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二章 《教育編》~夏の誘い~
ココナの追憶〜クマのぬいぐるみとかくれんぼ
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「お姉様…ごめんなさい…‥」
特進クラスの女子寮にある白波 ココナの部屋には、花柄やフリルの家具やカーテンがあり壁には桃と一緒に撮った写真や…否、ほぼ桃一人の写真が飾られており机の周りには沢山の様々なぬいぐるみで埋め尽くされていた。
「ズー…お姉様は何も悪くはないのです……そして、国光 林檎も…悪くはないのです……」
ギュッと力一杯にクマのぬいぐるみを抱きしめ溢れる涙が頬を伝いながらゆっくりと瞼を閉じた。
『かくれんぼする人この指と~まれっ!』
それは、私が一番嫌いな遊び。そして、初めて気づいた瞬間だった……
秋の紅葉が宙を舞い冷たい風が頬を撫でるそんな日に、五歳の白波 ココナは久しぶりに幼稚園へと登園した。
「ケホッケホッ…‥」
「ねぇねぇ、今日も来るかな~?るいくんのお兄ちゃん」
るいくんのお兄ちゃん?
「来たらいいよね~!王子様みたいですっごくカッコイイんだもん!」
王子様かぁ…私も会ってみたいなぁ…
周りの女の子達の話は初めて聞く話ばかりで、毎日登園出来ないココナにとってはとても助かる会話だった。
この体じゃ友達なんて出来ないし…‥
この頃のココナは病弱でよく熱を出していた為、登園する事はほとんどなくそれでも尚登園する事が許されたのは大きな会社の社長である父親の多額の支援金があったからであった。
お医者さんには心の病気かもしれないって言われたけど、どうやったら治るんだろう…?
ココナの熱は詳しく調べても不明であり結果、医者からの判断は心の病気と診断された。
「みんな~!集まれ~っ!!」
「”は~い!!!”」
先生の掛け声にバラバラに居た園児達が大きな返事と共に先生の周りに座り込んだ。
「これから新しいお友達を紹介したいと思います!ほら、怖くないから大丈夫よ?」
…?
先生の呼びかけに先生の足にくっつきながら恐る恐る顔を出した薄い桃色の髪にリスのように大きな黒い瞳に泣きぼくろが特徴的な女の子か男の子か分からないほどの可愛らしい子供にその場に居た全員の視線が集中した。
女の子…?
「自己紹介出来るかな?」
「……‥」
先生の問いかけに無言で顔を引っ込めるなりまた隠れる様子に、先生が苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「これから皆のお友達になる国光 林檎くんと言います。皆、仲良くしてあげてね?」
「”は~い!!!”」
「可愛い~!女の子かと思った!」
「私も~!」
私も女の子だと思ってた。男の子なんだ…もしかして、りんごくんも私と同じなのかな…?
未だに先生の足にひっつき背後に隠れる林檎の姿に、ココナは自身と同じく引っ込み思案で皆の輪の中に中々入れないのではないかと思うと少し嬉しく思えた。
「ねぇねぇ?りんごくん!私はあかねって言うの!」
「私はまや!」
「僕はりょう!」
凄い…りんごくん、あっという間に人気者だぁ…‥
次々に自己紹介をする園児達の様子に、輪の中に入りたい気持ちもあったがそこまでの勇気はなく遠巻きに見物していると一人の女の子が口を開いた。
「ねぇねぇ、りんごくん一緒に遊ぼう~?」
「私も遊びたい!」
「僕も~!」
「じゃあ、みんなで遊ぼうっ!」
「うん!」
「ねぇ、先生遊んでいいでしょ~?」
園児達の視線が先生に集まると、困った様に眉を下げながらも足元にくっついている林檎を見るなり渋々頷いた。
「んー…分かった、少しだけね?」
「”やった~!!!”」
「じゃあ、何する~?」
「私、かくれんぼした~い!」
かくれんぼかぁ…でも、私は体が弱いから出来ないよね…‥
「じゃあ、ここから半分の皆は隠れる人で残りの半分の皆は探す人っていうのはどうかな?」
え……
先生の思わぬ提案に遠巻きに見ていたココナは戸惑いの表情を浮かべた。
私も参加しなきゃ駄目なのかな…?
皆と一緒に並んで座っていた為、先生の言う皆に入っている事に気づきクマのぬいぐるみを抱き締めていた手に力が入る。
体が弱いから出来ないってちゃんと言わなくちゃ…‥でも、本当はみんなと一緒に遊びたい…‥
目の前で楽しそうに話す園児達の姿に立ち上がろうとしていた体が止まりゆっくりと座り直した。
私は隠れる側だから少しくらい大丈夫だよね…
先生に言われた半分の隠れる人に入っていた為、少しの背徳感を抱えながらも皆と一緒に遊べる事に嬉しく思えた。
「かくれんぼする人この指と~まれっ!」
「”は~いっ!!!”」
「ふふ、元気がいいのはいい事だけど皆怪我がないようにね?」
「”は~い!!!”」
靴を履き外に出ると先生を中心に園児達が並んだ。
「じゃあ、さっき言われた探す人達は後ろを向いて目を閉じたら百数えてね?そして、探す人が数えている間に隠れる人達は隠れる事!分かりましたか~?」
「”は~い!!!”」
先生に言われた通りに探す人達が後ろを向きその場に蹲り百を数え始めると、一斉に隠れる人達が周りの様々な場所に散らばった。
何処に隠れようかな…?あ、そこが良さそう…っ
鉄格子のすぐ側にある大きな木々達の隙間に植えられている小さな丸い木々達の背後に身を隠し息を潜める。
「………九十九、百っ!もういいか~い?」
「”もういいよ~!!!”」
始まった…っ!
クマのぬいぐるみを抱き締めながら聞き耳を立てていると開始直ぐに見つけた声が耳に届いた。
「りょうくん見っけっ!」
「ちぇ~見つかっちゃった…りんごくん、見つけるの早いよ~!」
りんごくん、探すの早いっ!
「あかねちゃんとまやちゃんも見っけっ!」
「え~!?ここなら見つからないと思ったのに~!」
「私も~!あかねちゃんと一緒なら大丈夫だと思ったのに~!」
「あはははっ、まだまだ見つけるからね!」
その言葉通りに林檎は一人で次々と見つけ出しあっという間にココナ以外の園児達は見つかってしまった。
りんごくん凄い…っ!それに、一回聞いただけなのにみんなの名前覚えてるし凄すぎる…っ!
バサッ…‥
っ…!?
林檎の凄さに感嘆していると不意に近づいて来た木々を掻き分ける音に息が詰まる。
バサバサッ…
「…‥見っけ!ん…‥?」
「っ…‥!?」
木々を掻き分け現れた林檎に驚きでその場に固まると、何故か首を傾げ訝しげにリスのような黒い瞳が覗き込む。
「…‥誰?こんな奴いたっけ?」
え……
先程までずっと聞こえていた高く明るい声ではなく冷たく刺すような蔑む声に視界も高鳴っていた鼓動でさえも全てが遠のいていくように感じた。
バサッ……
「……先生~!もう全員見つけたよね~?」
「え~と…一、二、三、四……そうみたいね、全員見つけてるわ!」
「え…‥違っ…私まだ……っ」
バサバサバサッ…‥
先生の言葉に焦りながら慌てて木々を掻き分け出ると目の前に映ったのは林檎が全員を見つけた事に感嘆の声が上がっている様子だった。
「りんごくん、凄いっ!全員見つけるなんて凄いよ!」
「私も簡単に見つけられちゃった~!」
「僕も~!次は絶対見つからないようにする!」
「私も~!」
「違っ……私はまだ……」
…‥ここにいる…
その瞬間、白波 ココナという人間が先生や他の皆の中で消えた様な気がした。
「私…っ‥‥ここにっ…‥ここにいるのに…っ…‥‥」
苦しくなる気持ちが溢れ出し、抱き締めていたクマのぬいぐるみと共に頬から伝っていく雫が地面に落ちていった…‥
その後、白波 ココナという人物が周りに認識されていない事が徐々に分かり心が冷めていく気がした。そして、その代わりになのか病弱だった体は驚く程に健康体になり毎日幼稚園に通えるぐらいになった。
それでも、ずっと脳裏から離れなかったのは‥‥『…‥誰?こんな奴いたっけ?』という林檎の言葉だった…‥
「国光 林檎を恨む気持ちも憎む気持ちもあれからずっと持っていたけど、お姉様に会ってそれは間違いなんだって気づきましたわ…」
ココナと同じく人から認識されずに育って来た星野 桃という存在は今まで抱いていた国光 林檎への恨みや憎しみを打ち砕くものだった。何故なら、彼女の存在のおかげで人から認識されない事実が本当に起きている事だと受け入れる事ができ林檎のあの言葉が悪意のある言葉ではなく素のまま出た言葉なのだと分かったからだ。
「そう頭では分かっているんです。でも…‥それでも、心に染み付いた傷は中々消えてはくれないのですわ…‥」
すっと胸に手を当て感じる心の冷たさはあの時のままだった…‥
特進クラスの女子寮にある白波 ココナの部屋には、花柄やフリルの家具やカーテンがあり壁には桃と一緒に撮った写真や…否、ほぼ桃一人の写真が飾られており机の周りには沢山の様々なぬいぐるみで埋め尽くされていた。
「ズー…お姉様は何も悪くはないのです……そして、国光 林檎も…悪くはないのです……」
ギュッと力一杯にクマのぬいぐるみを抱きしめ溢れる涙が頬を伝いながらゆっくりと瞼を閉じた。
『かくれんぼする人この指と~まれっ!』
それは、私が一番嫌いな遊び。そして、初めて気づいた瞬間だった……
秋の紅葉が宙を舞い冷たい風が頬を撫でるそんな日に、五歳の白波 ココナは久しぶりに幼稚園へと登園した。
「ケホッケホッ…‥」
「ねぇねぇ、今日も来るかな~?るいくんのお兄ちゃん」
るいくんのお兄ちゃん?
「来たらいいよね~!王子様みたいですっごくカッコイイんだもん!」
王子様かぁ…私も会ってみたいなぁ…
周りの女の子達の話は初めて聞く話ばかりで、毎日登園出来ないココナにとってはとても助かる会話だった。
この体じゃ友達なんて出来ないし…‥
この頃のココナは病弱でよく熱を出していた為、登園する事はほとんどなくそれでも尚登園する事が許されたのは大きな会社の社長である父親の多額の支援金があったからであった。
お医者さんには心の病気かもしれないって言われたけど、どうやったら治るんだろう…?
ココナの熱は詳しく調べても不明であり結果、医者からの判断は心の病気と診断された。
「みんな~!集まれ~っ!!」
「”は~い!!!”」
先生の掛け声にバラバラに居た園児達が大きな返事と共に先生の周りに座り込んだ。
「これから新しいお友達を紹介したいと思います!ほら、怖くないから大丈夫よ?」
…?
先生の呼びかけに先生の足にくっつきながら恐る恐る顔を出した薄い桃色の髪にリスのように大きな黒い瞳に泣きぼくろが特徴的な女の子か男の子か分からないほどの可愛らしい子供にその場に居た全員の視線が集中した。
女の子…?
「自己紹介出来るかな?」
「……‥」
先生の問いかけに無言で顔を引っ込めるなりまた隠れる様子に、先生が苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「これから皆のお友達になる国光 林檎くんと言います。皆、仲良くしてあげてね?」
「”は~い!!!”」
「可愛い~!女の子かと思った!」
「私も~!」
私も女の子だと思ってた。男の子なんだ…もしかして、りんごくんも私と同じなのかな…?
未だに先生の足にひっつき背後に隠れる林檎の姿に、ココナは自身と同じく引っ込み思案で皆の輪の中に中々入れないのではないかと思うと少し嬉しく思えた。
「ねぇねぇ?りんごくん!私はあかねって言うの!」
「私はまや!」
「僕はりょう!」
凄い…りんごくん、あっという間に人気者だぁ…‥
次々に自己紹介をする園児達の様子に、輪の中に入りたい気持ちもあったがそこまでの勇気はなく遠巻きに見物していると一人の女の子が口を開いた。
「ねぇねぇ、りんごくん一緒に遊ぼう~?」
「私も遊びたい!」
「僕も~!」
「じゃあ、みんなで遊ぼうっ!」
「うん!」
「ねぇ、先生遊んでいいでしょ~?」
園児達の視線が先生に集まると、困った様に眉を下げながらも足元にくっついている林檎を見るなり渋々頷いた。
「んー…分かった、少しだけね?」
「”やった~!!!”」
「じゃあ、何する~?」
「私、かくれんぼした~い!」
かくれんぼかぁ…でも、私は体が弱いから出来ないよね…‥
「じゃあ、ここから半分の皆は隠れる人で残りの半分の皆は探す人っていうのはどうかな?」
え……
先生の思わぬ提案に遠巻きに見ていたココナは戸惑いの表情を浮かべた。
私も参加しなきゃ駄目なのかな…?
皆と一緒に並んで座っていた為、先生の言う皆に入っている事に気づきクマのぬいぐるみを抱き締めていた手に力が入る。
体が弱いから出来ないってちゃんと言わなくちゃ…‥でも、本当はみんなと一緒に遊びたい…‥
目の前で楽しそうに話す園児達の姿に立ち上がろうとしていた体が止まりゆっくりと座り直した。
私は隠れる側だから少しくらい大丈夫だよね…
先生に言われた半分の隠れる人に入っていた為、少しの背徳感を抱えながらも皆と一緒に遊べる事に嬉しく思えた。
「かくれんぼする人この指と~まれっ!」
「”は~いっ!!!”」
「ふふ、元気がいいのはいい事だけど皆怪我がないようにね?」
「”は~い!!!”」
靴を履き外に出ると先生を中心に園児達が並んだ。
「じゃあ、さっき言われた探す人達は後ろを向いて目を閉じたら百数えてね?そして、探す人が数えている間に隠れる人達は隠れる事!分かりましたか~?」
「”は~い!!!”」
先生に言われた通りに探す人達が後ろを向きその場に蹲り百を数え始めると、一斉に隠れる人達が周りの様々な場所に散らばった。
何処に隠れようかな…?あ、そこが良さそう…っ
鉄格子のすぐ側にある大きな木々達の隙間に植えられている小さな丸い木々達の背後に身を隠し息を潜める。
「………九十九、百っ!もういいか~い?」
「”もういいよ~!!!”」
始まった…っ!
クマのぬいぐるみを抱き締めながら聞き耳を立てていると開始直ぐに見つけた声が耳に届いた。
「りょうくん見っけっ!」
「ちぇ~見つかっちゃった…りんごくん、見つけるの早いよ~!」
りんごくん、探すの早いっ!
「あかねちゃんとまやちゃんも見っけっ!」
「え~!?ここなら見つからないと思ったのに~!」
「私も~!あかねちゃんと一緒なら大丈夫だと思ったのに~!」
「あはははっ、まだまだ見つけるからね!」
その言葉通りに林檎は一人で次々と見つけ出しあっという間にココナ以外の園児達は見つかってしまった。
りんごくん凄い…っ!それに、一回聞いただけなのにみんなの名前覚えてるし凄すぎる…っ!
バサッ…‥
っ…!?
林檎の凄さに感嘆していると不意に近づいて来た木々を掻き分ける音に息が詰まる。
バサバサッ…
「…‥見っけ!ん…‥?」
「っ…‥!?」
木々を掻き分け現れた林檎に驚きでその場に固まると、何故か首を傾げ訝しげにリスのような黒い瞳が覗き込む。
「…‥誰?こんな奴いたっけ?」
え……
先程までずっと聞こえていた高く明るい声ではなく冷たく刺すような蔑む声に視界も高鳴っていた鼓動でさえも全てが遠のいていくように感じた。
バサッ……
「……先生~!もう全員見つけたよね~?」
「え~と…一、二、三、四……そうみたいね、全員見つけてるわ!」
「え…‥違っ…私まだ……っ」
バサバサバサッ…‥
先生の言葉に焦りながら慌てて木々を掻き分け出ると目の前に映ったのは林檎が全員を見つけた事に感嘆の声が上がっている様子だった。
「りんごくん、凄いっ!全員見つけるなんて凄いよ!」
「私も簡単に見つけられちゃった~!」
「僕も~!次は絶対見つからないようにする!」
「私も~!」
「違っ……私はまだ……」
…‥ここにいる…
その瞬間、白波 ココナという人間が先生や他の皆の中で消えた様な気がした。
「私…っ‥‥ここにっ…‥ここにいるのに…っ…‥‥」
苦しくなる気持ちが溢れ出し、抱き締めていたクマのぬいぐるみと共に頬から伝っていく雫が地面に落ちていった…‥
その後、白波 ココナという人物が周りに認識されていない事が徐々に分かり心が冷めていく気がした。そして、その代わりになのか病弱だった体は驚く程に健康体になり毎日幼稚園に通えるぐらいになった。
それでも、ずっと脳裏から離れなかったのは‥‥『…‥誰?こんな奴いたっけ?』という林檎の言葉だった…‥
「国光 林檎を恨む気持ちも憎む気持ちもあれからずっと持っていたけど、お姉様に会ってそれは間違いなんだって気づきましたわ…」
ココナと同じく人から認識されずに育って来た星野 桃という存在は今まで抱いていた国光 林檎への恨みや憎しみを打ち砕くものだった。何故なら、彼女の存在のおかげで人から認識されない事実が本当に起きている事だと受け入れる事ができ林檎のあの言葉が悪意のある言葉ではなく素のまま出た言葉なのだと分かったからだ。
「そう頭では分かっているんです。でも…‥それでも、心に染み付いた傷は中々消えてはくれないのですわ…‥」
すっと胸に手を当て感じる心の冷たさはあの時のままだった…‥
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