三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CLX>

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「君は生きるのも死ぬのもわたしと一緒がいいって言ってくれてるけど、本当に……? わたしは君じゃなきゃ嫌だけど、君もわたしでいいの…………? わたしたちの人生、まだまだ序盤だよ?」

「俺が早まってるって言いたいの? ……全然そんなことない。俺だって嫌だもん。きみ以外の人なんて考えられない。『きみでいい』じゃないんだよ、『きみがいい』の。……いや、それでもちょっと弱いか。『きみじゃなきゃダメ』なんだって、俺には。……ごめん、ちょっと言葉が強くなりすぎたかも」

 溜まった涙がまばたきでぱたぱたと落ちて、歪んだ世界がわずか一瞬、本来の姿を取り戻した。

 仰ぎ見た彼は、ちょうどむっとした顔で言い返してきたところだった。
 
「きみは『なにもできてない』とか『力不足だ』って自分を責めてるのかもしれないけど、俺は俺の意志でかっこつけてるだけだから、きみが思い詰めることないんだよ。『気付けなかった』なんて思わせちゃうのも、言わせちゃうのも、やっぱり俺の力不足だし。気付かれないようにしてたんだから、気付かなくて当然なんだよ。それに気付くってことは……きみが俺のこと心の底から好きでいてくれてるってことなんだろうね、やっぱり」

 こめかみのあたりには頭痛のときに似た不快な感覚が残っていたけれど、涙はどうにか止めて、視界が正常化しつつある頃、わたしはあることに気が付いた。

「…………ひとりで抱え込むだけじゃなくて、わたしが気付かないように隠しちゃう君が、わざわざ楽しいことでも嬉しいことでもないことを言ってくるって、結構な非常事態とか…………よっぽど切実に叶えたいと思ってることなんじゃないかなぁ……と思ったんだけど、そんなことない……かな?」

 彼が話し終えるのを待って、それを言葉にしていく。

「!」

 少し待ったけれど、言葉での返事はない。――――でも、彼が大きく息を呑んだのが答えだった。

「……わたしはすごく嬉しかったよ。君が『一緒に死にたい』って言ってくれたこと。『一緒に生きたい』ってはっきり言ってくれたことと同じくらい……。もしかしたら、それより嬉しかったかもしれないくらい。わたしは怖いのも痛いのも好きじゃないけど、君になら付き合えるよ。……でも、わたしはまだ生きて君としたいこともいっぱいあるし、いますぐ『一緒に死のう?』って言ってもらっても、『うん』って言えないと思う……」

 彼が大きな瞳を細めたのは、笑ったからではなく涙が滲んでいるのを隠すためだろう。

 涙の理由が悲しみか喜びかはわからないけれど、直感的にそう思った。

「それで、えっと…………。さっき、君が言ったことをわたしも考えてたんだけどね……? わたしたちが一緒にどきどきして寿命縮めていったら、同じくらいのタイミングで死ねるかもしれないよね。女の人のほうが平均寿命は長いけど、わたしはどきどきしやすいから、わたしが君をどきどきさせる以上に君がわたしのことどきどきさせてくれたら、わざわざ心中しなくても、死ぬときまで一緒になれるかもしれないし。……だから、ひとまず『君とたくさんどきどきすることしたいな』って思ったんだけど、どうかな……?♡♡」

 ありったけの力を腕に込め、いつもより張り切って鼓動を刻む心臓を押し付けた。
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