三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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HONEYDEW RAIN

HONEYDEW RAIN<LXVIII>

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「めちゃくちゃ嬉しそうにしてるね?♡♡ こんな幸せそうなきみ、見たことないかも♡♡」

 そう言う彼も幸福に瞳を蕩かしている。ミルクティーに隠し味として入れてくれる蜂蜜かメープルシロップさながらの甘い甘い視線が胸を焦がしていった。

「だって、ほんとに嬉しいから♡ にやにやが止まらないの……♡♡」

「止める必要ある?♡ かわいいお顔、もっとよく見せて……♡♡」
 
 両手で顔を隠したけれど、彼に左手を取られてしまう。

(片方だけ?)

「…………左手薬指このゆび、俺のために空けておいてね?♡♡ 悪いけど、それまでは自分で買った指輪も他の指に着けててほしいなぁ♡ いままで着けちゃったのはノーカンでいいけど、この先はじめて指を通すのは俺と永遠の愛を誓うための指輪にするって約束してくれる?♡♡」

 左手薬指の指輪を嵌める部分を挟み込み、彼が問うた。

「うん♡ あんまり指輪着けないし、ちゃんとしたのも持ってないから、君とお揃いの着けるときまで空けておく♡ だから…………」

 願いを口にする直前、躊躇が生じた。彼を縛ってしまうのは簡単だけれど、果たしてわたしにそれをする権利があるのか――――と。陰った瞳で見つめるには眩しすぎる未来予想図を描いてしまった。

「あぁ、そうだよね♡♡ 片方きみだけじゃ不公平だ♡ 俺もアクセあんまり着けないし、ここは未来の奥さんの予約席ってことで空けておくよ♡♡ はい、約束♡♡」

 萎んで消えていった言葉を掬い上げるように、彼が明るい声を出した。開いたままの五指から小指だけが捕まったのを見て、急いで他の指を折り畳んだ。

「きみとおんなじ指輪着けてる未来までひとっ飛びできたらいいのに……♡」 
 
 彼は絡めた小指に向かって呟きを落としたあと、顔を左に傾けながら接近してきた。

「……アクセつけないのも、爪と同じで鬱陶しいから?」

 幸福感一色に染まったキスを終えたあと、迷いながら問いかけてみた。瞳を閉じる寸前に、常に短く切り揃えられた爪とこの前語ってくれたその理由が脳裏に過ったのだ。

(指輪なんてアクセサリーのなかでもいちばん邪魔じゃない?)

「んー? ……そう……だねぇ。たぶんそうなんだと思う。でも、きみとお揃いの指輪だったら全然邪魔じゃないから♡♡ すでに一回したら二度と外さないくらいの気持ちでいる……というか、着けたら外したくなくなっちゃうんじゃないかなぁって妄想してる♡♡ いや、きっとこれは妄想じゃなくて予言だね♡ 的中率百パーセントの絶対外れない予言♡」

 どんな不安も一瞬にして愛しさに上書きしてくれる唇に吸い寄せられるように、もう一度自分からキスをした。
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