初恋のつづき、していいですか? 〜未練しかない幼馴染へ〜

ムラサキ

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カップルズ

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 期末テストも終わり、十二月二十四日。なかなか就職先が見つからなかった雫も自身が通っていた保育園に就職が決まった。ちなみに成美は隣町の幼稚園に就職だ。大学生活最後の長期休暇。結局、彼氏の一人も作ることなくクリスマスイブを迎えた。まあ、どちらにしろ卒論で追われているのだからいてもいなくても同じだ。というより雫にとっては即席の彼氏よりも大事なことがある。今日はその大事な日のための戦闘服を入手する時だ。手に入れたバイト代はこの時のためのもの。成美との待ち合わせはモールの広場にある時計台の下、十一時集合だ。今は九時。余裕を持った行動を取れている。
 メイクの最後の仕上げに成美からもらったリップを塗った。

「よし。…時間まだあるし、服でも見てよ~。」

雫が洗面台を離れようとした時、バタバタと足音を立てて近づいてきたのは尚美だった。普段とは違ってなんだかオシャレになっている。年代物の香水をつけているのだろうか。懐かしさを感じるいい匂いがする。普段なら長い髪を団子にしているのに、巻き髪にしているではないか。

「ちょっと鏡貸して!」
「う、うん。どうしたの。めかし込んじゃって。」
「ちょっとね…」

そう言うと尚美は鏡に近づき、口紅を塗った。普段ならつけることのない赤さだ。

「どう?ケバい?」
「…ケバくはない、けど。どうしたの?どっか行くの?」
「…まあね。雫今日は遅くなるの?」
「うーん、八時くらいには帰ると思うけど。」
「そう。友達とご飯食べてくるのね?」
「うん、まあ。」
「私、今日ちょっと遅くなるかもしれないから、よろしくね。」
「遅くなるってどんくらい?」
「…うーん、わかんない。もう好きにしててくれていいから。私もう出るから戸締りしっかりね!行ってきます!」
「行ってらっしゃい…。」

嵐のように訪れ去っていった尚美を雫は呆然としながら見送った。

(……男?なおちゃんが?)

雫はここ最近の尚美の様子を思い浮かべる。そういえば、鼻歌を歌ったり、異様にパックをし始めたり、鏡の前に立っていることが増えたような…?鼻歌も1990年代のラブソングだ。

「おう…。なおちゃん、男できたのか…。お父さん、かわいそう…。」

何も知らない雫は心の中でそっと修二に同情をした。
 リビングに戻り、スマホをいじろうとした時、あることに気づいた。

「あ。クリスマスツリー飾ってない。」

雫は時計を見る。まだ時間は余っている。クリスマスツリーが閉まってある倉庫に向かった。倉庫には日用品のストックや尚美が時々使っている庭の手入れ用具や資源ごみがちらほらと置かれている。その奥からクリスマスツリーを見つけるのは安易だったが、取り出すのに一苦労した。

「よいっしょっ!…ふんっ!!」

やっとの思いで取り出したクリスマスツリーのダンボール。予想以上の重たさに驚いた。このクリスマスツリーは雫が保育園時の時から使っていたもので、だいぶ年季ものだ。雫はダンボールの埃をその場で軽く払い、倉庫のドアを閉めようとした。その時、クリスマスツリーのダンボールに隠れていたのだろう、赤い箱が目に入った。追加で買ったオーナメントの箱だろうか。もしかしたら玄関用に買ったリースかもしれない。再び倉庫の奥に入り、赤い箱を持ち運んだ。蓋を開けるとやはりその中にはオーナメントが入っていた。…ん?

「あれ?これ元々の付属でついてたオーナメント?」

じゃあ、クリスマスツリーの段ボールに入ってるオーナメントはなんだ?ここ最近のクリスマスで赤い箱を取り出した記憶はない。

「あ~。だいぶ前に新しく別で買ったオーナメントと交換したんだ。」

あ~。なるほどね。中身が入れ替わってるわけだ。

「せっかくだし、これも飾ったろ。」

雫はクリスマスツリーの段ボールに赤い箱を乗せると一緒になって持ち上げ、何回か小休憩を挟みながらもリビングに向かった。
 今のクリスマスツリーは組み立てやすいものも多いが、若宮家のは十年以上前に買ったクリスマスツリー。組み立てもいちいち枝を一本一本広げなければいけない。しかし、これが終わればあとは早い。雫は時計を何度も確認しながら組み立てた。三十分ほど経った。オーナメントも飾り付け、レースも巻き終えた。ここから追加で赤い箱のオーナメントを飾り付けていく。飾っていくにつれて赤い箱に入っていたのは、付属品のオーナメントだけではないことがわかった。雫が小さい頃、保育園で折ったサンタの折り紙や手作りオーナメント。お気に入りの人形も入っていた。

「わ~。懐かしい~。」

最後のオーナメントはアルミでできた小さな小さな鍵。ピンクのリボンで無理やり結ばれている。

「なんだこれ~。どこの鍵だよ。」

雫は苦笑しながらも、その鍵を飾り付けた。
 時間もなくなり、空箱を急いで倉庫にしまうと、雫は荷物を持って家を飛び出した。もちろん戸締りの確認もして。
 十一時。早めに来た成美は時計台の前で雫を待っていた。モールの広間には時計台ではなく、大きめのクリスマスツリーも飾られている。家庭用クリスマスツリーとは違って奇抜なデザインだ。広場を囲うギリシャ風の柱には生花とリボンの飾り付けがしていた。

「なる~!ごめん!待った?」
「全然!雫はいつもジャストで来るね~。」
「まあね~。」

 そこから二人はいよいよ戦闘服を買いに行く。今年の冬服のトレンドはブラウン系の大人めコーデらしい。ミニスカにローハイブーツの再ブームに加え、ファーもチェックアイテムになっている。

「雫はボブにしたから、無地のタートルネックとかも綺麗に見えるよね~。それで大きめのピアスとかつけたらめっちゃ色気すごいと思うよ。」
「でも、これみたいに大胆に肌見せてた方がいいんじゃない?」
「…はぁ。これだから素人が…。」
「え?違うの?」
「男の人っていうのはね、全裸が見えるより際どいところで見えないものを妄想するから興奮するの。」
「…へぇ。」
「見せるのは肌じゃなくて、ライン!せっかくボディメイキング頑張ったんでしょ?ダボダボよりピチピチで勝負!!」
「…うっす。」

そこから何店舗か回り、一旦昼食を挟んで、また店舗巡り。ジャンルに囚われずあらゆる服の試着をした。結果、雫が買ったのはツイードでできたグレーのタイトなチェックのミニスカートに黒のタイツ、ダークブラウンのミドルブーツ。上はラテ色のシンプルなタートルネック。成美の計画通り、体のラインが強調されているものだ。そこに加えて新しくアクセサリーも買っていった。服に合わせて金のピアスに金のネックレス。アクセサリーの有無で高級感というか品が全然違う。雫の手には前回とは違って大きな紙袋が二つ下げられていた。

「よし!これで初恋リベンジだよ!雫!」
「うん!なるのおかげで自信ついてきた!本当にありがと~!」

二人はいつの間にか元いたモールに戻っていた。時計台の針ははいつの間にか十六時を指している。夕飯というにはまだ早すぎる時間帯だ。雫は成美の満足そうな横顔を眺め、フッと微笑んだ。

「なる。本当にありがとう。今日はもう解散しよう。」
「え!一緒に夕飯までって約束じゃん。」
「…なるには私よりも会わなきゃいけない人がいるでしょ?」

成美は雫の言葉に面食らい歯切れの悪い言葉をモゴモゴと話した。実は成美との今日のデートは元々、十六時解散だった。その後に成美は石井くん(成美の彼氏)と合流する予定だったのだ。しかし、石井くんにとっても最後の学生クリスマスイブ。色々計画していたのかもしれない。そのことで二人は口論。雫は無理しなくてもいいと成美に伝えたが、かえってそれが成美をヒートアップさせてしまった。普段ならすぐ仲直りする二人なのだがタイミング悪く休暇に入ってしまい、仲直りのきっかけもなく、ずるずると喧嘩が続いている。

「むーちゃんから謝ってくるまで、私連絡しないから。」
「なる…。意固地になってるとずっとすれ違ったままになっちゃうよ?私みたいになってもいいの?こじらせ女子になっちゃうよ?」
「…雫のこと応援したいって言っただけなのに、あんなに否定してくるなんて思わなかったの…。」
「もしかしたら石井くんは今年のクリスマスに色々準備してたのかもよ?」
「それは…わかってるけどさ……」
「なるらしくないな~。私のせいで石井くんと別れたなんて死んでも嫌なんだけど。」
「……しずく~…。」

成美は雫に泣きべそをかきながら抱きついた。

「ほら~。泣いてないで石井くんに連絡しなよ~。こうしてる間に他の女の子に取られちゃうかもよ!!」
「…そんなだったらこっちから願い下げ…。」
「なる。本当にそれでいいの?本当に今何もしないで後になって、石井くんに他の彼女ができたって聞いても後悔しない?」
「………んん~~…」
「今日はクリスマスイブなんだから。イベントに絡めて仲直りって絶対いい思い出になるって!!」
「……むーちゃん、もう私のこと好きじゃないかもしれない。こんなめんどくさい女、もう嫌いかも…。」
「そんなこと…」

その時、雫は目の前に現れた男性にそっと微笑んだ。

「なる。後ろ振り返ってみ。」

雫の優しい囁きに成美はゆっくりと雫から離れ、後ろを振り返った。そこにいたのは息を切らしている石井くんの姿。成美は途端のことに息を呑む。目には熱いものが溜まっていた。

「…はぁ、はぁ、なるちゃん。…俺、……」
「むーちゃん…。」

成美はすぐさま雫に振り返る。雫は微笑みながら首を縦に振った。その瞬間、成美は石井くんの元へ駆け寄る。雫は二人の時間を邪魔しないようにそっとその場を離れた。
 モールの広場から離れ、駐車場に向かう。どこもかしこもクリスマス仕様だ。成美と二人でいたときはそこまで気にしなかったが、至る所にカップルがいる。若い子だけではない。老夫婦まで楽しそうに手を繋いでいた。

(みんな、いいなぁ~。………ん?あれ?)

雫はある中年カップルに目を留めた。とってもシャレオツなカップルだ。でもなんだか見たことがある…ような……。あ!!

(げっ!!なおちゃんと、お父さん!!?)

雫はすぐさま二人から隠れるように雑貨店に入った。二人は手は繋いでいないものの、楽しそうに笑いながら話している。まるで恋人のようだ。夫婦というより恋人。

(はっは~ん。なおちゃんのお相手はお父さんだったのね…。)

雫はなんだか嬉しくなって笑みを浮かべた。別に尚美の相手が知らない人でもよかったが、やっぱり両親が仲良くしているのを見るのか気分が良い。

(なんだ~。娘は蚊帳の外ですかっ。)

 雫は二人が通り過ぎるのを待とうとしばらくその雑貨店に留まった。最近の雑貨店は可愛いだけでなく便利なものも充実している。その代わりに値が張るので今の雫に買える物はないが。

「あ…。」

雫の目を引いたのはクッキー缶売り場。さすがクリスマス。赤と緑と白の世界だ。その中に変わったクッキー缶があった。普通のアルミのクッキー缶に南京錠がついていたのだ。

(へ~。クッキー缶に南京錠ついてるんだ。めずらし…い…)

その時、雫は驚いた。南京錠と一緒になってついていた小さな小さなアルミの鍵が今朝見たクリスマスに飾った鍵と同じだったから。

「え…。私、昔これ食べたのか…?」

雫は思い出せそうで思い出せない記憶を手繰り寄せようと奮闘した。しかし、一向に出てこない。第一、あの鍵がこのクッキー缶と同じなら、どうして鍵だけなんだ?本体はどこにいった?…というか何故小さい頃の雫は鍵をクリスマスのオーナメントにしたんだ?なんだか埋めた覚えのないタイムカプセルを偶々掘り起こしてしまったような感覚だ。

「ま、いっか…。」

雫の見ていたクッキー缶は五千円弱。論外だ。さっさと帰ろう。
 雫は二人の姿が見えなくなったことを確認すると駐車場に向かった。

「あれ?雫?」

しまった。バレたか。…雫は声のした方向に恐る恐る向いた。しかしそこにいたのは迅と迅の彼女だ。迅の彼女とは初対面だ。そのウサギ的可愛らしさに目を奪われる。

「…おう…よっ!…彼女さん?ですよね。初めまして。」

彼女は社交的な雫に対して明らかな敵意を向けていた。咄嗟に迅の腕に抱きついた。雫は首を傾げるような一礼をすると迅の方に目を遣った。

「ごめん。こいつ人見知りでさ。…てか髪切ったんだ。」
「うん、まあね。」
「同窓会のため?」

挑発的な迅の笑顔に、雫は口角を一の字にして微笑み眉を上げて反応し返した。

「いいじゃん。イメチェンできてる。大人っぽい。」
「…どうも。」

迅に褒められるのは嫌ではない。ただ、迅が褒めるたびに彼女からの視線が突き刺さってくるように痛い。迅よ。彼女の気持ちに察して、離れてくれ。

「すげー買い物したんだな。これも同窓会?めっちゃ気合い入れてんだ。」
「…まあね。」
「ちょっと見せてよ。」
「はぁ?当日見れるでしょうが。」
「先取り先取り。男の意見もいるんじゃん?」
「何言ってんの。見せるわけないでしょうが。」

は!しまった!つい、いつも通り話してしまった。恐る恐る彼女の方を向くと今にも泣きそうな目で全力の睨みを雫に向けていた。雫は「察せよ」と迅に目を向ける。その迅は横目で彼女の反応を見ていた。その瞳には満足感が宿っている。その時、雫は気づいた。こいつ、私を利用して彼女の反応を楽しんでやがる、と。

「…私、人待たせてるから帰るわ……。」
「おう。気いつけて。」
「ほーい…。じゃあ、失礼します…。」

雫は彼女に一礼をすると、今度こそモールを後にした。

(あー、嫌なもん見たわ。男友達の性癖とかクリスマスに一番見たくないもんだわ…。)

雫は外の寒さとは別の身震いをするとそそくさと車に乗り込んだ。
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