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続編五章開始記念【番外編】雨の日の過ごし方 前編
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※エミーリア視点
(久しぶりに新婚時代の話です。)
今日は朝から雨が降っている。夫のリーンは城へ行き、残った私は公爵夫人の勉強として、お昼を挟んで先程までマナーや領地経営、帳簿等について教わっていた。
「奥様、この後は夕食まで自由に過ごして頂けますが、いかがされますか?」
お茶のお代わりを淹れるロッテに、尋ねられて考え込んだ。
いつもなら庭の探検に行くのだけど・・・。前回雨だったときは屋敷内を見て回った。
そういえば、まだ見ていない部屋があったからそこへ行ってみよう。
「3階の物置部屋に行ってみたいのだけど、いいかしら?」
「ええ。では鍵を持ってまいりますね。」
「私がもらってきます!」
手持ち無沙汰にしていたミアが、勢いよく手を上げて走っていった。
ミアが廊下を走る足音を聞きながら、
「いいなあ、ミア。私も走りたいわ。」
と漏らすと、ロッテが笑顔になった。
「奥様・・・ミアは後でがっつり叱っておきますので、羨ましがられませんように。」
その怖すぎる笑みに私は大きく頷いた。
■■
かちゃり、と軽い音で回った鍵を抜いてミアが大きな木製の扉を開く。
そのまま彼女は先に室内に入ると、締め切っていたカーテンを開けた。
暗かった部屋が明るくなり、壁沿いにずらりと並ぶ甲冑や、大きな剣、古そうな肖像画などが視界に浮かび上がる。
「うわあ。すごいわね。・・・でも、ここは本当に物置部屋なの?宝物庫に近いんじゃない?」
「本当ですね。屋敷内にもこういうものがあちこち飾ってありますけど、たまにここのと入れ替えているんじゃないですかね?」
「なるほど、だから物置部屋って呼んでるのね。私、甲冑が入れ替わっていても違いが判らないかもしれないわ・・・。」
「私もですよ。」
今はミアと2人なので気軽に話しかければ、彼女も室内をぐるっと見渡し、頷いた。
2人で端から1つづつ見ていく。
甲冑の細工をよく見ようと、顔を近づければけほっと咳が出た。
「ちょっと埃っぽいですねえ。あ、奥様のドレスにも付いちゃってる。拭くもの取ってきますね。待ってて下さい。」
ミアがそう言うなり、また走って出ていった。
ロッテにさっきの分と合わせてもっと怒られるかもしれない・・・廊下は走らないように伝えておけばよかった。
でも、彼女は昨日も同じことを言われてた気がするわ。
1人になった私は目の前の女性の肖像画を眺めた。かなり古いけど、リーンと同じ髪と目の色であるのは分かる。
ハーフェルト家に多い色なんだと、以前1階に飾られている先々代の肖像画の前でリーンが説明してくれた。
ということは、私達の子供も、この色なのかしら。
当たり前にリーンとの子供のことを考えた自分が急に恥ずかしくなって、誰も居ない部屋で顔を赤くしてジタバタしてしまった。
ばんっ「痛っ!」
それで手が近くの棚に当たってしまい、棚に置いてある小物が少し動いてしまった。
「ああ、直しておかないと・・・わあっ!」
棚へ手を伸ばした途端、足元の何かに躓いて盛大にこけ、棚の横の壁に思いっきり激突してしまった。
当たった肩を擦りながら起き上がり、何か壊してないか確認すれば、なんと棚が回転して壁の中に続く階段が見えていた。
嘘でしょ?!こんな、冒険小説みたいな展開ってあり?
どこに繋がっているのか、気になって入ってみる。灯りがないので入り口は開けておくつもりだったのに、入った拍子に閉まってしまった。
これでは何も見えないし怖いので、すぐ戻ろうと棚の裏を押す。
・・・動かない。え、もしかして、こっちからは開かないの?!
「仕方ない、せっかくだから進んでみましょう。屋敷内のどこかに出られるでしょ。」
壁に手を付けて、もう片方の手でドレスを捲り上げ、私は真っ暗闇の中を歩き出した。
ヒールのない靴を履いていて良かった!
■■
※リーンハルト視点
雨でエミーリアが退屈しているだろうと、早めに仕事を終えて帰邸したら、なんだか屋敷の様子がおかしい。
いつもなら手の空いている使用人達と、可愛い妻が整然と出迎えてくれる筈なのに、今日は真っ青な顔の執事とばたばた動き回っている人々が見える。
「ねえ、ヘンリック先触れ出したよね。それとも、うちは夜逃げの予定でもあったっけ?」
「ないですね。奥様が模様替えでもなさっているのでは?」
「そうは見えないけど?」
目の前を行き交う人は皆、顔が青いし、とても焦っている。
夜逃げの用意にしか見えないんだけど?
エミーリアが投機に手を出して全財産すったとか?・・・この短時間ではありえないね。
「だ、旦那様、おかえりなさいませ。実は・・・」
今にも倒れそうな執事がようやく僕に気がついて話しかけて来た。
「お、奥様のお姿が見えなくなりまして、屋敷中を探しているのですが、未だ見つけられず・・・」
「えっ?!エミーリアがいなくなったの?いつから?外には出てない?」
まさか、僕に愛想を尽かしたとか、どこかの男と駆け落ちとかないよね?!そんな気配、微塵もなかったよね?!
矢継ぎ早に追及しながら、悪い想像が頭を過ぎる。
「それが、お茶の後に3階の物置部屋でお一人になった、その少しの間に消えてしまわれまして。その時間、廊下や階段にいた者達もお姿を見ていないというので、外に出られた可能性は低いかと思うのですが・・・」
執事の説明に、ふっとある記憶が蘇った。
「あのガラクタ置き場から短時間に消えて、誰も見ていない・・・。もしかしたら!」
思いつくと居ても立ってもいられず3階まで駆け上がり、開けっ放しの物置部屋へ入ると真っ直ぐ棚へ駆け寄る。
側の壁の模様が一部ずれている部分を強く叩けば、棚が回転した。
追いついてきた執事とヘンリックが目を丸くしている。
「隠し通路だよ。知らなかった?僕は子供の頃に図書室で見つけた文献で読んで知って、実際に通ったことがある。お祖父様もご存知なかったのかもね。」
案の定、部屋の明かりに照らされた下への階段には埃が積もっており、その中に新しい足跡がずっと続いていた。
間違いない。エミーリアは何故かここを見つけて1人で行っちゃったんだ。
単なる好奇心か、僕から逃げたくなったのか、どちらにせよ早急に彼女をこの手に取り戻さなければならない。
さて、どうするか。
(久しぶりに新婚時代の話です。)
今日は朝から雨が降っている。夫のリーンは城へ行き、残った私は公爵夫人の勉強として、お昼を挟んで先程までマナーや領地経営、帳簿等について教わっていた。
「奥様、この後は夕食まで自由に過ごして頂けますが、いかがされますか?」
お茶のお代わりを淹れるロッテに、尋ねられて考え込んだ。
いつもなら庭の探検に行くのだけど・・・。前回雨だったときは屋敷内を見て回った。
そういえば、まだ見ていない部屋があったからそこへ行ってみよう。
「3階の物置部屋に行ってみたいのだけど、いいかしら?」
「ええ。では鍵を持ってまいりますね。」
「私がもらってきます!」
手持ち無沙汰にしていたミアが、勢いよく手を上げて走っていった。
ミアが廊下を走る足音を聞きながら、
「いいなあ、ミア。私も走りたいわ。」
と漏らすと、ロッテが笑顔になった。
「奥様・・・ミアは後でがっつり叱っておきますので、羨ましがられませんように。」
その怖すぎる笑みに私は大きく頷いた。
■■
かちゃり、と軽い音で回った鍵を抜いてミアが大きな木製の扉を開く。
そのまま彼女は先に室内に入ると、締め切っていたカーテンを開けた。
暗かった部屋が明るくなり、壁沿いにずらりと並ぶ甲冑や、大きな剣、古そうな肖像画などが視界に浮かび上がる。
「うわあ。すごいわね。・・・でも、ここは本当に物置部屋なの?宝物庫に近いんじゃない?」
「本当ですね。屋敷内にもこういうものがあちこち飾ってありますけど、たまにここのと入れ替えているんじゃないですかね?」
「なるほど、だから物置部屋って呼んでるのね。私、甲冑が入れ替わっていても違いが判らないかもしれないわ・・・。」
「私もですよ。」
今はミアと2人なので気軽に話しかければ、彼女も室内をぐるっと見渡し、頷いた。
2人で端から1つづつ見ていく。
甲冑の細工をよく見ようと、顔を近づければけほっと咳が出た。
「ちょっと埃っぽいですねえ。あ、奥様のドレスにも付いちゃってる。拭くもの取ってきますね。待ってて下さい。」
ミアがそう言うなり、また走って出ていった。
ロッテにさっきの分と合わせてもっと怒られるかもしれない・・・廊下は走らないように伝えておけばよかった。
でも、彼女は昨日も同じことを言われてた気がするわ。
1人になった私は目の前の女性の肖像画を眺めた。かなり古いけど、リーンと同じ髪と目の色であるのは分かる。
ハーフェルト家に多い色なんだと、以前1階に飾られている先々代の肖像画の前でリーンが説明してくれた。
ということは、私達の子供も、この色なのかしら。
当たり前にリーンとの子供のことを考えた自分が急に恥ずかしくなって、誰も居ない部屋で顔を赤くしてジタバタしてしまった。
ばんっ「痛っ!」
それで手が近くの棚に当たってしまい、棚に置いてある小物が少し動いてしまった。
「ああ、直しておかないと・・・わあっ!」
棚へ手を伸ばした途端、足元の何かに躓いて盛大にこけ、棚の横の壁に思いっきり激突してしまった。
当たった肩を擦りながら起き上がり、何か壊してないか確認すれば、なんと棚が回転して壁の中に続く階段が見えていた。
嘘でしょ?!こんな、冒険小説みたいな展開ってあり?
どこに繋がっているのか、気になって入ってみる。灯りがないので入り口は開けておくつもりだったのに、入った拍子に閉まってしまった。
これでは何も見えないし怖いので、すぐ戻ろうと棚の裏を押す。
・・・動かない。え、もしかして、こっちからは開かないの?!
「仕方ない、せっかくだから進んでみましょう。屋敷内のどこかに出られるでしょ。」
壁に手を付けて、もう片方の手でドレスを捲り上げ、私は真っ暗闇の中を歩き出した。
ヒールのない靴を履いていて良かった!
■■
※リーンハルト視点
雨でエミーリアが退屈しているだろうと、早めに仕事を終えて帰邸したら、なんだか屋敷の様子がおかしい。
いつもなら手の空いている使用人達と、可愛い妻が整然と出迎えてくれる筈なのに、今日は真っ青な顔の執事とばたばた動き回っている人々が見える。
「ねえ、ヘンリック先触れ出したよね。それとも、うちは夜逃げの予定でもあったっけ?」
「ないですね。奥様が模様替えでもなさっているのでは?」
「そうは見えないけど?」
目の前を行き交う人は皆、顔が青いし、とても焦っている。
夜逃げの用意にしか見えないんだけど?
エミーリアが投機に手を出して全財産すったとか?・・・この短時間ではありえないね。
「だ、旦那様、おかえりなさいませ。実は・・・」
今にも倒れそうな執事がようやく僕に気がついて話しかけて来た。
「お、奥様のお姿が見えなくなりまして、屋敷中を探しているのですが、未だ見つけられず・・・」
「えっ?!エミーリアがいなくなったの?いつから?外には出てない?」
まさか、僕に愛想を尽かしたとか、どこかの男と駆け落ちとかないよね?!そんな気配、微塵もなかったよね?!
矢継ぎ早に追及しながら、悪い想像が頭を過ぎる。
「それが、お茶の後に3階の物置部屋でお一人になった、その少しの間に消えてしまわれまして。その時間、廊下や階段にいた者達もお姿を見ていないというので、外に出られた可能性は低いかと思うのですが・・・」
執事の説明に、ふっとある記憶が蘇った。
「あのガラクタ置き場から短時間に消えて、誰も見ていない・・・。もしかしたら!」
思いつくと居ても立ってもいられず3階まで駆け上がり、開けっ放しの物置部屋へ入ると真っ直ぐ棚へ駆け寄る。
側の壁の模様が一部ずれている部分を強く叩けば、棚が回転した。
追いついてきた執事とヘンリックが目を丸くしている。
「隠し通路だよ。知らなかった?僕は子供の頃に図書室で見つけた文献で読んで知って、実際に通ったことがある。お祖父様もご存知なかったのかもね。」
案の定、部屋の明かりに照らされた下への階段には埃が積もっており、その中に新しい足跡がずっと続いていた。
間違いない。エミーリアは何故かここを見つけて1人で行っちゃったんだ。
単なる好奇心か、僕から逃げたくなったのか、どちらにせよ早急に彼女をこの手に取り戻さなければならない。
さて、どうするか。
応援ありがとうございます!
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