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第1章 出会い

閑話 勇者

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 これは以前、邪魔だったアベルを追い出した後、勇者パーティーで起こった出来事である。





「よし! これで、あの邪魔な平民が出て行ったな!」

 俺はパーティーから去って行くアベルの背中を見ながら、笑い続ける。ふふ、ようやく邪魔な平民が出て行ったな。これで、俺の好きなようにできる!
 長かった。アイツを追い出すために、どれだけの作戦を考えたか。暗殺なども考えたが、アイツも少なからず、実力があった。殺すとなると、こちらも被害が出ることは避けられない。実力だけは認めていた。ま、俺には負けるがな!
 だが、ついに俺はアイツを追い出すことに成功したのだ。今思い出しても笑いがこみ上げてくる。この達成感は口では言い表すことのできない素晴らしいものであった。
 全く……あのジジイどももジジイどもだ。なんで、あんなクソ野郎を俺たちの神聖な勇者パーティーなどに入れたのか。思い出すだけで腹が立つ。
 




 俺たちがパーティーを作って魔王を倒しに行くように言われたのは、一年くらい前のことであろうか? それくらいの時期に俺たちは王城に呼ばれ、王と謁見したのだ。そのときに言われたのが、勇者パーティー結成のことだった。
 俺は内心、このチャンスに喜んでいた。俺は貴族だが、長男ではないから、家を継ぐことはできない。次男であれば、チャンスもあったかもしれないが、俺はもっと下だった。家を継ぐことは不可能に近かった。
 だが、勇者パーティーとして魔王を倒せば、領主どころではない。もっと上の位をもらえる可能性もあった。このチャンスを逃すはずもなかった。

 もちろん、勇者パーティー結成の時に呼ばれたのは俺たちだけではない。多くの人間が集められた。曰く、この中から勝ち抜きで勇者を選ぶらしかった。いや、少し語弊があるな。いくつかのグループに分かれて、一斉に行う――バトルロワイヤルであった。
 面倒くさいと思いながらも、実力のない者を勇者にするのも問題なので、それは仕方ないと割り切った。

 で、実際の試合だ。結果は俺は勝ち上がった。一回戦は危なげもなく勝った。流石、勇者候補の俺である。素晴らしい。
 余裕があった俺は、俺以外の候補者たちを見やる。彼らの格好はしっかりとしたもの――言うなれば、貴族のものだ。
 
 この場に集まっているのは貴族だけではなく、汚い平民どももいる。名目上は実力ある者が勇者パーティーのメンバーになるというものだったからだ。実力があると思った勘違いが自主的に参加したのだ。
 あ、言い忘れていたが、参加は自由。そんな中、俺は直接お呼ばれしたのだ。いいたいことはわかるだろう? ふっ。
 だが、それは本当に名目上の話だ。そもそも、なぜバトルロワイヤルが行われているかわかるか? 簡単だ。貴族有利になるようにするためだ。
 
 ここには勇者パーティーに入りたい者以外も参加している。そう、主に従える従者たちが、主を勝たせるために参加しているのだ。俺の従者も参加していたが、俺が一番敵を倒していた。当然だろ? ←(本当か?)
 冒険者……平民は意地汚い奴らが多い。協力なんて言葉は知らないだろう。だって、平民だから(笑)。
 だから当然、勝ち上がった者の中に、平民などいないのだ――ッ!





……と、俺は思っていたのだ。ここでイレギュラーが発生したのだ。俺はソイツの姿を見て戦慄した。

 ソイツの名前はアベル。家名はない。平民だ。
 奴の職業は魔術師ということになっている。なぜ断定的でないのかというと、魔法を一度も使わなかったからだ。
 奴は相手の攻撃をすべて紙一重で避け、一人一人丁寧にカウンターを拳で決めていく、美しい戦い方であった。平民どもがやるような美しくない攻撃ではない。一つ一つが洗練された熟練者の動きであったのだ。
 なぜあのような平民がこれほどの実力を? 俺は不思議にならないはずがなかった。

 その後の最終試合。アベルと名乗った自称魔術師は開始一秒で決着をつけた。……自身の蹴りを相手に入れて。
 結局、最後までアベルは魔術師らしい戦い方をしなかった。だが、俺はしっかりと見えていた。これでも勇者だからな。あ、勇者は俺になりました。当然だな!
 奴は攻撃前、微かにだが、口を動かして詠唱していた。つまり、魔法を唱えていたのだ。そこで俺は理解した。アイツは魔法剣士なのだと。

 ここで疑問に思った。魔法剣士は魔術師に含まれるのだが、あまり数はいない。というのも、そもそも剣士と呼ばれるだけあって、魔法剣士は近接職なのだ。当然、他の近接職と役割が被る。
 それ以外にも、下手に細かい魔法をかけるよりも、大まかな一撃で決める――これが一般に呼ばれる魔術師――ほうが、パーティーのバランスとしてもよくなる。つまり、魔法剣士であるメリットはほとんど存在しないのだ。

「平民の魔法剣士、アベルか……」

 これが、俺がアベルを初めて見たときのことであった。
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