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続編開始記念 【番外編】アレクシアの回想4
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アレクシア視点
第2王子とエミーリアは両思いだと分かった途端、今までは何だったのかと思うほどよく一緒にいるようになった。
主に第2王子が彼女のところに行って何事か話しかけては彼女を笑顔にさせている。
こういうのを間近で見ているとやはり同級生カップルは羨ましい。
流石にここまでくれば、第2王子を落とそうとしていた令嬢達も、正面からいくのは諦めたようで、ひたすらエミーリアの陰口大会を開いて憂さ晴らしをなさっていた。
そんな穏やかな日々が続き、あと少しで卒園となったある日の朝。
久しぶりに学園内がざわめいた。
昨日同時に休んでいたエミーリアと第2王子が一緒に登園してきたうえに、彼女が綺麗に髪をまとめていたのだ。
流石に最近は髪を一つに括るだけという雑な髪型はしていなかったが、彼女のまとめ髪は初めてみた。しかも、慣れた侍女がしたと見え、素人さがなく彼女によく似合っていた。
あんなに散々なことを言われていたとは思えないほど、エミーリアは美しかった。
周囲の反応を見た第2王子はちょっと得意気で、当のエミーリアは注目が自分に集まっていると思わず、第2王子といるためだと思ったらしく私を見つけると、彼を置いてすぐさま寄ってきた。
「おはよう、アレクシア!一緒に教室に行きましょう。」
急かすように私の背を押して、この場を離れようとするエミーリアに挨拶を返しつつ、第2王子は放っておいていいのかと後ろを振り返れば、彼もついて来ていた。
いつもなら私に彼女を取られてややむくれているはずの彼は、柔らかい笑みを浮かべて私の背を押す彼女を見守っていた。
あれ、彼女だけでなく、第2王子の雰囲気も随分変わったわね?休んでいる間にこの2人に何があったのかしら?
しかも、変化はそれだけではなかった。
第2王子は毎日ランチを食べ終わるのを待ちかねるように私達のところへ来ていたのに、今日はこなかったのだ。あの、第2王子が!
明日は雨ね、いえ、雷雨か暴風雨ね。
珍しく食後にエミーリアが個別の談話室に誘ってきたので、2人で飲み物を持って移動する。
誰もいない空間に落ち着いた彼女は、何か言おうとしては口を閉じる、という動きを何度か繰り返して、やっと声を出した。
「アレクシア、あのね、私は一昨日からハーフェルト公爵家にお世話になっているの。」
彼女の声は、私の耳には届いた。が、一瞬、理解できなかった。
ハーフェルト公爵って第2王子が結婚後、正式に継ぐ家よね?
そこにエミーリアがお世話になってるっていうことは?
「え?結婚式はまだ先よね?第2王子殿下も一緒に暮らしているわけ?」
頷く彼女に私は動揺した。だって、結婚前に一緒に暮らすなんて!できるものなら私もそうしたい!・・・けど、それはあまりというか、大変外聞が良くない。
エミーリアも分かっているのだろう、後少しの期間だから内緒でお願いします、と頭を下げてきた。
私にも黙っていればいいのに、彼女は本当になんというか、律儀だ。
「一体、何があったというの?貴方のご両親はよく許したわねえ。」
そう尋ねれば、彼女の顔が暗くなった。髪に手をやって目を伏せる。
「実は私は姉以外の家族から除け者にされていたの。特に母にはこの髪と目の色のせいで嫌われていて。一昨日、母に髪を・・・。」
そこまで言った彼女が言葉に詰まった。
家族に嫌われているって、ええっと、なんの話?
いきなりの重い話に頭がついていかない。
でも、彼女が私をからかったり、嘘をついたりすることはないから、これは本当のことで。
何故、今ここで、この話をしようとするのか?
それが彼女が第2王子と一緒に暮らす理由だからで、途中で言えなくなるくらい、辛いことがあったんだわ。
実の母に髪を・・・切られたとか?
まとめている割に髪の量が少ない気はしていた。
私は横に座っているエミーリアへ目を向けた。
彼女はまだ次の言葉が出ず、泣かないようにか、きつく目を閉じて固まっている。
まだふさがっていないであろう心の傷を、話してくれようとした彼女を私はぎゅうっと抱きしめた。
「言い難いことを話してくれてありがとう。大丈夫、誰にも何も言わないから、今は無理しないで。続きは貴方の傷が癒えた頃に話してくれたら良いの。何があっても私達は友達だから。」
私は、頷きながら静かに泣き始めた彼女の背中を撫で続けた。
「アレクシア嬢、エミーリア、まだここにいる?」
昼休みの終わりが近づき、ノックとともに第2王子の顔が扉から覗いた。
私達の状況を見て顔色が変わった彼は、瞬時に走り寄ってきた。
第2王子はエミーリアの側に膝をつき、彼女にタオルを差し出して頭を撫でる。
・・・そのタオル、今どこから出た?その見たことがないくらい優しい顔も、どこから持ってきた?
私の知ってる第2王子と違う人がここにいる!
婚約者の顔を見て安心したのか、彼女の止まりかけていた涙がまた出てきた。何か話そうとするも、嗚咽しか出てこない。
こんなに辛そうな彼女を見たのは初めてだ。
第2王子も辛そうに唇を噛んでいる。
「エミィ、大丈夫?・・・じゃないね。無理はしちゃだめだよ。帰って休もう?アレクシア嬢、僕達は早退するよ。悪いけど、そう先生に伝えておいてくれるかな?」
今、エミィって呼んだ?!いつの間にそんなことに?!
私はこの2日の間に、彼等の間にとんでもなく大きな出来事があったことを知った。
私は彼の目を真っ直ぐ見つめながら頷いて、エミーリアを彼の腕に引き渡した。
第2王子はしっかりと頷き返して、彼女を大事そうに抱え上げると足早に部屋を出ていった。
私はそれを扉までついて行って見送った。
詳しいことは分からないけれど、第2王子はとてもとてもエミーリアを大事にしているということだけはわかった。
多分、世界中を探しても彼以上に彼女をあんなふうに優しく扱う人は見つからないんじゃないだろうか。
「殿下、私の大切な友達をよろしくお願いしますね。」
私は小さくなった第2王子の背中にそう呟いて、教室へと足を向けた。
あー、私もギュンター様に抱きしめて貰いたくなっちゃったな。今日はお屋敷にいるはずだし、帰りに訪ねてみようかな。
■■
「・・・あれから更に第2王子殿下が頼れるいい男になっちゃったもんだから、周りのご令嬢達が悔しがること悔しがること。でもそれはエミーリアがいたからなのに、そこは理解してなかったわよねえ、あの方達。」
「え?」
「ううん、こっちの話。」
現在のエミーリアが小首を傾げてこちらを見る。
短くなっていた髪は随分伸びたようで、ふわっとまとめている髪は、そこそこの量がある。私はそれに安堵して彼女に質問してみた。
「エミーリア、結婚生活はいかが?困ったことはない?」
先程、惚気けていたし、あの第2王子が結婚したからといって冷たくなるとも考えられない。2人は幸せに決まってる。
でも、彼女の口から感想を聞いてみたかったのだ。
エミーリアは直ぐに、はにかみつつも、顔いっぱいの笑顔でこたえてくれた。
「アレクシア、私は今、思っていた以上に楽しくて、幸せいっぱいよ!」
アレクシア視点
第2王子とエミーリアは両思いだと分かった途端、今までは何だったのかと思うほどよく一緒にいるようになった。
主に第2王子が彼女のところに行って何事か話しかけては彼女を笑顔にさせている。
こういうのを間近で見ているとやはり同級生カップルは羨ましい。
流石にここまでくれば、第2王子を落とそうとしていた令嬢達も、正面からいくのは諦めたようで、ひたすらエミーリアの陰口大会を開いて憂さ晴らしをなさっていた。
そんな穏やかな日々が続き、あと少しで卒園となったある日の朝。
久しぶりに学園内がざわめいた。
昨日同時に休んでいたエミーリアと第2王子が一緒に登園してきたうえに、彼女が綺麗に髪をまとめていたのだ。
流石に最近は髪を一つに括るだけという雑な髪型はしていなかったが、彼女のまとめ髪は初めてみた。しかも、慣れた侍女がしたと見え、素人さがなく彼女によく似合っていた。
あんなに散々なことを言われていたとは思えないほど、エミーリアは美しかった。
周囲の反応を見た第2王子はちょっと得意気で、当のエミーリアは注目が自分に集まっていると思わず、第2王子といるためだと思ったらしく私を見つけると、彼を置いてすぐさま寄ってきた。
「おはよう、アレクシア!一緒に教室に行きましょう。」
急かすように私の背を押して、この場を離れようとするエミーリアに挨拶を返しつつ、第2王子は放っておいていいのかと後ろを振り返れば、彼もついて来ていた。
いつもなら私に彼女を取られてややむくれているはずの彼は、柔らかい笑みを浮かべて私の背を押す彼女を見守っていた。
あれ、彼女だけでなく、第2王子の雰囲気も随分変わったわね?休んでいる間にこの2人に何があったのかしら?
しかも、変化はそれだけではなかった。
第2王子は毎日ランチを食べ終わるのを待ちかねるように私達のところへ来ていたのに、今日はこなかったのだ。あの、第2王子が!
明日は雨ね、いえ、雷雨か暴風雨ね。
珍しく食後にエミーリアが個別の談話室に誘ってきたので、2人で飲み物を持って移動する。
誰もいない空間に落ち着いた彼女は、何か言おうとしては口を閉じる、という動きを何度か繰り返して、やっと声を出した。
「アレクシア、あのね、私は一昨日からハーフェルト公爵家にお世話になっているの。」
彼女の声は、私の耳には届いた。が、一瞬、理解できなかった。
ハーフェルト公爵って第2王子が結婚後、正式に継ぐ家よね?
そこにエミーリアがお世話になってるっていうことは?
「え?結婚式はまだ先よね?第2王子殿下も一緒に暮らしているわけ?」
頷く彼女に私は動揺した。だって、結婚前に一緒に暮らすなんて!できるものなら私もそうしたい!・・・けど、それはあまりというか、大変外聞が良くない。
エミーリアも分かっているのだろう、後少しの期間だから内緒でお願いします、と頭を下げてきた。
私にも黙っていればいいのに、彼女は本当になんというか、律儀だ。
「一体、何があったというの?貴方のご両親はよく許したわねえ。」
そう尋ねれば、彼女の顔が暗くなった。髪に手をやって目を伏せる。
「実は私は姉以外の家族から除け者にされていたの。特に母にはこの髪と目の色のせいで嫌われていて。一昨日、母に髪を・・・。」
そこまで言った彼女が言葉に詰まった。
家族に嫌われているって、ええっと、なんの話?
いきなりの重い話に頭がついていかない。
でも、彼女が私をからかったり、嘘をついたりすることはないから、これは本当のことで。
何故、今ここで、この話をしようとするのか?
それが彼女が第2王子と一緒に暮らす理由だからで、途中で言えなくなるくらい、辛いことがあったんだわ。
実の母に髪を・・・切られたとか?
まとめている割に髪の量が少ない気はしていた。
私は横に座っているエミーリアへ目を向けた。
彼女はまだ次の言葉が出ず、泣かないようにか、きつく目を閉じて固まっている。
まだふさがっていないであろう心の傷を、話してくれようとした彼女を私はぎゅうっと抱きしめた。
「言い難いことを話してくれてありがとう。大丈夫、誰にも何も言わないから、今は無理しないで。続きは貴方の傷が癒えた頃に話してくれたら良いの。何があっても私達は友達だから。」
私は、頷きながら静かに泣き始めた彼女の背中を撫で続けた。
「アレクシア嬢、エミーリア、まだここにいる?」
昼休みの終わりが近づき、ノックとともに第2王子の顔が扉から覗いた。
私達の状況を見て顔色が変わった彼は、瞬時に走り寄ってきた。
第2王子はエミーリアの側に膝をつき、彼女にタオルを差し出して頭を撫でる。
・・・そのタオル、今どこから出た?その見たことがないくらい優しい顔も、どこから持ってきた?
私の知ってる第2王子と違う人がここにいる!
婚約者の顔を見て安心したのか、彼女の止まりかけていた涙がまた出てきた。何か話そうとするも、嗚咽しか出てこない。
こんなに辛そうな彼女を見たのは初めてだ。
第2王子も辛そうに唇を噛んでいる。
「エミィ、大丈夫?・・・じゃないね。無理はしちゃだめだよ。帰って休もう?アレクシア嬢、僕達は早退するよ。悪いけど、そう先生に伝えておいてくれるかな?」
今、エミィって呼んだ?!いつの間にそんなことに?!
私はこの2日の間に、彼等の間にとんでもなく大きな出来事があったことを知った。
私は彼の目を真っ直ぐ見つめながら頷いて、エミーリアを彼の腕に引き渡した。
第2王子はしっかりと頷き返して、彼女を大事そうに抱え上げると足早に部屋を出ていった。
私はそれを扉までついて行って見送った。
詳しいことは分からないけれど、第2王子はとてもとてもエミーリアを大事にしているということだけはわかった。
多分、世界中を探しても彼以上に彼女をあんなふうに優しく扱う人は見つからないんじゃないだろうか。
「殿下、私の大切な友達をよろしくお願いしますね。」
私は小さくなった第2王子の背中にそう呟いて、教室へと足を向けた。
あー、私もギュンター様に抱きしめて貰いたくなっちゃったな。今日はお屋敷にいるはずだし、帰りに訪ねてみようかな。
■■
「・・・あれから更に第2王子殿下が頼れるいい男になっちゃったもんだから、周りのご令嬢達が悔しがること悔しがること。でもそれはエミーリアがいたからなのに、そこは理解してなかったわよねえ、あの方達。」
「え?」
「ううん、こっちの話。」
現在のエミーリアが小首を傾げてこちらを見る。
短くなっていた髪は随分伸びたようで、ふわっとまとめている髪は、そこそこの量がある。私はそれに安堵して彼女に質問してみた。
「エミーリア、結婚生活はいかが?困ったことはない?」
先程、惚気けていたし、あの第2王子が結婚したからといって冷たくなるとも考えられない。2人は幸せに決まってる。
でも、彼女の口から感想を聞いてみたかったのだ。
エミーリアは直ぐに、はにかみつつも、顔いっぱいの笑顔でこたえてくれた。
「アレクシア、私は今、思っていた以上に楽しくて、幸せいっぱいよ!」
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