めて随分経った頃。その日は雫の水やり当番。相手は二年の男の先輩のはずだった。しかし放課後、園芸部が所有している花壇のところに現れたのは、蓮だった。
「え?あれ?水嶋先輩は?」
「…代わってもらった。…俺の次の当番の日。母さんの病院だから。」
「…そっか。」
蓮の母・弓月は心臓疾患持ちで昔から通院している。ちなみに病院は尚美が医師として勤めている市民病院だ。
雫の言葉を最後に二人は黙ったまま水やりと草抜き、観察記録をつける。雫は時々、蓮に視線を送ったが蓮と目が合うことはなかった。
「…もう当番の名前、書いといたから。」
「あ、ありがとう…。」
蓮はバインダーに挟まれた日誌を雫に手渡す。いつもの日誌の当直名欄に『若宮 雫』と『坂野 蓮』の名前が並ぶ。蓮の字は昔から綺麗だ。蓮の字で自分の名前が書かれるのがなんだかくすぐったい。
「………。」
「………。」
「「あのさ、」」
急なハモリに驚く。二人はやっと目が合った。雫は咄嗟に先を譲った。
「あ、ごめん!…先いいよ。」
「………今での忘れたから、いいよ。」
「あ…。えっと……」
「………。」
「…スキナハナトカアリマスカ?」
「は…?」
(え、何言ってんの。私。バカなの?引いてるじゃん…。なんでいつもチャンスって時に余裕なくなんのっ!)
「…彼岸花。」
「え?」
「だから、彼岸花。通学路によく咲いてるやつ。」
「…あー…、綺麗だよね。彼岸花。」
「…もういい?」
「あ、うん。ごめん、引き留めて。」
「…別にそんなつもりじゃ……。」
二人にまた気まずい空気が流れる。その時、五時を告げるチャイムが鳴った。
「…あ!」
「え、なに?」
「やばいやばい!今日、西先生早く帰るんだった!…提出してくるね!今日はありがとう!じゃあ!」
「………。」
雫はバズーカーの如く一方的に喋りながら荷物をまとめ、半ば蓮から逃げるように職員室に向かった。
ーーーーーー
「あった、あった!懐かしいなぁ。あの時も結局、何も話せなかったなぁ。」
「その時の裏話を聞いたの。」
「え~、どんな?」
「蓮くんが水嶋先輩に会いに教室に来たんだって。その当日にだよ?急すぎじゃない?でね……
ーーーーーー
「水嶋先輩。今いいですか?」
「ん?はーい!」
昼休み。二年の教室に訪れた蓮は水嶋先輩を呼んだ。先輩曰く、この時の蓮はどこか焦った様子だったという。
「どうした?」
「今日の当番の相手って若宮ですよね?」
「あぁ、おん。どうした?」
「代わってもらえませんか?」
「え、俺は別にいいけど。どこの日と代わる?」
「いいですよ。二重でやりますから。」
「そうもいかないでしょう?後輩いびってるみたいじゃん。」
「…じゃあ、俺の当番が直近で十二日なんでその日で大丈夫ですか?」
「オッケー。…何?浮気?心愛ちゃんが怒るんじゃないの~??女の恨みはこえーぞー?」
「そんなんじゃないっす。…ありがとうございました。失礼します。」
そういうと蓮はすぐさま帰ったという。
「…何考えてんのかわかんねー奴。」
「副部長~、何?揉め事?」
「えー、そんなじゃないよ~?園芸部で揉め事とか絶対起きる訳ないじゃ~ん!」
ーーーーーー
「……なんだって。ね?絶対に蓮くん、雫ちゃんに会いに行ったんだよ!」
「………。」
思い出に浸りながら話していたらいつの間にか未来のアパートに着いていた。(※危ないので運転中は集中しましょう。)
約八年ぶりのネタバラシ。どんなリアクションをするのが正解なんだろうか。
(あ。そうか。あの時、何か言いかけてたんだ…。私がちゃんと聞かなかったから…。)
「雫ちゃん…?」
「…え?あー、そうだね。もし同窓会で打ち解けたら聞いてみようかな。」
「…うん。そうだね。」
雫は車を停め、後部座席から荷物を下ろすと助手席の未来を下ろし、玄関の前まで送った。
「色々、ありがと。またゆっくり電話でも。」
「うん。ありがとう。おやすみ~。気をつけて帰ってね。」
「は~い。」
雫は未来が無事に入ったことを確認すると、再び車を走らせた。未来からの今更なネタバラシに戸惑いが消えない。もう同窓会まで待てない気持ちも出てきた。この調子で蓮ともばったり会えないだろうか。
(いや。会っても、どうせ声かけられずに眺めて終わりだな…。)
自分の意気地のなさにイライラする雫であった。
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