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二章 《林間合宿編》
ヒロインの仲裁と勇気の行方
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「山登り苦手なのに何でまた……はぁ…」
「私が背負ってあげてもいいのよ?ヒヨコちゃん」
「お断りします」
「ふふっ、残念」
残念そうに聞こえないんだけど…
むしろ、この状況を楽しんでるかの様な様子の桜桃 小豆に溜息とともに肩を落とす。
この状況を楽しんでるのは桜桃 小豆とヒロインの星七 苺だけだな
現在、川辺へ向かっているメンバーはキャンプファイヤーの準備係の柿本 蜜柑と男子生徒四人と話を切り出した桜桃 小豆と仲裁役のヒロインこと星七 苺。そして、救急箱を片手に登る私だ。
ちなみに、行く事を拒否した桜桃 凌牙は”たかが喧嘩に構ってられるか”との事だそうだ。
梅木 ライチは”面倒臭い”からという事だそうだ。
教師の棗 杏子は行こうとしたが周りの生徒達が”行ったら逆にややこしくなるからダメ!”という理由で全力で止められたそうだ。
その他の男子生徒や女子生徒達は”行っても役には立たないからという理由で拒否したそうだ。そして、これら全ての証言は走り回っていた桜桃 小豆とヒロインこと星七 苺の二名の証言である。
「確かこの辺だったわよね?」
ようやく目的地の川辺に付き小豆の声を元に皆が周りを見渡すと、数人の男子生徒が会長と思われるボロボロ姿のグアバを囲んでおりその目の前で木通 檸檬と国光 林檎の二人の言い争いがまだ行われていた。
そして、実際にその現場を目の当たりし『”まだやっていたのか……』という皆の心の声が聞こえた気がした。
「誰にでも良い顔して女子のファン集めてるけど、それって苺ちゃんに嫌われるだけなんじゃないの~?」
「それはりんりんも言えた事じゃないでしょ?りんりんなんか、女子にちやほやされるのめんどいとか言いながら逆に楽しんでるくせに!」
「はぁ?楽しんでないし!俺がそういうのされたいのは苺ちゃんだけだし!」
なんて言ったらいいんだろうか……子供の喧嘩みたいだ
二人のくだらない言い争いの内容にその場に居た全員が呆れてしまった。
「ちょっとー!そこまでにしなさ~~~~~~~いっ!」
「ちょっと、苺!?」
急に飛び出して行ったヒロインに驚き気味に小豆が呼び止めた。
「任せて!私が止めてみせるわ!」
うわぁ、さすが頼もしいヒロインだー(棒読み)
「ちょっと二人とも!私の為に争わないでっ!!!」
少女漫画にでも出てきそうなセリフだ。まぁ、ヒロインにしか言えないセリフなんだけどね。
「っ…!?苺ちゃん」
「な、何で苺ちゃんが…!?」
間に割って入る苺に未だに空中で拳を構えたままの二人は驚いた顔のまま停止した。
「今のうちにグアバを助けなくては…」
あ、忘れてた
苺のヒロインらしい言動に気を取られすっかり忘れていたボロボロのグアバに視線を巡らせると慌てて駆け寄る蜜柑と小豆の姿があった。
「大丈夫ですか?グアバ」
「フンッ!俺を誰だと思っている?このくらいなんてこと…っ…!?」
傷だらけの体が痛むのか顔を顰めるとその様子を見るなり二人とも溜息をつく。
「はぁ…そんな無理しないで痛いなら痛いでいいじゃない」
「そうですよ。止める事は出来なかったとしても会長として役目はちゃんと果たしたのですから、これ以上意地張って頑張らなくても大丈夫ですよ」
「そうよ!こんなに頑張って苺に見向きもされなくてもグアバが頑張った事は皆知ってるわ!」
あー、これはダメなやつだ
「うっ……煩い煩い煩い!!!お前ら邪魔だ!もう俺に構うな!あっちいってろ!」
ほらね
会長として二人を止められなかった事や頑張ったのに見向きもしなかった苺の事について言われたせいで傷口に塩を塗りつけられたグアバはやけになった。まぁ、あれだけ言われたらメンタルが弱すぎるグアバがやけになるのも納得はいく。
「はぁ…分かったわ。もう勝手にして」
「グアバはここに放っておいて、私達は他の生徒達に怪我がないか見て回りましょうか?」
「そうね、他に怪我している人がいたら大変だし…そうしましょう」
そういうと二人は振り返る事もなく周りの生徒達に声をかけていった。
さて、私はどうすれば……
手には救急箱、周りには放置されたグアバと……
「あっ!」
視界に入ったのは顔面を殴られ倒れている委員長こと小堺 瓜の姿だった。
会長に救急箱渡すのも癪に障るし、ここは委員長を治すでいいや
倒れている委員長に駆け寄るなり頭を膝に置き意識があるのか呼びかける。
「委員長?大丈夫ですか?」
「んっ……う?うわぁぁぁァァァ!?え、ええええっと…ななななんで星野さんがっ!?」
目を開けるなりお化けを見たかのような驚き様から無意識かすかさず離れる委員長の行動に何度か瞬きをすると冷静に返事をする。
「目が覚めてくれて何よりです。傷の手当をするのでここにどうぞ」
膝をポンポンと叩き誘導するとどういう意味かを察したのか徐々に顔を赤らませ口をパクパクし始めた。
「ぼ、僕なんかにそんな贅沢なんか…それに、膝を痛めてまでしなくても大丈夫ですよっ!」
「そうですか……なら、救急箱をここに置いて勝手に治療してもらうしかないですね」
「それはダメですっ!!!そんな事なら僕を縛り上げるなりして治療してくれて構いませんっ!」
シバリアゲル…?
「いや、普通に膝枕して治そうかと思っただけなんですけど…」
「確かに……それは普通ですね!」
こいつの普通はどこが基準なんだ?
ドM全開の委員長の発言についこいつ呼ばわりしてしまう始末である。
「…じゃあ、お願いしますっ!」
ようやく頭をのせてくれた膝の上で緊張気味で叫ぶ委員長にあくまで笑顔で接する。
「はい、大人しくしていてくださいね(口も)」
「は、はい!」
殴られ既に青くなっている右目当たりを消毒液を湿らせたコットンでそっとあてる。
「っ……」
そりゃあ痛いだろう。一人ならまだしも二人の攻撃だからな。
ゆっくりと優しく治療をしながら最後に目立たないように眼帯を付けると委員長の治療は終了した。
「ありがとうございますっ!このご恩は一生忘れません!」
「そんな大袈裟な。それより、他の皆さんが怪我がないか見てあげてきて下さい。
既に柿本先輩と小豆さんが見て回ってます」
「そ、そうですね!僕も星野さんにカッコイイところを見せる為に見て回ってきます!」
見て回るだけなのにカッコイイってなるのか?まぁ、いっか……一緒にいられるよりマシだし
グアバより面倒臭いかもしれないと若干疲れを感じた委員長だった。
「……ったく、何で俺の周りには誰も来ないんだ」
「それは会長が皆を追い払ったからでしょ?それとも星七さんだけ来て欲しかったからそうしたとかですか?」
「うっ…お前きたのか」
「人の顔見るなり鬼でも来たみたいな顔しないで下さいよ」
「だ、だって………怒らないのか?」
「は?何で?」
「お、俺が……ボロボロになっても止められなくて苺にカッコイイところ見せられなかったがらぁ…ひっ‥く……うぅ…」
急に涙ながらに弱音を吐くグアバに溜息混じり頬に手を伸ばす。
「ほら、分かったから傷みせて」
「おごらなぁぃ‥のがぁ…?」
「はいはい、怒らないから早く見せて」
「珍しく優しいから後で何かありそうで怖い」
「んー?今度は私に殴られたいんですか?」
遠回しの悪口とも取れる言葉にこめかみがピクピクと動くと拳を見せながら笑みをこぼした。
「ひっ……す、すみません冗談です」
青ざめながら謝るグアバに今回ばかりは見逃すかと許すのだった。
「……会長、これが終わったら星七さんにちゃんと顔を合わせて下さい」
「そ、それは無理だ!こんな俺の姿を見たら尚更嫌われるに決まってる」
「それでもボロボロになっても頑張ったのなら1パーセントでも振り向いてくれるかもしれないと私は思います。ここで勇気出さないで無関心でいられ続けるか?それとも、ここで勇気を出して1パーセントの可能性にかけるか?どっちがいいですか?」
「それは………」
返事に迷いがあるグアバの頭の包帯を止めるとそっと背中に手を置く。
「”私、応援します”」
あの湖で言った言葉を背中越しに言うとグアバは何故か耳を赤くし何度も首を縦に振る。
「っ……い、行ってくる!」
「はい」
どうか当たって砕けますように…などとは流石の私も思わない。何故ならこの後の結果は決まっていたからだ
「……い、苺」
意を決して呼びかけるグアバを他所に苺は只今争っていた二人の絶賛お説教中だったせいか眉間に皺を寄せ怒ったままの顔で振り返る。
「何?」
「っ……えっと、俺様がこいつら二人を止めに入ったんだ」
「それだけでしょ?止めたわけじゃないあなたは無能ね」
あー、この一言はキツい。さすがの彼もこれじゃあもう…
「……そうだよな」
ほらやっぱり…
「でも、少しだけ…」
「へ?」
え?
照れくさそうに手招きし頭を下げる様に促す苺にグアバ共々驚く。
「早く下げなさいよ!出来ないでしょ!グアちゃん」
「だから何を……っ!?」
言う通りに頭を下げるグアバに対して苺はそっと髪を撫でる。
「これくらいのご褒美ならあげてもいいかなって…ね?」
「苺…」
「ふふっ、今日だけ特別よ!二人も今日は見逃してあげるけど次また私の為に争ったりなんかしたらめっ!なんだから」
ヒロインに可愛らしくめっ!なんて言われたら普通このシーンだと二人は顔を赤くするはずだが……
「”…………う、うん”」
何だろうか?赤くするわけでもなく顔を見合わせるなり二人とも気まずそうに曖昧に頷いた。
「……おかしい」
「何がおかしいんですか?」
「柿本先輩」
突然隣で呼びかけられ振り向くと笑みを浮かべながらヒロイン達を見る柿本 蜜柑がいた。
「別に何も………それより、いいんですか?会長に星七さん取られてますけど」
「今日はいいんです。彼は頑張りましたからこれくらい当然のご褒美です」
「案外、大人な考えなんですね。それとも、内心は嫌で嫌で仕方ないとか?」
「おや?私はそんな子供ではないですよ。私はいつだって彼の味方ですから」
「ほんと腹黒ですね」
「あなたに言われたくはないですよ。彼の背中を押しながら本当は何を思っているか分からない……あなたの方が私は余程腹黒だと思いますが…?」
「ふふっ……これ以上の詮索は止めて下さい。不愉快です」
「すみません。あなたの事が気になってしまって……」
慌てて両手を上げ白旗を上げる柿本 蜜柑に顔を顰める。
何か気に食わない…嫌な意味で
「これ以上何も詮索しないならもういいですけど」
「そうですか、良かったです」
急ににこやかな笑みを浮かべ返す柿本 蜜柑を冷たい目で見つめる。
腹黒も苦手な部類だけどヤンデレのあいつよりはマシか
表は天然、裏はヤンデレの二重人格の教師が頭に浮かび自然と笑みが零れる。
「ふっ…」
「星野さん?」
「いえ、何でもないです。それより、そろそろ先生方も来そうですね…」
「それならちょうど近くまで来てたから誘導して連れてきたわよ」
そういう小豆の背後にはブルブルと小鹿の様に震える男性教師二名がいた。
生徒会メンバー同士の喧嘩って聞いて止めるのが先生達も怖かったのだろう
「苺のおかげで事も済んだみたいだし、そろそろ帰ろっか!」
「そうですね、キャンプファイヤーの準備もそろそろ終わる頃ですし後は料理も作らなければ…」
小豆と蜜柑はそう言いながら頷くとヒロイン達を呼びかけに行った。
木通 檸檬と国光 林檎の争いが起こった事もそれを鳳梨 グアバが止めに入った事も最後にはヒロインの苺がことをおさめる事もそれだけを取ればゲーム通りだっただろう。だが、現実は木通 檸檬と国光 林檎の争いの原因はヒロインの苺ではないようで…鳳梨 グアバが止めに入るもののゲームと違い中身がヘタレな彼は逆にボロボロになる始末。そして、それが影響のせいか鳳梨 グアバに対する苺のセリフがどことなく違うのだ。本来のゲーム内ではたった一人無傷のグアバはヒロインに何も言わずとも『やっぱりカッコイイね、会長』とヒロインが言うと鳳梨 グアバに抱きつく。そして、そのヒロインに『今日だけは特別だからな』と照れくさそうに呟くのだ。そう、逆なんだ。本来であれば。
「こうなる気がしたから最初から行く気にはなれなかったのに……ん?」
「待って」
食い違うゲームと現実の状況に頭を悩ませているとふと背後から誰かに腕を掴まれ振り向く。
「ちょっと話があるんだけど…」
振り向いた先にいたのは真剣な面持ちで真っ直ぐに見つめる国光 林檎がいた。
「私が背負ってあげてもいいのよ?ヒヨコちゃん」
「お断りします」
「ふふっ、残念」
残念そうに聞こえないんだけど…
むしろ、この状況を楽しんでるかの様な様子の桜桃 小豆に溜息とともに肩を落とす。
この状況を楽しんでるのは桜桃 小豆とヒロインの星七 苺だけだな
現在、川辺へ向かっているメンバーはキャンプファイヤーの準備係の柿本 蜜柑と男子生徒四人と話を切り出した桜桃 小豆と仲裁役のヒロインこと星七 苺。そして、救急箱を片手に登る私だ。
ちなみに、行く事を拒否した桜桃 凌牙は”たかが喧嘩に構ってられるか”との事だそうだ。
梅木 ライチは”面倒臭い”からという事だそうだ。
教師の棗 杏子は行こうとしたが周りの生徒達が”行ったら逆にややこしくなるからダメ!”という理由で全力で止められたそうだ。
その他の男子生徒や女子生徒達は”行っても役には立たないからという理由で拒否したそうだ。そして、これら全ての証言は走り回っていた桜桃 小豆とヒロインこと星七 苺の二名の証言である。
「確かこの辺だったわよね?」
ようやく目的地の川辺に付き小豆の声を元に皆が周りを見渡すと、数人の男子生徒が会長と思われるボロボロ姿のグアバを囲んでおりその目の前で木通 檸檬と国光 林檎の二人の言い争いがまだ行われていた。
そして、実際にその現場を目の当たりし『”まだやっていたのか……』という皆の心の声が聞こえた気がした。
「誰にでも良い顔して女子のファン集めてるけど、それって苺ちゃんに嫌われるだけなんじゃないの~?」
「それはりんりんも言えた事じゃないでしょ?りんりんなんか、女子にちやほやされるのめんどいとか言いながら逆に楽しんでるくせに!」
「はぁ?楽しんでないし!俺がそういうのされたいのは苺ちゃんだけだし!」
なんて言ったらいいんだろうか……子供の喧嘩みたいだ
二人のくだらない言い争いの内容にその場に居た全員が呆れてしまった。
「ちょっとー!そこまでにしなさ~~~~~~~いっ!」
「ちょっと、苺!?」
急に飛び出して行ったヒロインに驚き気味に小豆が呼び止めた。
「任せて!私が止めてみせるわ!」
うわぁ、さすが頼もしいヒロインだー(棒読み)
「ちょっと二人とも!私の為に争わないでっ!!!」
少女漫画にでも出てきそうなセリフだ。まぁ、ヒロインにしか言えないセリフなんだけどね。
「っ…!?苺ちゃん」
「な、何で苺ちゃんが…!?」
間に割って入る苺に未だに空中で拳を構えたままの二人は驚いた顔のまま停止した。
「今のうちにグアバを助けなくては…」
あ、忘れてた
苺のヒロインらしい言動に気を取られすっかり忘れていたボロボロのグアバに視線を巡らせると慌てて駆け寄る蜜柑と小豆の姿があった。
「大丈夫ですか?グアバ」
「フンッ!俺を誰だと思っている?このくらいなんてこと…っ…!?」
傷だらけの体が痛むのか顔を顰めるとその様子を見るなり二人とも溜息をつく。
「はぁ…そんな無理しないで痛いなら痛いでいいじゃない」
「そうですよ。止める事は出来なかったとしても会長として役目はちゃんと果たしたのですから、これ以上意地張って頑張らなくても大丈夫ですよ」
「そうよ!こんなに頑張って苺に見向きもされなくてもグアバが頑張った事は皆知ってるわ!」
あー、これはダメなやつだ
「うっ……煩い煩い煩い!!!お前ら邪魔だ!もう俺に構うな!あっちいってろ!」
ほらね
会長として二人を止められなかった事や頑張ったのに見向きもしなかった苺の事について言われたせいで傷口に塩を塗りつけられたグアバはやけになった。まぁ、あれだけ言われたらメンタルが弱すぎるグアバがやけになるのも納得はいく。
「はぁ…分かったわ。もう勝手にして」
「グアバはここに放っておいて、私達は他の生徒達に怪我がないか見て回りましょうか?」
「そうね、他に怪我している人がいたら大変だし…そうしましょう」
そういうと二人は振り返る事もなく周りの生徒達に声をかけていった。
さて、私はどうすれば……
手には救急箱、周りには放置されたグアバと……
「あっ!」
視界に入ったのは顔面を殴られ倒れている委員長こと小堺 瓜の姿だった。
会長に救急箱渡すのも癪に障るし、ここは委員長を治すでいいや
倒れている委員長に駆け寄るなり頭を膝に置き意識があるのか呼びかける。
「委員長?大丈夫ですか?」
「んっ……う?うわぁぁぁァァァ!?え、ええええっと…ななななんで星野さんがっ!?」
目を開けるなりお化けを見たかのような驚き様から無意識かすかさず離れる委員長の行動に何度か瞬きをすると冷静に返事をする。
「目が覚めてくれて何よりです。傷の手当をするのでここにどうぞ」
膝をポンポンと叩き誘導するとどういう意味かを察したのか徐々に顔を赤らませ口をパクパクし始めた。
「ぼ、僕なんかにそんな贅沢なんか…それに、膝を痛めてまでしなくても大丈夫ですよっ!」
「そうですか……なら、救急箱をここに置いて勝手に治療してもらうしかないですね」
「それはダメですっ!!!そんな事なら僕を縛り上げるなりして治療してくれて構いませんっ!」
シバリアゲル…?
「いや、普通に膝枕して治そうかと思っただけなんですけど…」
「確かに……それは普通ですね!」
こいつの普通はどこが基準なんだ?
ドM全開の委員長の発言についこいつ呼ばわりしてしまう始末である。
「…じゃあ、お願いしますっ!」
ようやく頭をのせてくれた膝の上で緊張気味で叫ぶ委員長にあくまで笑顔で接する。
「はい、大人しくしていてくださいね(口も)」
「は、はい!」
殴られ既に青くなっている右目当たりを消毒液を湿らせたコットンでそっとあてる。
「っ……」
そりゃあ痛いだろう。一人ならまだしも二人の攻撃だからな。
ゆっくりと優しく治療をしながら最後に目立たないように眼帯を付けると委員長の治療は終了した。
「ありがとうございますっ!このご恩は一生忘れません!」
「そんな大袈裟な。それより、他の皆さんが怪我がないか見てあげてきて下さい。
既に柿本先輩と小豆さんが見て回ってます」
「そ、そうですね!僕も星野さんにカッコイイところを見せる為に見て回ってきます!」
見て回るだけなのにカッコイイってなるのか?まぁ、いっか……一緒にいられるよりマシだし
グアバより面倒臭いかもしれないと若干疲れを感じた委員長だった。
「……ったく、何で俺の周りには誰も来ないんだ」
「それは会長が皆を追い払ったからでしょ?それとも星七さんだけ来て欲しかったからそうしたとかですか?」
「うっ…お前きたのか」
「人の顔見るなり鬼でも来たみたいな顔しないで下さいよ」
「だ、だって………怒らないのか?」
「は?何で?」
「お、俺が……ボロボロになっても止められなくて苺にカッコイイところ見せられなかったがらぁ…ひっ‥く……うぅ…」
急に涙ながらに弱音を吐くグアバに溜息混じり頬に手を伸ばす。
「ほら、分かったから傷みせて」
「おごらなぁぃ‥のがぁ…?」
「はいはい、怒らないから早く見せて」
「珍しく優しいから後で何かありそうで怖い」
「んー?今度は私に殴られたいんですか?」
遠回しの悪口とも取れる言葉にこめかみがピクピクと動くと拳を見せながら笑みをこぼした。
「ひっ……す、すみません冗談です」
青ざめながら謝るグアバに今回ばかりは見逃すかと許すのだった。
「……会長、これが終わったら星七さんにちゃんと顔を合わせて下さい」
「そ、それは無理だ!こんな俺の姿を見たら尚更嫌われるに決まってる」
「それでもボロボロになっても頑張ったのなら1パーセントでも振り向いてくれるかもしれないと私は思います。ここで勇気出さないで無関心でいられ続けるか?それとも、ここで勇気を出して1パーセントの可能性にかけるか?どっちがいいですか?」
「それは………」
返事に迷いがあるグアバの頭の包帯を止めるとそっと背中に手を置く。
「”私、応援します”」
あの湖で言った言葉を背中越しに言うとグアバは何故か耳を赤くし何度も首を縦に振る。
「っ……い、行ってくる!」
「はい」
どうか当たって砕けますように…などとは流石の私も思わない。何故ならこの後の結果は決まっていたからだ
「……い、苺」
意を決して呼びかけるグアバを他所に苺は只今争っていた二人の絶賛お説教中だったせいか眉間に皺を寄せ怒ったままの顔で振り返る。
「何?」
「っ……えっと、俺様がこいつら二人を止めに入ったんだ」
「それだけでしょ?止めたわけじゃないあなたは無能ね」
あー、この一言はキツい。さすがの彼もこれじゃあもう…
「……そうだよな」
ほらやっぱり…
「でも、少しだけ…」
「へ?」
え?
照れくさそうに手招きし頭を下げる様に促す苺にグアバ共々驚く。
「早く下げなさいよ!出来ないでしょ!グアちゃん」
「だから何を……っ!?」
言う通りに頭を下げるグアバに対して苺はそっと髪を撫でる。
「これくらいのご褒美ならあげてもいいかなって…ね?」
「苺…」
「ふふっ、今日だけ特別よ!二人も今日は見逃してあげるけど次また私の為に争ったりなんかしたらめっ!なんだから」
ヒロインに可愛らしくめっ!なんて言われたら普通このシーンだと二人は顔を赤くするはずだが……
「”…………う、うん”」
何だろうか?赤くするわけでもなく顔を見合わせるなり二人とも気まずそうに曖昧に頷いた。
「……おかしい」
「何がおかしいんですか?」
「柿本先輩」
突然隣で呼びかけられ振り向くと笑みを浮かべながらヒロイン達を見る柿本 蜜柑がいた。
「別に何も………それより、いいんですか?会長に星七さん取られてますけど」
「今日はいいんです。彼は頑張りましたからこれくらい当然のご褒美です」
「案外、大人な考えなんですね。それとも、内心は嫌で嫌で仕方ないとか?」
「おや?私はそんな子供ではないですよ。私はいつだって彼の味方ですから」
「ほんと腹黒ですね」
「あなたに言われたくはないですよ。彼の背中を押しながら本当は何を思っているか分からない……あなたの方が私は余程腹黒だと思いますが…?」
「ふふっ……これ以上の詮索は止めて下さい。不愉快です」
「すみません。あなたの事が気になってしまって……」
慌てて両手を上げ白旗を上げる柿本 蜜柑に顔を顰める。
何か気に食わない…嫌な意味で
「これ以上何も詮索しないならもういいですけど」
「そうですか、良かったです」
急ににこやかな笑みを浮かべ返す柿本 蜜柑を冷たい目で見つめる。
腹黒も苦手な部類だけどヤンデレのあいつよりはマシか
表は天然、裏はヤンデレの二重人格の教師が頭に浮かび自然と笑みが零れる。
「ふっ…」
「星野さん?」
「いえ、何でもないです。それより、そろそろ先生方も来そうですね…」
「それならちょうど近くまで来てたから誘導して連れてきたわよ」
そういう小豆の背後にはブルブルと小鹿の様に震える男性教師二名がいた。
生徒会メンバー同士の喧嘩って聞いて止めるのが先生達も怖かったのだろう
「苺のおかげで事も済んだみたいだし、そろそろ帰ろっか!」
「そうですね、キャンプファイヤーの準備もそろそろ終わる頃ですし後は料理も作らなければ…」
小豆と蜜柑はそう言いながら頷くとヒロイン達を呼びかけに行った。
木通 檸檬と国光 林檎の争いが起こった事もそれを鳳梨 グアバが止めに入った事も最後にはヒロインの苺がことをおさめる事もそれだけを取ればゲーム通りだっただろう。だが、現実は木通 檸檬と国光 林檎の争いの原因はヒロインの苺ではないようで…鳳梨 グアバが止めに入るもののゲームと違い中身がヘタレな彼は逆にボロボロになる始末。そして、それが影響のせいか鳳梨 グアバに対する苺のセリフがどことなく違うのだ。本来のゲーム内ではたった一人無傷のグアバはヒロインに何も言わずとも『やっぱりカッコイイね、会長』とヒロインが言うと鳳梨 グアバに抱きつく。そして、そのヒロインに『今日だけは特別だからな』と照れくさそうに呟くのだ。そう、逆なんだ。本来であれば。
「こうなる気がしたから最初から行く気にはなれなかったのに……ん?」
「待って」
食い違うゲームと現実の状況に頭を悩ませているとふと背後から誰かに腕を掴まれ振り向く。
「ちょっと話があるんだけど…」
振り向いた先にいたのは真剣な面持ちで真っ直ぐに見つめる国光 林檎がいた。
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