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二章 《林間合宿編》
司令と壁ドンとドキドキと…
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好きと言ったら同じ様に好きだと返ってくるのは稀である。現に、彼女の瞳には好きと言う文字はなかったのだから……
「私は……蜜柑先輩の事が好きです」
「っ……」
「棗先生もりょんくんもれ~くんもりんくんもライくんも小豆も…ついでにグアちゃんも好きだよ!み~んな愛してるっ!」
「え…」
まさかの全員大好きっ!全員愛してるっ!ときたか……あははは…
ヒロインの思わぬ発言に蜜柑のみならずその他の攻略対象者を含め私も唖然とした。
「ん?どうしたの?私、何かいけない事言った?」
いけない事というか柿本 蜜柑の心の臓にグサグサくるような事は言ったというか……
「ううん、いけない事なんて全然言ってないわ!むしろ、嬉しい言葉しか言ってないわよ!」
攻略対象者全員の気持ちが分かっているのかいないのか、小豆はにこやかな笑みで否定し苺にこれでもかと抱きついた。
「そっか~…皆のこと好きなの秘密だったんだ~!言って良かった!」
え、秘密ってそんな事でも秘密になるのか?ヒロインが皆のこと好きなのは言わなくて既に分かるというか…むしろ、分からない人なんているわけ………
ふと先程まで悲しげな表情をしていた人物を思い出しチラッと見てみると緩みきった口元からしてあからさまに分かる嬉しそうな表情をした鳳梨 グアバがいた。
…あ、いたわ
なんて単純なやつなんだと思ったがそれは初めから変わらずそうなのでこれが彼にとっては通常運転なんだと思い直したのだった。
「じゃあ、苺の可愛い告白も聞けた事なのでこれにてレクレーションをお開きとさせていただきます。残り僅かですが、この後の自由時間も最後まで楽しく有意義な時間を過ごしましょうね!」
「”は~い!”」
小豆の完璧な閉会式の言葉も終わり一同各々僅かな自由時間となった。
はぁ……一難去ってまた一難ともいうが、これまた最後の助言が骨が折れるんだよなぁ……
日が落ち徐々に見え始めた星空を見上げため息をついた。
*
「あー…あー………聞こえますか?」
『あぁ…聞こえてる』
隅の方にある人気の少ない焚き火に銀色の長い髪を二つのおさげにした少女は、耳に付けた黒いピアスのような物を数回叩いては何やらボソボソと呟いていた。
「じゃあ、計画通りにスワンに乗ったら一回咳払いをして。その前のエスコートのセリフも忘れずにね?」
『分かっている』
心配ないと言わんばかりの言い方に内心ヒヤヒヤしながらも黒いピアスから聞こえる音に耳を澄ませる。
これからが正念場だ
そう、これが最後の助言。このイベントを成功させる為にモブキャラの私こと星野 桃は前もって小細工をしていたのである。
一に、この耳に付けている黒いピアスは実は林間合宿前にココナの勧めによって桜桃 小豆に頼んで借りたどんな小さい音でも汲み取る最小小型版の無線機である。林間合宿のスタンプラリーの際に鳳梨 グアバに使用しこれから実行するイベントでも彼に使用している。
二に、山を下山し少しの休憩に入った際に鳳梨 グアバのデレデレな惚気話を聞かされたのだが終わると彼にレクレーション後のヒロインとのスワンイベントを促した。そこで彼に黒いピアスの無線機を付けさせその時が来たら無線機を通して助言をするという計画を立てた。
だけど、いくら無線機を使って遠くから助言をしようがそれを周りの攻略対象者を含め生徒や教師にバレてはまずいからココナに他の攻略対象者と居るように促してこんな人気もない隅の方で無線機を使っているのだけども…
「はぁ……」
お願いだから誰も近付いて来ませんように…
周りを見渡しながら警戒しつつ無線機を通して聞こえる音だけは聞き逃さなかった。
『…グアちゃん』
ヒロインが来た…っ!
ヒロインの声が聞こえ音に集中する。
『来い、手を貸してやる』
『うん……ありがとう』
ふぅ~…ちゃんと言ってくれて良かった。最初の段階からしくじったら元も子もないからな
『…ゴトッ』
スワンに乗ったのか…?
スワンに乗った様な音がし内心緊張が走った。
『ゴホンッ…』
グアバの咳払いの合図…
スワンに乗った音が響いた直後に鳳梨 グアバの合図が聞こえ冷静に口を開く。
「……こんな風に一緒に居れるとは思いもしなかった」
「ん?一緒に?」
っ……!?
『……こんな風に一緒に居れるとは思いもしなかった』
『…そうだね』
無線機を通してグアバが同じ言葉を言う声を耳にしながら同時に掛けられた声の主へと振り向くとそこには首を傾げる木通 檸檬の姿があった。
な………なななななんで今こいつが来るんだよっ!?
思わぬ登場に驚きと危機感のせいで心臓の音が激しく高鳴る。
「桃ちゃんに話したい事があって探してたんだ~!隣、座ってもいいかな?」
首を横に振る間もなく疑問形でいいながら隣に座ろうとする彼に反射的に口を開けてしまった。
「あ、えっと……」
『あ、えっと……』
っ…!?ヤバいっ!今、口を開けて檸檬を追い払う様な事を言おうものなら連動して無線機の向こうにいるグアバまで同じ言葉を言ってしまう…っ!
「……ずっと俺のものにしたかった」
「へ?」
『……ずっと俺のものにしたかった』
オ……オワッタ………
パニックになりながらした行動は檸檬の頬に触れグアバへ向けた俺様セリフを言うという何かが終わった瞬間だった。
アァァァァッ!!!もうやけだっ!やるしかない…っ
未だに状況が掴めず何が何だか分からないというような様子の檸檬の手を引き周りから見えないような人が居ない林の中へと連れ込む。
「ふぁ!?え?ちょっ…」
ドンッ!
戸惑いの声を漏らす檸檬を木の下に座らせ跨ると顔の横に勢いよく手を置いた。
「お前が他の奴と居るのを見るとたまらなくなる」
「え……えぇっ!?」
ひぃぃぃっ!誰か助けて私を!
『お前が他の奴と居るのを見るとたまらなくなる』
『っ……』
「お前が誰と一緒に居ようが誰を好きでいようが関係ない……必ず俺を好きにさせてやる」
「す、好き…っ!?」
うぅぅ…全身鳥肌立ちまくりなんですけどぉ!?
『お前が誰と一緒に居ようが誰を好きでいようが関係ない……必ず俺を好きにさせてやる』
『っ…そ、そんな勝手に言われても私は絶対グアちゃんの事好きになんか…』
「減らねぇ口だな……今すぐその口を塞いでやろうか?」
「はっ!?ふぇっ!?」
檸檬の唇をつーっとなぞると妖艶な笑みを零す。
あはっ……あははははは………穴があったら入りたい…
『減らねぇ口だな……今すぐその口を塞いでやろうか?』
『っ……』
「お前が望むならグズグズになるまでしてやるよ」
「ちょっ…」
唇からそっと頬を撫で更に顔を近づける。
……今すぐにでも気絶しそう
『お前が望むならグズグズになるまでしてやるよ』
『っ……何か今日のグアちゃん野性的すぎて…』
「嫌いじゃないだろ?」
「な、ななないですっ!」
お前はそこで頷くなっつーの!拒否れ!お願いだから拒否ってくれっ!
『嫌いじゃないだろ?』
『う、うん…っ』
「命令だ……今だけは俺に溺れろ…」
「っ……」
ほんの数センチ先に唇という至近距離の中、檸檬は何を勘違いしたのか瞼を閉じた。
『命令だ……今だけは俺に溺れろ』
『っ……ん…』
ヒロインの小さな甘い声が漏れたのを聞き終わると黒いピアスを数秒長押ししスイッチをオフにする。
「……ん?あれ?」
タイミングよく瞼を開け驚く檸檬を見るなり顔の横に置いていた手を離し再度強く置き直す。
ドンッ!!
「うぇっ!?」
「……忘れて」
これでもかというくらいに強く睨みつけ言い放つとすぐ様手も体も離し何事も無かったように…そう、何事も無かったようにその場から去った。
忘れよう…何もかも忘れよう……そして、何も無かったように部屋に戻ってふわふわの毛布被って寝よう。うん、寝よう…
普通とは違う疲労のせいでフラフラとする足のまま部屋へと向かったのだった。
「………はぁ~…」
桃が去った数分後、我に返った木通 檸檬は地面にへたり込むと大きく息を吐いた。
「桃ちゃんが好き…?俺を好き…?え……何で?…というか忘れてって何を?…えぇぇぇぇぇぇっ!?」
否、我に返ったというより絶賛混乱中でございます。
「ど、どどどどうしようっ!?何が何だか全然分からないけど……ドキドキが止まらない…っ!」
全身から熱が湧き上がり激しく高鳴る鼓動に手を当てる。
「はぁ~……明日どんな顔して会えばいいんや」
当初は、桃に話したい事があったので探して言おうと思っていた筈だったのにあまりの展開にその話の内容ですら思い出せなかった。
でも、そんな状況でも考えてしまうのは”明日どんな顔して会えばいいのか”という心配だけだった。
「私は……蜜柑先輩の事が好きです」
「っ……」
「棗先生もりょんくんもれ~くんもりんくんもライくんも小豆も…ついでにグアちゃんも好きだよ!み~んな愛してるっ!」
「え…」
まさかの全員大好きっ!全員愛してるっ!ときたか……あははは…
ヒロインの思わぬ発言に蜜柑のみならずその他の攻略対象者を含め私も唖然とした。
「ん?どうしたの?私、何かいけない事言った?」
いけない事というか柿本 蜜柑の心の臓にグサグサくるような事は言ったというか……
「ううん、いけない事なんて全然言ってないわ!むしろ、嬉しい言葉しか言ってないわよ!」
攻略対象者全員の気持ちが分かっているのかいないのか、小豆はにこやかな笑みで否定し苺にこれでもかと抱きついた。
「そっか~…皆のこと好きなの秘密だったんだ~!言って良かった!」
え、秘密ってそんな事でも秘密になるのか?ヒロインが皆のこと好きなのは言わなくて既に分かるというか…むしろ、分からない人なんているわけ………
ふと先程まで悲しげな表情をしていた人物を思い出しチラッと見てみると緩みきった口元からしてあからさまに分かる嬉しそうな表情をした鳳梨 グアバがいた。
…あ、いたわ
なんて単純なやつなんだと思ったがそれは初めから変わらずそうなのでこれが彼にとっては通常運転なんだと思い直したのだった。
「じゃあ、苺の可愛い告白も聞けた事なのでこれにてレクレーションをお開きとさせていただきます。残り僅かですが、この後の自由時間も最後まで楽しく有意義な時間を過ごしましょうね!」
「”は~い!”」
小豆の完璧な閉会式の言葉も終わり一同各々僅かな自由時間となった。
はぁ……一難去ってまた一難ともいうが、これまた最後の助言が骨が折れるんだよなぁ……
日が落ち徐々に見え始めた星空を見上げため息をついた。
*
「あー…あー………聞こえますか?」
『あぁ…聞こえてる』
隅の方にある人気の少ない焚き火に銀色の長い髪を二つのおさげにした少女は、耳に付けた黒いピアスのような物を数回叩いては何やらボソボソと呟いていた。
「じゃあ、計画通りにスワンに乗ったら一回咳払いをして。その前のエスコートのセリフも忘れずにね?」
『分かっている』
心配ないと言わんばかりの言い方に内心ヒヤヒヤしながらも黒いピアスから聞こえる音に耳を澄ませる。
これからが正念場だ
そう、これが最後の助言。このイベントを成功させる為にモブキャラの私こと星野 桃は前もって小細工をしていたのである。
一に、この耳に付けている黒いピアスは実は林間合宿前にココナの勧めによって桜桃 小豆に頼んで借りたどんな小さい音でも汲み取る最小小型版の無線機である。林間合宿のスタンプラリーの際に鳳梨 グアバに使用しこれから実行するイベントでも彼に使用している。
二に、山を下山し少しの休憩に入った際に鳳梨 グアバのデレデレな惚気話を聞かされたのだが終わると彼にレクレーション後のヒロインとのスワンイベントを促した。そこで彼に黒いピアスの無線機を付けさせその時が来たら無線機を通して助言をするという計画を立てた。
だけど、いくら無線機を使って遠くから助言をしようがそれを周りの攻略対象者を含め生徒や教師にバレてはまずいからココナに他の攻略対象者と居るように促してこんな人気もない隅の方で無線機を使っているのだけども…
「はぁ……」
お願いだから誰も近付いて来ませんように…
周りを見渡しながら警戒しつつ無線機を通して聞こえる音だけは聞き逃さなかった。
『…グアちゃん』
ヒロインが来た…っ!
ヒロインの声が聞こえ音に集中する。
『来い、手を貸してやる』
『うん……ありがとう』
ふぅ~…ちゃんと言ってくれて良かった。最初の段階からしくじったら元も子もないからな
『…ゴトッ』
スワンに乗ったのか…?
スワンに乗った様な音がし内心緊張が走った。
『ゴホンッ…』
グアバの咳払いの合図…
スワンに乗った音が響いた直後に鳳梨 グアバの合図が聞こえ冷静に口を開く。
「……こんな風に一緒に居れるとは思いもしなかった」
「ん?一緒に?」
っ……!?
『……こんな風に一緒に居れるとは思いもしなかった』
『…そうだね』
無線機を通してグアバが同じ言葉を言う声を耳にしながら同時に掛けられた声の主へと振り向くとそこには首を傾げる木通 檸檬の姿があった。
な………なななななんで今こいつが来るんだよっ!?
思わぬ登場に驚きと危機感のせいで心臓の音が激しく高鳴る。
「桃ちゃんに話したい事があって探してたんだ~!隣、座ってもいいかな?」
首を横に振る間もなく疑問形でいいながら隣に座ろうとする彼に反射的に口を開けてしまった。
「あ、えっと……」
『あ、えっと……』
っ…!?ヤバいっ!今、口を開けて檸檬を追い払う様な事を言おうものなら連動して無線機の向こうにいるグアバまで同じ言葉を言ってしまう…っ!
「……ずっと俺のものにしたかった」
「へ?」
『……ずっと俺のものにしたかった』
オ……オワッタ………
パニックになりながらした行動は檸檬の頬に触れグアバへ向けた俺様セリフを言うという何かが終わった瞬間だった。
アァァァァッ!!!もうやけだっ!やるしかない…っ
未だに状況が掴めず何が何だか分からないというような様子の檸檬の手を引き周りから見えないような人が居ない林の中へと連れ込む。
「ふぁ!?え?ちょっ…」
ドンッ!
戸惑いの声を漏らす檸檬を木の下に座らせ跨ると顔の横に勢いよく手を置いた。
「お前が他の奴と居るのを見るとたまらなくなる」
「え……えぇっ!?」
ひぃぃぃっ!誰か助けて私を!
『お前が他の奴と居るのを見るとたまらなくなる』
『っ……』
「お前が誰と一緒に居ようが誰を好きでいようが関係ない……必ず俺を好きにさせてやる」
「す、好き…っ!?」
うぅぅ…全身鳥肌立ちまくりなんですけどぉ!?
『お前が誰と一緒に居ようが誰を好きでいようが関係ない……必ず俺を好きにさせてやる』
『っ…そ、そんな勝手に言われても私は絶対グアちゃんの事好きになんか…』
「減らねぇ口だな……今すぐその口を塞いでやろうか?」
「はっ!?ふぇっ!?」
檸檬の唇をつーっとなぞると妖艶な笑みを零す。
あはっ……あははははは………穴があったら入りたい…
『減らねぇ口だな……今すぐその口を塞いでやろうか?』
『っ……』
「お前が望むならグズグズになるまでしてやるよ」
「ちょっ…」
唇からそっと頬を撫で更に顔を近づける。
……今すぐにでも気絶しそう
『お前が望むならグズグズになるまでしてやるよ』
『っ……何か今日のグアちゃん野性的すぎて…』
「嫌いじゃないだろ?」
「な、ななないですっ!」
お前はそこで頷くなっつーの!拒否れ!お願いだから拒否ってくれっ!
『嫌いじゃないだろ?』
『う、うん…っ』
「命令だ……今だけは俺に溺れろ…」
「っ……」
ほんの数センチ先に唇という至近距離の中、檸檬は何を勘違いしたのか瞼を閉じた。
『命令だ……今だけは俺に溺れろ』
『っ……ん…』
ヒロインの小さな甘い声が漏れたのを聞き終わると黒いピアスを数秒長押ししスイッチをオフにする。
「……ん?あれ?」
タイミングよく瞼を開け驚く檸檬を見るなり顔の横に置いていた手を離し再度強く置き直す。
ドンッ!!
「うぇっ!?」
「……忘れて」
これでもかというくらいに強く睨みつけ言い放つとすぐ様手も体も離し何事も無かったように…そう、何事も無かったようにその場から去った。
忘れよう…何もかも忘れよう……そして、何も無かったように部屋に戻ってふわふわの毛布被って寝よう。うん、寝よう…
普通とは違う疲労のせいでフラフラとする足のまま部屋へと向かったのだった。
「………はぁ~…」
桃が去った数分後、我に返った木通 檸檬は地面にへたり込むと大きく息を吐いた。
「桃ちゃんが好き…?俺を好き…?え……何で?…というか忘れてって何を?…えぇぇぇぇぇぇっ!?」
否、我に返ったというより絶賛混乱中でございます。
「ど、どどどどうしようっ!?何が何だか全然分からないけど……ドキドキが止まらない…っ!」
全身から熱が湧き上がり激しく高鳴る鼓動に手を当てる。
「はぁ~……明日どんな顔して会えばいいんや」
当初は、桃に話したい事があったので探して言おうと思っていた筈だったのにあまりの展開にその話の内容ですら思い出せなかった。
でも、そんな状況でも考えてしまうのは”明日どんな顔して会えばいいのか”という心配だけだった。
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