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続編開始記念 【番外編】アレクシアの回想3
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アレクシア視点
あー、うるさい、うるさい。
油断した。
私は現在、裏庭でエミーリアと仲良くなりたいご令嬢達に囲まれている。
いや、仲良くなりたいのではなく、彼女を自分達の都合の良いように操りたい方達だ。
彼女達は未来のハーフェルト公爵夫人と親しくなって、様々な特権を得たいのが丸わかりだったので、さり気なくエミーリアに近づけないように邪魔していたことが酷く気に障ったらしい。
さっきから、『貴方が邪魔』『自分だけいい思いをしようったってそうはいかないわ』『エミーリア様の腰巾着』などギャンギャンうるさい。
ついこの間までエミーリアのことを『色褪せ令嬢』だの、『みっともない格好で第2王子にふさわしくない』、だの言いたい放題に陰口叩いてきたくせに。
私は何があろうとこんな人達と関わらせることで、大事な友達の神経を削りたくはない。
それに、素直すぎるエミーリアには相手をするのは難しいだろう。
本当に、もうすぐ彼女が社交界に出るということが恐ろしすぎる。
その辺、第2王子はどう考えているのだろうか。まさか、知らないとか・・・?
ぼうっと思考を明後日に向けていたら、一段と大きな声がぶつかってきた。
「『二度とエミーリア様に近づかない』って、早く私達に誓いなさいよ!」
へえ?いつの間にそんなことになってるわけ?私がエミーリアの側にいるかどうかなんて、貴方達が決めることじゃないでしょうが。
バカバカしい、さっさと断って帰ろう。と私が口を開きかけたその時、
「それはとても困るのだけどね。」
やや低い、よく通る声が我々の動きを止めた。
出たよ。第2王子が。
何でこんなところに来たのか、さっぱりわからないけど、女の戦いに首を突っ込んできた。
エミーリアが囲まれているのならわかるけど、私だよ?見間違えたの?
私は馬車に乗る彼女と別れてからここに連れてこられたので、エミーリアが第2王子を連れてくるはずはないし。
「何をしに来たのですか?」
思わず半眼で聞いた私に第2王子はいい笑顔で返してきた。
「そこのご令嬢達に、アレクシア嬢にも関わらないように伝えに。」
助けるはずの人物に睨まれても、ちっとも動じない彼は、なかなか図太い神経をお持ちのようだ。
まあ、彼ならエミーリアの素直さをそのままに守りきれるかしらね。
第2王子の評価をミリ単位で引き上げている間に、周囲のご令嬢達が蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
これで2度と囲まれないならありがたいのだけど。
一応、礼を言わねばなるまい。
私はひとり、その場に残っている第2王子へ礼をとった。
「助けていただき、感謝いたします。」
「僕はアレクシア嬢を助けたつもりはないよ。ただ、彼女達に言い忘れたことを伝えに来ただけ。礼はいらないよ。」
そう言ってにやっと笑った第2王子をエミーリアに見せてやりたかった。きっと『あれ、だれ?!』と面白いくらい驚いただろうから。
「そうですか、では撤回します。ところで、まだ何か御用がおありで?私、婚約者がいますので、殿下といえども2人きりではいたくないのですが。」
流石にお互いそんな醜聞は嫌だろうと告げれば、軽く目を見開いた彼が笑った。今度は先程の皮肉な笑顔ではなく、自然にこぼれたものだった。
これは、なかなか悪くない笑顔だわ。
「さすが、アレクシア嬢。大丈夫だよ、そこに僕の側近や護衛がいるから。でも、僕も婚約者がいる身だから、手短に済ませるね。君には、ずっとお礼を言いたいと思っていたんだ。」
婚約者、と言った第2王子の顔は笑み崩れていた。本当に嬉しくてしょうがないらしい。
腹黒で、権力行使に躊躇がない、イイ性格をした人だけど、こういうところはかわいいなあと思う。エミーリアに関わること限定なのがまたいい。
「殿下に礼を言われるようなことをした覚えはとんとございませんが?」
この腹黒王子に恩を売った覚えはない。
「そんなことないよ、僕は君にいくら礼を言っても足りない。」
今度は私が目を見開いて、失礼ながら第2王子をまじまじと見つめ返してしまった。
私ってば、いつの間にそんなことをしていたの?!
彼は私の反応にちょっと困ったように頭をかきながら続ける。
「アレクシア嬢がそうやってなんの打算も損得勘定もなく、エミーリアと仲良くしてくれたから、彼女の学園生活は楽しそうだった。僕ではどうにもできなかったから、お礼を言いたくて。」
「それなら、私も殿下にお礼を言わねばなりません。エミーリアと友達になると決めたのは私ですが、きっかけをくださったのは殿下ですよ。」
「あの時は驚いたね、いきなり『お友達になる』宣言をするものだから。一瞬、僕が彼女を気にかけていると知って打算で仲良くするのかもと疑ってしまったよ。直ぐにそうじゃないとわかったけれど。」
なるほど、そういう見方をされてたか。
こういう立場の人はまず人を疑ってかからねばならないから性格が歪むのがよくわかるわ。
「一番感謝しているのは、こないだエミーリアが思いつめた時に、僕を呼んでくれたことなんだけど。」
「あの時はちょうど、殿下が食堂に入ってきてくださって助かりましたよ。そういえば、エミーリアから聞きましたが、両思いだったんですってね。想いが報われてよかったですね、殿下。」
返事の代わりに第2王子がとてつもなくいい笑顔になった。
この世の喜びを凝縮したような彼の様子に、エミーリアはここまで愛されていていいなあと羨ましくなった。
まあ、彼女にはまだ想いの全てが届ききってない気がするけど。
そして第2王子の愛は重たそうだけど、エミーリアは受け止めきれるかしら。
「でも、アレクシア嬢にはまだ負けているんだ。」
笑顔から一転、残念そうな顔でそう呟いた第2王子は、羨ましそうに私を見た。
この身分も見た目も成績も私の上をいく、きらきら第2王子に勝っている点とは、どこ?
と、不審の目を向けたら、彼が悔しそうに教えてくれた。
「せっかく両思いになったから、遠慮なく一緒にランチできると思ったら、君と一緒に食べたいからとあっさり断られたよ。」
「まあ。エミーリアがそんなことを。」
がっかりしている第2王子に同情しつつも、私は顔がにやけるのを止められなかった。
想いあう人ができて、私をないがしろにするどころか優先してくれるなんて、嬉しい。
「ということで、一緒に食べることは諦めるけど、食後にお邪魔してもいいかな?エミーリアはアレクシア嬢の許可があればいいって言うんだけど。」
ああ、これを聞くために私を探してたのね。律儀な2人だわ。でもこれ、断ったらどうなるのかしら。
断らないよね?と圧をかけてくる第2王子を見上げて気がついた。
私がいずれ国の中枢を担う彼の、唯一にして最大の弱みを握っていることに。
もったいないことに、私もギュンター様も政治や権力には興味がないから有効活用はできないけれど。
アレクシア視点
あー、うるさい、うるさい。
油断した。
私は現在、裏庭でエミーリアと仲良くなりたいご令嬢達に囲まれている。
いや、仲良くなりたいのではなく、彼女を自分達の都合の良いように操りたい方達だ。
彼女達は未来のハーフェルト公爵夫人と親しくなって、様々な特権を得たいのが丸わかりだったので、さり気なくエミーリアに近づけないように邪魔していたことが酷く気に障ったらしい。
さっきから、『貴方が邪魔』『自分だけいい思いをしようったってそうはいかないわ』『エミーリア様の腰巾着』などギャンギャンうるさい。
ついこの間までエミーリアのことを『色褪せ令嬢』だの、『みっともない格好で第2王子にふさわしくない』、だの言いたい放題に陰口叩いてきたくせに。
私は何があろうとこんな人達と関わらせることで、大事な友達の神経を削りたくはない。
それに、素直すぎるエミーリアには相手をするのは難しいだろう。
本当に、もうすぐ彼女が社交界に出るということが恐ろしすぎる。
その辺、第2王子はどう考えているのだろうか。まさか、知らないとか・・・?
ぼうっと思考を明後日に向けていたら、一段と大きな声がぶつかってきた。
「『二度とエミーリア様に近づかない』って、早く私達に誓いなさいよ!」
へえ?いつの間にそんなことになってるわけ?私がエミーリアの側にいるかどうかなんて、貴方達が決めることじゃないでしょうが。
バカバカしい、さっさと断って帰ろう。と私が口を開きかけたその時、
「それはとても困るのだけどね。」
やや低い、よく通る声が我々の動きを止めた。
出たよ。第2王子が。
何でこんなところに来たのか、さっぱりわからないけど、女の戦いに首を突っ込んできた。
エミーリアが囲まれているのならわかるけど、私だよ?見間違えたの?
私は馬車に乗る彼女と別れてからここに連れてこられたので、エミーリアが第2王子を連れてくるはずはないし。
「何をしに来たのですか?」
思わず半眼で聞いた私に第2王子はいい笑顔で返してきた。
「そこのご令嬢達に、アレクシア嬢にも関わらないように伝えに。」
助けるはずの人物に睨まれても、ちっとも動じない彼は、なかなか図太い神経をお持ちのようだ。
まあ、彼ならエミーリアの素直さをそのままに守りきれるかしらね。
第2王子の評価をミリ単位で引き上げている間に、周囲のご令嬢達が蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。
これで2度と囲まれないならありがたいのだけど。
一応、礼を言わねばなるまい。
私はひとり、その場に残っている第2王子へ礼をとった。
「助けていただき、感謝いたします。」
「僕はアレクシア嬢を助けたつもりはないよ。ただ、彼女達に言い忘れたことを伝えに来ただけ。礼はいらないよ。」
そう言ってにやっと笑った第2王子をエミーリアに見せてやりたかった。きっと『あれ、だれ?!』と面白いくらい驚いただろうから。
「そうですか、では撤回します。ところで、まだ何か御用がおありで?私、婚約者がいますので、殿下といえども2人きりではいたくないのですが。」
流石にお互いそんな醜聞は嫌だろうと告げれば、軽く目を見開いた彼が笑った。今度は先程の皮肉な笑顔ではなく、自然にこぼれたものだった。
これは、なかなか悪くない笑顔だわ。
「さすが、アレクシア嬢。大丈夫だよ、そこに僕の側近や護衛がいるから。でも、僕も婚約者がいる身だから、手短に済ませるね。君には、ずっとお礼を言いたいと思っていたんだ。」
婚約者、と言った第2王子の顔は笑み崩れていた。本当に嬉しくてしょうがないらしい。
腹黒で、権力行使に躊躇がない、イイ性格をした人だけど、こういうところはかわいいなあと思う。エミーリアに関わること限定なのがまたいい。
「殿下に礼を言われるようなことをした覚えはとんとございませんが?」
この腹黒王子に恩を売った覚えはない。
「そんなことないよ、僕は君にいくら礼を言っても足りない。」
今度は私が目を見開いて、失礼ながら第2王子をまじまじと見つめ返してしまった。
私ってば、いつの間にそんなことをしていたの?!
彼は私の反応にちょっと困ったように頭をかきながら続ける。
「アレクシア嬢がそうやってなんの打算も損得勘定もなく、エミーリアと仲良くしてくれたから、彼女の学園生活は楽しそうだった。僕ではどうにもできなかったから、お礼を言いたくて。」
「それなら、私も殿下にお礼を言わねばなりません。エミーリアと友達になると決めたのは私ですが、きっかけをくださったのは殿下ですよ。」
「あの時は驚いたね、いきなり『お友達になる』宣言をするものだから。一瞬、僕が彼女を気にかけていると知って打算で仲良くするのかもと疑ってしまったよ。直ぐにそうじゃないとわかったけれど。」
なるほど、そういう見方をされてたか。
こういう立場の人はまず人を疑ってかからねばならないから性格が歪むのがよくわかるわ。
「一番感謝しているのは、こないだエミーリアが思いつめた時に、僕を呼んでくれたことなんだけど。」
「あの時はちょうど、殿下が食堂に入ってきてくださって助かりましたよ。そういえば、エミーリアから聞きましたが、両思いだったんですってね。想いが報われてよかったですね、殿下。」
返事の代わりに第2王子がとてつもなくいい笑顔になった。
この世の喜びを凝縮したような彼の様子に、エミーリアはここまで愛されていていいなあと羨ましくなった。
まあ、彼女にはまだ想いの全てが届ききってない気がするけど。
そして第2王子の愛は重たそうだけど、エミーリアは受け止めきれるかしら。
「でも、アレクシア嬢にはまだ負けているんだ。」
笑顔から一転、残念そうな顔でそう呟いた第2王子は、羨ましそうに私を見た。
この身分も見た目も成績も私の上をいく、きらきら第2王子に勝っている点とは、どこ?
と、不審の目を向けたら、彼が悔しそうに教えてくれた。
「せっかく両思いになったから、遠慮なく一緒にランチできると思ったら、君と一緒に食べたいからとあっさり断られたよ。」
「まあ。エミーリアがそんなことを。」
がっかりしている第2王子に同情しつつも、私は顔がにやけるのを止められなかった。
想いあう人ができて、私をないがしろにするどころか優先してくれるなんて、嬉しい。
「ということで、一緒に食べることは諦めるけど、食後にお邪魔してもいいかな?エミーリアはアレクシア嬢の許可があればいいって言うんだけど。」
ああ、これを聞くために私を探してたのね。律儀な2人だわ。でもこれ、断ったらどうなるのかしら。
断らないよね?と圧をかけてくる第2王子を見上げて気がついた。
私がいずれ国の中枢を担う彼の、唯一にして最大の弱みを握っていることに。
もったいないことに、私もギュンター様も政治や権力には興味がないから有効活用はできないけれど。
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