三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<LXIV>

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(だめだ。泣きそう……。大好きな君に心配なんて掛けたくないのに)

 目のきわからはみ出してしまった涙を引っ込めることはできない。だから、強引に拭ってなかったことにしてしまいたいけれど、目の端に手を当てただけでも彼はきっと――――。
 
「…………でもさ、いまちょっと考えてみたんだけど♡♡ 死ぬまでずーっときみとふたりっきりっていうのも、それはそれでアリかもって♡♡」

 彼は固く握ったままだったわたしの手指を一本ずつ開いていく。最初に開かれたのは、他の指を押さえていた親指。次に、隣り合っている人差し指。

「え?」

 聞き返すための短い声は、ほのかな期待を纏っていた。

「死ぬまで君とふたりっきり……?♡」

 答えをせかすための問いかけには、期待の背後に歓喜までもが見え隠れしていた。

「だって、まだまだふたりでしたいこともできてないことたくさんあるもんね♡ 片っ端からしていくだけでも時間足りないくらいじゃないかなって思うし♡」

 屈託のない笑顔は、顔色を窺っている人のそれではなさそうだった。

(意外と子どもいらない派なのかな……? それとも、わたしの反応見てそういうふりしてくれてるだけ? 君の優しいところは大好きだけど、自分の気持ちに嘘吐いてまで合わせてくれなくたっていいのに……。そんなことしてもらっても全然嬉しくないよ。……でも、本音で話してほしいんだったら、わたしも本音でぶつからなきゃね)

 小さく息を吸い、彼の手を手繰り寄せた。両手を繋がれた彼は顔を輝かせ、すぐさまわたしの手を握り返してくれた。

「…………あのね?♡ 実はわたしもそう思ってたの♡ 大好きな人と結婚するんだったら、子どもはいなくても幸せかもって……」

「わかる♡ 子どもがいてもいなくても、きみは絶対に俺の隣にいてくれるんだもんね♡♡ ふたりっきりでもふたり以上でも、きみとなら楽しい人生間違いなしだろうなぁ♡♡」

 啄むようなキスが落とされる。会話の途中で挟まれるそれがわたしはたまらなく好きで、映画に出てくる幸せな恋人になった気分でなりきって自分からも唇を重ねた。

(いつまでもこんなふうに幸せでいられますように……♡)

「…………あ!」

 いつまでも続きそうなキスの応酬に終止符を打ったのは、彼の発した声だった。

「どうしたの?」

「そのためには、きみにはお母さんより先に俺のお嫁さんになってもらわなきゃいけないなぁって思い出したの♡♡ いやー、うっかりうっかり♡」

「ほんとに気が早いんだから♡」

 知らないうちに指を絡める形に繋ぎ直されていた手が熱いのは、彼の体温が移ったせいだろうか。
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