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27.英雄
「まさかこのような出会いがあろうとは。どこの御令嬢かは存じませんが、お名前をお聞きしても?」
ロビーの一歩手前まで来たところで、私は一人の外人力士……いや、この世界のイケメンに絡まれていた。
今日の結婚式の招待客の一人らしく、煌びやかな衣装を着ている。
恰幅の良さを強調しているのか、大きな腹の下には宝石があしらわれた太いベルトが巻かれていた。
その近くには付き人らしき男性が控えていて、こちらを警戒する目で見ている。
警戒したいのは寧ろこっちなんですけど。
「あの……どなたですか?」
名乗りもせずにいきなり名前を聞いてくる事自体がアレである。
聞き返すと、付き人が「無礼な! このお方は――」と眉をつり上げたが、力士が振り返って視線で黙らせた。
あれか。『やんごとなきお方』ってやつか。
面倒な予感がひしひしとする。
案の定こちらに向き直った力士は、胸に片手を当てて美しい所作で一礼をした。
「これは失礼を。私はカントリア・トリトン・ブリオスタと申します」
ブリオスタって……この国の王族!?
驚いて言葉を失っていると、付き人が「第三王子殿下の御名も知らぬのか?」と冷ややかな視線をくれた。
知らねーよこのタコ! と言いたいのを堪えて、私は仕方なく名乗った。
王族なら仕方がない。
「……リィナ・カンザーと申します」
「リィナ……名前までもなんと麗しい」
「カントリア様、カンザー家という貴族は聞いた事がございません。恐らくは庶民の娘かと」
付き人が王子に耳打ちする。内緒話のつもりだろうが駄々漏れである。
せめて聞こえないように言えっつーの。庶民だったら何?
あーもう面倒くさいなぁ。
「はい、その通りです。ですので、王子殿下におかれましては捨て置き下さりますよう。人を探していますので、御前を失礼致します」
私は相手の返事も聞かずにさっさと逃げる事にした。
「ま、待って欲しい!」
「ぎゃっ」
王子がドレスの袖を掴んだ。私は引っ張られて姿勢を崩す。
転倒しそうになったのを、王子が抱きとめる。王子の顔をまじまじと見る格好になった。
以外に力あるな、王子。あ、力士だからか――ってそんな場合じゃない!
「は、離して下さい!」
ただでさえ、デブ同士の密着って暑苦しいのに!
「娘、殿下のお話はまだ終わっておらん。これだから庶民は――如何なさいますか、殿下。お召しになりますか?」
何なの一体! お召しって?
付き人の差別感丸出しの言葉とその不穏さに私は恐慌状態に陥った。
泣きそうになっていると、
「黙れ、エスピーア! 私の付き人が失礼な事を言った。申し訳ない」
済まなさそうに言いながら王子は私を立たせてくれた。
しかし私が転びかけたのはそもそもこいつのせいである。
あんたも謝って欲しいんだけど、という思いを大人の対応で封印し、私はいいえと首を振った。
「では私はこれで失礼しますので離して下さい」
手を握られているのを振り解こうとする。人の事言えないけど、脂汗と贅肉の感触が気持ち悪い。
しかし王子は離してくれない。
「そなたと少し話してみたい。こんな気持ちは初めてなんだ」
「いえ、人を探しておりますので」
どうしよう。
話が噛み合わない、というか聞いてもらえない。
いっそ、無理やり突き飛ばして逃げようか。
そう考えたのが分かったのか、付き人がロビーへの進路に立ちふさがった。
「殿下がお話しを望んでおられるのだ。言う通りにせよ」
「ここでは何だから、私の部屋へ……」
部屋――って、個室ってこと!?
「い、嫌……」
ひいぃ、部屋なんて冗談じゃない!
必死に抵抗していると、従者がいきなりうわっと声を上げて通路の端に押しのけられた。
「なっ……何をする!!」
王子が叫ぶ。
動揺したのか手が緩んだので、私は振りほどいてその人のところへ走った。
「カイルさん!」
助かった!
嬉しさのあまりひしと抱き着く。
「カイル・シャン・イグレシア……」
王子の呆然とした声。従者が悲鳴を上げた。
「ひっ、白金級でございますよ、カントリア様!」
「何をする、ですか。それはこちらの言いたい事ですが。第三王子が俺の婚約者に何をなさろうと?」
苛立たし気なカイルさんの声。
王子と従者は目を最大限に見開いて驚いている。
「こ、婚約者……」
「あ、あんな醜男にこんな美女だと!?」
何か凄くムカついたので、私はカイルさんに甘えるようにしなだれかかった。
「ああ、怖かった……迎えに来てくれたんですね、凄く嬉しい」
「リィナ、もう大丈夫だ。なかなか来ないから心配したぞ。さあ、行こうか」
カイルさんに促されてロビーへと向かおうと歩き出した時。
漸く我に返った従者の声が追いかけて来た。
「――王族に無礼を働くか、白金級!」
カイルさんが歩みを止めた。ゆっくりと振り返る。
「王族に無礼だというなら、『シャン』の名を返上し、この国から出て行っても俺は別に構わないし困らない。元より、冒険者には国境はないんだ……俺をあまり怒らせない方がいいぞ」
ロビーの一歩手前まで来たところで、私は一人の外人力士……いや、この世界のイケメンに絡まれていた。
今日の結婚式の招待客の一人らしく、煌びやかな衣装を着ている。
恰幅の良さを強調しているのか、大きな腹の下には宝石があしらわれた太いベルトが巻かれていた。
その近くには付き人らしき男性が控えていて、こちらを警戒する目で見ている。
警戒したいのは寧ろこっちなんですけど。
「あの……どなたですか?」
名乗りもせずにいきなり名前を聞いてくる事自体がアレである。
聞き返すと、付き人が「無礼な! このお方は――」と眉をつり上げたが、力士が振り返って視線で黙らせた。
あれか。『やんごとなきお方』ってやつか。
面倒な予感がひしひしとする。
案の定こちらに向き直った力士は、胸に片手を当てて美しい所作で一礼をした。
「これは失礼を。私はカントリア・トリトン・ブリオスタと申します」
ブリオスタって……この国の王族!?
驚いて言葉を失っていると、付き人が「第三王子殿下の御名も知らぬのか?」と冷ややかな視線をくれた。
知らねーよこのタコ! と言いたいのを堪えて、私は仕方なく名乗った。
王族なら仕方がない。
「……リィナ・カンザーと申します」
「リィナ……名前までもなんと麗しい」
「カントリア様、カンザー家という貴族は聞いた事がございません。恐らくは庶民の娘かと」
付き人が王子に耳打ちする。内緒話のつもりだろうが駄々漏れである。
せめて聞こえないように言えっつーの。庶民だったら何?
あーもう面倒くさいなぁ。
「はい、その通りです。ですので、王子殿下におかれましては捨て置き下さりますよう。人を探していますので、御前を失礼致します」
私は相手の返事も聞かずにさっさと逃げる事にした。
「ま、待って欲しい!」
「ぎゃっ」
王子がドレスの袖を掴んだ。私は引っ張られて姿勢を崩す。
転倒しそうになったのを、王子が抱きとめる。王子の顔をまじまじと見る格好になった。
以外に力あるな、王子。あ、力士だからか――ってそんな場合じゃない!
「は、離して下さい!」
ただでさえ、デブ同士の密着って暑苦しいのに!
「娘、殿下のお話はまだ終わっておらん。これだから庶民は――如何なさいますか、殿下。お召しになりますか?」
何なの一体! お召しって?
付き人の差別感丸出しの言葉とその不穏さに私は恐慌状態に陥った。
泣きそうになっていると、
「黙れ、エスピーア! 私の付き人が失礼な事を言った。申し訳ない」
済まなさそうに言いながら王子は私を立たせてくれた。
しかし私が転びかけたのはそもそもこいつのせいである。
あんたも謝って欲しいんだけど、という思いを大人の対応で封印し、私はいいえと首を振った。
「では私はこれで失礼しますので離して下さい」
手を握られているのを振り解こうとする。人の事言えないけど、脂汗と贅肉の感触が気持ち悪い。
しかし王子は離してくれない。
「そなたと少し話してみたい。こんな気持ちは初めてなんだ」
「いえ、人を探しておりますので」
どうしよう。
話が噛み合わない、というか聞いてもらえない。
いっそ、無理やり突き飛ばして逃げようか。
そう考えたのが分かったのか、付き人がロビーへの進路に立ちふさがった。
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「ここでは何だから、私の部屋へ……」
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ひいぃ、部屋なんて冗談じゃない!
必死に抵抗していると、従者がいきなりうわっと声を上げて通路の端に押しのけられた。
「なっ……何をする!!」
王子が叫ぶ。
動揺したのか手が緩んだので、私は振りほどいてその人のところへ走った。
「カイルさん!」
助かった!
嬉しさのあまりひしと抱き着く。
「カイル・シャン・イグレシア……」
王子の呆然とした声。従者が悲鳴を上げた。
「ひっ、白金級でございますよ、カントリア様!」
「何をする、ですか。それはこちらの言いたい事ですが。第三王子が俺の婚約者に何をなさろうと?」
苛立たし気なカイルさんの声。
王子と従者は目を最大限に見開いて驚いている。
「こ、婚約者……」
「あ、あんな醜男にこんな美女だと!?」
何か凄くムカついたので、私はカイルさんに甘えるようにしなだれかかった。
「ああ、怖かった……迎えに来てくれたんですね、凄く嬉しい」
「リィナ、もう大丈夫だ。なかなか来ないから心配したぞ。さあ、行こうか」
カイルさんに促されてロビーへと向かおうと歩き出した時。
漸く我に返った従者の声が追いかけて来た。
「――王族に無礼を働くか、白金級!」
カイルさんが歩みを止めた。ゆっくりと振り返る。
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