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儂は誰じゃ
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ーシャンシャンシャン!
錫杖が揺すられ、涼やかな音が響き渡る。
右手は祈るように口元にあてられ、経が唱えられる。
「ぐおおおっ!」
「大人しくするのじゃ!ここはお主のいる世界ではないのじゃ!」
「動くでないぞ!動けば叩き切る!」
暴れる悪霊を、仏像モドキが諫め、もう一人の仏像モドキが、腰のものに手を掛け、厳しい目で悪霊を睨みつける。
もう一人は、俺の隣で錫杖を揺すっている。
俺は風呂に入っている。
仏像モドキと一緒に湯船に浸かっている訳だが。
まさか、毎日こんな大立ち回りが行われていようとは。
「あの、何で風呂場に?」
間が保たないので、話し掛けてみる。
仏像モドキは、几帳面に読経を止めてこちらに振り返った。
「風呂では穢れが落とされるから、悪霊が出て来るのじゃ。」
「なるほど。毎日ありがとうございます。」
「うむ。」
それ以上会話も続かず、風呂場の上の隅で行われている揉み合いを、ぼんやりと眺める。
「あいつが俺を見てる!俺に取り憑いて欲しいのだ!」
何でやねん。
悪霊が、ぐおおおっと雄叫びを上げながら、襲い掛かって来る。
ーズバシャァッ
しかし寸での所で、悪霊が切り裂かれた。
刀を構える仏像モドキ。
背には炎を背負い、肌は赤く、髪は逆立っている。
突として、腰につけた縄を手に取り、投げると悪霊の首に掛かった。
隙を見て逃げ出そうとした悪霊が居たようだ。
ふんじばって縄を引き、悪霊を踏み付ける。
「申し開きしてみよ!」
「すごい…時代劇みたいだ。」
思わず拍手を送ると、ちらりとこちらを振り返る。
満更でも無さそうだ。
「お主の居るべき場所へ帰るのじゃ。」
すると、別の仏像モドキが、縄を引っ張って、何処ぞへと悪霊を連れて行った。
やれやれ…
ザバリと風呂から上がる。
一番リラックス出来るはずの、睡眠時と風呂で疲れがたまるんだが。
「あははっ」
テレビを見て思わず笑うと、仏像モドキが飛び上がって振り返る。
こっちも一緒に飛び上がる。
落ち着かない…
あの美少女が、目が覚めたら変わると言っていたのはこの事だったのだろうか。
おちおちテレビも見れない。
どうにかならんだろうか。
「もう、寝よう。」
ベッドに入って目を瞑るのだが、ものすごい視線を感じる。
そちらを見ると、至近距離で仏像モドキが俺を見ている。
「どうしたのじゃ?」
久しぶりに帰って来た、ご主人様を出迎える犬の様に、前のめりで食い付いてくる。
「あの、気になって眠れないんで、見ないでもらえますか?」
「そうじゃったのか。」
再び目を閉じるが、視線を感じる。
薄目で見るとやはり、仏像モドキが覗き込んでいる。
「あの…」
「寂しいのじゃ。」
「…」
「いつも、人間を守ってやっても相手は儂の声は聞こえんのじゃ。儂の声が聞こえたのは、お主で、700年振りなのじゃ。孤独なのじゃ。」
「…」
「儂は自分が何なのか分からんのじゃ。もう1200年このままなのじゃ。お主は知っておるんじゃないかのう?」
知らんがな。
「儂は誰じゃ。」
それ、あんたが教える方なんじゃないの?
錫杖が揺すられ、涼やかな音が響き渡る。
右手は祈るように口元にあてられ、経が唱えられる。
「ぐおおおっ!」
「大人しくするのじゃ!ここはお主のいる世界ではないのじゃ!」
「動くでないぞ!動けば叩き切る!」
暴れる悪霊を、仏像モドキが諫め、もう一人の仏像モドキが、腰のものに手を掛け、厳しい目で悪霊を睨みつける。
もう一人は、俺の隣で錫杖を揺すっている。
俺は風呂に入っている。
仏像モドキと一緒に湯船に浸かっている訳だが。
まさか、毎日こんな大立ち回りが行われていようとは。
「あの、何で風呂場に?」
間が保たないので、話し掛けてみる。
仏像モドキは、几帳面に読経を止めてこちらに振り返った。
「風呂では穢れが落とされるから、悪霊が出て来るのじゃ。」
「なるほど。毎日ありがとうございます。」
「うむ。」
それ以上会話も続かず、風呂場の上の隅で行われている揉み合いを、ぼんやりと眺める。
「あいつが俺を見てる!俺に取り憑いて欲しいのだ!」
何でやねん。
悪霊が、ぐおおおっと雄叫びを上げながら、襲い掛かって来る。
ーズバシャァッ
しかし寸での所で、悪霊が切り裂かれた。
刀を構える仏像モドキ。
背には炎を背負い、肌は赤く、髪は逆立っている。
突として、腰につけた縄を手に取り、投げると悪霊の首に掛かった。
隙を見て逃げ出そうとした悪霊が居たようだ。
ふんじばって縄を引き、悪霊を踏み付ける。
「申し開きしてみよ!」
「すごい…時代劇みたいだ。」
思わず拍手を送ると、ちらりとこちらを振り返る。
満更でも無さそうだ。
「お主の居るべき場所へ帰るのじゃ。」
すると、別の仏像モドキが、縄を引っ張って、何処ぞへと悪霊を連れて行った。
やれやれ…
ザバリと風呂から上がる。
一番リラックス出来るはずの、睡眠時と風呂で疲れがたまるんだが。
「あははっ」
テレビを見て思わず笑うと、仏像モドキが飛び上がって振り返る。
こっちも一緒に飛び上がる。
落ち着かない…
あの美少女が、目が覚めたら変わると言っていたのはこの事だったのだろうか。
おちおちテレビも見れない。
どうにかならんだろうか。
「もう、寝よう。」
ベッドに入って目を瞑るのだが、ものすごい視線を感じる。
そちらを見ると、至近距離で仏像モドキが俺を見ている。
「どうしたのじゃ?」
久しぶりに帰って来た、ご主人様を出迎える犬の様に、前のめりで食い付いてくる。
「あの、気になって眠れないんで、見ないでもらえますか?」
「そうじゃったのか。」
再び目を閉じるが、視線を感じる。
薄目で見るとやはり、仏像モドキが覗き込んでいる。
「あの…」
「寂しいのじゃ。」
「…」
「いつも、人間を守ってやっても相手は儂の声は聞こえんのじゃ。儂の声が聞こえたのは、お主で、700年振りなのじゃ。孤独なのじゃ。」
「…」
「儂は自分が何なのか分からんのじゃ。もう1200年このままなのじゃ。お主は知っておるんじゃないかのう?」
知らんがな。
「儂は誰じゃ。」
それ、あんたが教える方なんじゃないの?
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