三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

文字の大きさ
62 / 489
Interlude

Interlude<XXII>

しおりを挟む

「んー。思うように動けないのは同じだだけど、昔の夢は見ないかなぁ。……というか、起きたときに夢の内容覚えてること自体、滅多にないかな? 俺の場合は」

 当然のように恋人繋ぎをされることにも、やっと慣れてきたところだ。
 
 相手が包容力の高い彼だからか、密着度の高いこの繋ぎ方をされているだけで、胸のなかにどっかり居座る氷のような不安がみるみるうちに小さくなっていく気がした。

「夢見ないってこと? いいなぁ……」 

 わたしが彼の手を軽く引っ張るのが、いつしか出発の合図になっていた。

「それはちょっと違うかも? 熟睡できてるってことなのかな。俺の感覚としても『見ない』って感じなんだけど、覚えてても覚えてなくても、人間はひと晩に何個も夢見てるんじゃなかったっけ?」

「そうなの?」

「どっかでそんな話を聞いた気がするんだけど、そのあたりはどうでもいいか。問題は『ちゃんと睡眠を取ってるのに、気持ちが休まってない』ってことだ」

 歩くスピードはこちらに合わせて、彼がひとりでいるときに比べてややゆっくりのペースを保ってくれていたけれど、喋るスピードが若干早い。

 最近になって気付いたけれど、これは彼が考え事をしているときの癖だ。

「気持ち? だったら、君に会って話してるうちに落ち着いてきたけど……」

「……ああ、俺の言い方が曖昧すぎたかな? 睡眠そのものも重要だよ。次の日のコンディションを左右するだけじゃない。その日の記憶が定着するのだって睡眠中だし、遅かれ早かれ成績にだって影響してくるんじゃないかと思うし、このまま放置しておくわけにもいかないでしょ」

「そう、かなぁ……」 

 言われてみると、以前より集中するまでに時間がかかるようにもなったし、集中力自体も途切れやすくなった気がしないでもない。

「いまはまだ、だましだましどうにかできてるのかもしれない……というか、きみには無理してる自覚もないのかもしれないね。でも、塵も積もれば山となる…………のは、いいことだけじゃない。最悪、身体壊すよ。きみ。脅しみたいで嫌だけど、きみのことが大切だから言わせてもらう。寝不足を甘く見ないほうがいい」

 危機感が芽生え、次第に俯き加減になっていく。下を向いて歩いてばかりだったわたしの顔を上げさせてくれた彼が隣にいるにもかかわらず。
 
「…………俺たちは、まだ20年も生きてないよね。だから、きみのいう『昔』が小さい頃のことなのか、俺と出会う前のことなのかはわからないけど……」

 制服の色味に合うダークブラウンのペニーローファーが歩みを止めた。

「力になれそうなことがあったら、俺のこと頼ってほしい。……話す気にはなれないかな?」

 晴れた日だというのに、あたりがいやに暗いのが気になって顔を上げると、そこは人通りの少ない体育館の裏手だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

処理中です...