三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<LXIII>

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「…………えっと……。わたし、君と違ってしっかりした計画立ててるわけじゃないから、まだそういうことは考えてないかなぁ……みたいな……?」

 子どもの頃の純真さを保ったままの心を映し出しているかのような瞳の輝度にたじろぎながらも、なるべく彼を傷つけずに済む言葉を探した。

「ふぅん?♡ ……ってことは、『きみがお母さんになるのも絶対ない未来』ってわけではないんだね?♡♡」

 彼が髪を掻き上げるほんの一瞬だけ、視線が下腹部に落ちた気がした。
 
「う゛……。まぁ、そういうことになる…………の、かな?」

「よかったよかった♡♡ まだ考えてないなんて言って、ちょっとは考えてくれてるじゃん♡ ……俺は付き合う前からきみと結婚したあとのこと考えてるけど♡♡」

(君が結婚まで視野に入れてくれて…………というか、わたしのこともらってくれる気でいるのは間違いないと思うけど、子ども欲しいってことかな? ……欲しいんだろうなぁ。このものすごく期待されてるって伝わってくる感じ、ちょっとつらいかも。君はなんにも悪くないのに、わたしがふわふわしてるせいではっきり返事できなくてごめんね……!)

 その視線に気付いてしまったことを悟られないように作った笑顔は彼の笑顔の眩しさにあてられ、一瞬にしてほどけてしまった。

(絶対いいお父さんになると思うし、君の子はかわいくてかわいくて仕方ないだろうけど、ちゃんとお母さんできる自信ないよぉ……。というか、できればずっとずっとふたりだけで生きたいなぁって思ってたりして……)

 しかし、わたしたちは同じ夢を見ているようで見ていなかった。――――わたしが彼を好きすぎるせいだ。

「きみはすごくかわいい奥さんになるんだろうね♡ お出迎えしてもらうのも楽しみだし、きみが外から帰ってきたときに出迎えてあげられるのも嬉しいなぁ♡♡」

 リアリストな彼は、意外にも結婚生活(新婚時代限定かもしれないけれど)に夢を見て、期待に胸を膨らませているようだった。

(いいお母さんどころか普通の奥さんになれる自信だってないけど、子育てがあるのとないのとじゃ絶対倍以上大変さ違うと思うし、君には一生わたしだけ見てわたしだけ愛しててほしいよ…………。自分の子どもに嫉妬するなんておかしいかもしれないけど、本当にそう思うんだもん……)

 会話の最中で視線が入れ違いになることは一度もなかったけれど、見つめ合うということは正反対の方向を見ていると同義だ。いまのわたしたちの状態がそのままお互いの思い描く理想の差を体現しているようで、目の端に眩しいものがちらついた。
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