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続編四章開始記念【番外編】いつかの、未来3 後編

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 ※次男パトリック視点
 
 
 俺の突然の宣言に、場が止まった。
 
 大人達は文字通り動きを止めてこちらを見ているし、兄とクラリッサは馬鹿にした視線を向けてくる。隣のイザベルは、何が起こったかわからないという顔をしていた。
 
 一番に動いたのは父で、俺の前に来て座っていた椅子から持ち上げて芝生に上に立たせ、真剣な顔で話しかけてきた。
 
 「パトリック。これは大事なことだから、思いつきだけで言っちゃ駄目なんだよ?」
 「思いつきじゃないよ!俺、イザベルが好きだもの。」
 「女の子に対する好きと、お菓子や剣術が好きっていうのとは随分違うんだけど・・・君の思っている好きはどっちかな。」
 「おれは大人になってもイザベルと一緒にいたい。父上が母上にしてるみたいに独り占めしたいの!」
 
 日頃、そろそろ自分の好きな女の子を見つけろ、と言っていた父の窘めるような雰囲気に俺は愕然とした。
 
 せっかく俺が婚約者にしたい女の子を決めたというのに、なんで喜んでくれないの?なんでそんなに俺のイザベルが好きっていう気持ちを否定しようとするの?
 
 涙目になった俺を見た父は頭を抱えた。
 
 「うわあ、今になってあの時の親の気持ちがわかったよ。これは、難しい・・・。」
 
 のたうつ父を見て、後ろの大人達が一様になんとも言えない笑いを浮かべた。
 
 「ヴェーザー伯爵、どうしましょう?」
 
 父の切羽詰まった訴えに、ギュンターおじ様が妻のアレクシアおば様へ視線を向ける。
 おば様は大きな瞳で俺をじっと見ながら口を開いた。
 
 「ハーフェルト侯爵家の次男で剣術好き、お勉強はちょっと苦手。」
 「イザベルの婚約者になれるなら兄上よりもっとお勉強するから!」
 
 おば様の言葉に慌ててアピールする。
 
 今までとは違って俺を見定めるような視線を向けられたが、負けるもんかと見返した。
 
 途端におば様の顔が緩んで笑顔になる。
 
 「何といってもエミーリアの子だものねー。リーンハルト様にも似て将来有望なのは間違いないし、イザベルは婿取りだから条件バッチリなんだけども・・・。」
 
 問題ないと言われて喜んだものの、おば様の声は段々落ちていってはっきり婚約者にするとは言ってもらえず、濁されてしまった。
 おじ様も腕を組んで頷きながら、困った顔をしている。
 
 「おれ、もっともっと剣術頑張る。お勉強もたくさんする。あと他に何をすればイザベルの婚約者になれるの?!」
 
 俺は必死に訴えた。最後の頼みとして母に縋りついた。
 
 「ねえ、母上、おれにはあと何が足りないの?!」
 
 母は俺の頭を撫でて宥めながら俺の後ろを見遣った。
 それにつられて後ろを振り返れば、そこには青い顔をしたイザベルが突っ立っていた。
 その横には憤怒の表情で、今にも怒鳴りだしそうなクラリッサもいる。
 
 「パット、イザベルの気持ちを聞いてみないといけないと思わない?」
 
 母の言葉に一番大事なことを忘れていたと気付いた。
 
 俺は急いでイザベルの前に行き、その顔を見上げた。彼女の青い目は、突然降って湧いた自分の将来の話に途方に暮れているように揺れていた。
 
 俺は彼女の顔を窺いながら、恐る恐る両手を繋ぐ。
 ・・・拒否、されなかった。そのことに勇気づけられる。
 
 「おれ、イザベルが好き。イザベルの好きな人になれるよう頑張るから、おれの婚約者になってください。」
 
 心臓をバクバクいわせながら、一世一代のお願いをした。
 でも、イザベルは戸惑った顔をするばかりで答えをくれない。
 泣きそうになっていると、母が彼女に声を掛けた。
 
 「イザベル、急にこんな話になって驚いているわよね。私達大人のことは気にしなくていいから、正直な気持ちを教えて欲しいの。」
 
 その言葉が終わらないうちに、ぽつりと水が繋いだ手の上に落ちてきた。
 イザベルの顔を見れば泣いていた。慌てて手を離し、ポケットからハンカチを出してめいっぱい背伸びして拭いてあげる。
 
 「・・・イザベル、泣くほどおれのこと嫌?」
 
 尋ねながら自分も泣きたくなった。
 もし、そうだと言われたら、一体どうしたらいいんだろう。
 
 「・・・嫌とかじゃ、ない。そうじゃなくて、パットは4歳じゃない。私は11歳なのよ?貴方と婚約とか、そんなこと、考えたこともないわ。」
 「おれも!今さっき考えて、イザベルがいいって思ったの。だめ?」
 
 正直に告げれば、彼女は酷く困った顔をして呟いた。
 
 「私もお母様みたいにうんと年上の頼れる男の人と結婚したいと思っていたから、7つも年下なんて・・・。」
 
 その言葉に、俺の顔は引きつった。
 
 年下だからだめなの?!それって、どう頑張っても永久に無理ってことじゃない?
 
 「イザベル、それはパットが可哀想だよ。こんなに一生懸命なのに、年齢だけが理由なんて。彼自身を見てあげてよ。君のご両親は10歳差だよね、男が7歳下で何の問題があるんだよ?」
 
 ショックによろめく俺を受け止めたのは、兄だった。
 彼はそのままイザベルに反論してくれた。いつも俺をやや邪険に扱っているのに、こういうときは味方になってくれるんだ。
 ・・・ちょっと感動した。
 
 「イザベル、あの、パットと婚約してっていうわけじゃないんだけど、私の夫も年下なのよ。でもとっても頼りがいがある人よ。だから、年齢だけで選ぶのは勿体ないと思うの。」
 
 そういえば父は母より1歳くらい下だっけ。
 ちらりと父を見ると、母の言葉が嬉しくてたまらないという表情を隠しきれていなかった。
 
 イザベルもその父の笑顔を見て、次に俺の母を見て、それから俺を見た。
 俺も彼女をじっと見つめる。
 でも、すぐに視線を逸らされてしまった。
 
 悲しくなって俯いて足元の草を見る。
 あ、アリみっけ。アリは何を考えて歩いているのかなあ。
 
 ・・・俺、断られるのかな。年齢だけはどうしようもないんだけど。
 
 
 「・・・でも、私、今すぐになんて決められない・・・。」
 
 彼女の口からこぼれたその言葉に希望を感じて、顔を上げる。
 
 今度は目を逸らさずに見つめあえた。
 
 「では、保留ということでいかがですか?」
 
 ギュンターおじ様の言葉に大人達が頷いた。
 
 「うちはパトリックをより鍛えてイザベルに選んでもらえるように頑張りますが、そちらはこちらを気にせず他の候補を選出して下さい。」
 
 父の非情な台詞に俺は震えた。
 あれからずっと後ろにいてくれたらしい兄が頭をぽんぽんと叩く。
 
 「まあ、断られなくてよかったね。これから僕より勉強するんだって?頑張ってね。」
 「うん・・・おれ、イザベルとずっと一緒にいられるように頑張るから!」
 
 イザベルの目をじっと見つめながら宣言すれば、今まで黙っていたクラリッサが爆発した。
 
 「パットがお姉様の婚約者だなんて、絶対に認めないんだから!貴方をお義兄様と呼ぶなんてイヤ!」
 「おれは義兄でも義弟でも、クラリッサが好きな方でいいけど。」
 「そういうことじゃないの!貴方はお姉様にふさわしくないんだから!」
 「うん、だから、ふさわしくなれるように頑張るよ!」
 
 俺がそう元気に答えれば、クラリッサが黙った。
 
 「どれだけやっても無駄だと思うけど、時々見に来てあげるわ!ね、お姉様?」
 
 意地悪な顔でイザベルの腕に絡まりつつ、捨て台詞を吐いたクラリッサに俺は破顔した。
 
 「イザベルを連れて来てくれるの?!ありがとう、楽しみに待ってる!」
 
 
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