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第93話 ランジェルの下着
しおりを挟む「これが、ランジェルの下着……」
手に取ってみると、もらった肌着よりも、なめらかで触り心地がいい。
両脚を通して履くようになっており、エマはドキドキしながらその下着を身につけた。
「んっ……ちょっと、きつい」
太ももまでは良かったが、秘部を覆うように履くと、どうしても半身を締めつける。
今は勃ってないけど、ちょっとでも感じたらひどく窮屈になりそうだ。女性物だから当たり前なのだが、エマは下着を着けるのが初めてで、これが普通なのかと思ってしまう。
「ぅぅ……どうしよう……」
慣れない感触が落ちつかなくて、脚をもじもじさせる。
正直に言えば、脱いでしまいたい。
(でも……ルシアン様が、楽しみにしてたし)
ルシアンをがっかりさせたくない。
エマは、そのまま法衣に着替えることにした。
+ + +
支度を済ませて天耀宮へ行くと、控えの間にルシアンがやってきた。連れている従者は、前にエマに声を掛けてくれた、あの親しみやすい雰囲気の男性だ。
ルシアンも、気楽な態度でエマを出迎えた。
「おはよう、エマ」
「ぁっ! お、おはようございますっ。ルシアン様」
声が上ずってしまい、エマは頬を赤くした。
今日のルシアンは、薄いアイスブルーのロングジャケットに、同系色のベストを重ねた装いで、月の光のような銀髪によく似合っていた。
全体的に軽やかな印象で、白銀の貴公子みたいだ。
(ルシアン様。今日もカッコイイなぁ)
ルシアンを眺めてうっとりしていると、ふいに頬を撫でられた。
「エマ。昨日は、よく眠れましたか?」
「は、はいっ」
「今日は王都を何カ所か回る予定ですから、疲れたらすぐに教えて下さい」
「はい……大丈夫ですっ」
エマはルシアンを見つめて、笑みを浮かべた。
(ルシアン様と一緒にいられるなら、疲れなんて気にならないよ)
きっと、ルシアンとこうして二人で外出できるのは、今日が最後なのだ。
明後日の夜には晩餐会が開かれる。その準備は王太子が行っていた。エマはレオナールの代わりに王太子を手伝い、明日は最終確認を行う予定だ。
(僕が自由に外に出られるのも、これが最後かもしれない)
王太子の命令がなければ、エマは離れに閉じ込められたまま、ひたすら書類仕事だけをやらされていただろう。
(ダリウ殿下にも、感謝しないと)
エマに、最後の機会を与えてくれたのだから。
大好きなルシアンを見あげて、エマは笑顔で言った。
「ルシアン様。今日を楽しみにしてました」
「私もですよ。エマとのデートですから、昨夜からずっと心待ちにしていました」
ルシアンも赤い瞳を細めて、優しく微笑んでくれる。
甘い眼差しに胸をときめかせながら、エマは頬を赤くして頷いた。
控えの間から奥の部屋に通され、待ち構えていたクロエに、また湯浴みから磨かれることになった。ナタリナとメイドたちに体と髪を洗われ、再び肌着を着る。
着替えをするときは、一人きりにしてもらったけど、肌着と一緒にバスケットに入れておいた布きれの下着が、ナタリナに見つかってしまった。
「エマ様、こちらは?」
「あ、あのっ……ルシアン様に頂いて! その……今日、つけてきて欲しいって……!」
エマは湯上がり用の布に身を包みながら、真っ赤な顔でしどろもどろに答える。
(やっぱり見つかっちゃった!)
恥ずかしさに俯くエマに、ナタリナは明るい声で言った。
「デイモンド伯からの贈り物だったのですね。こちらも着用されますか?」
「う、うんっ」
「では、着替えが終わりましたら、お声かけ下さい」
にっこりと笑顔を向けて、衝立の向こうに行ってしまった。
(よかったぁ……もらったこと黙ってたから、怒られるかと思ったけど)
エマはホッとしたが、ナタリナの目がぎらついていたように見えたのは、気のせいだろうか。
下着と肌着を身につけて衝立を出ると、クロエとナタリナが笑顔で待ち構えていた。
「エマヌエーレ様。本日のドレスはこちらです」
「うわぁっ! 柔らかい新芽の色だね」
「ええ。春の芽吹きをイメージしたドレスですわ」
クロエが、にこやかに答える。
昨日は蜂蜜色のドレスだったが、今日は新芽を思わせる、淡いミントグリーンのような色合いだ。
全体的に、細やかな白の刺繍があしらわれている。袖は半透明の薄布で、肘のあたりまでやわらかく膨らみ、手首にかけて絞るようなデザインだ。
コルセットと布製のパニエを着けて、ドレスを着る。やわらかなシフォン生地を幾重にも重ねたスカートは、動くたびにふわりと揺れた。
「エマヌエーレ様。こちらを」
「うん」
鏡台の前に座ると、クロエから小瓶を渡される。髪色と長さを変える薬だ。
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