三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<XXIX>

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「……そ、そっか! じゃあ、わたしもそれでいいよ!」

「うん、じゃあそういうことで♡ ……最初から負ける気でかかるなんてきみらしくないよ♡♡ お互い本気出す約束でしょ♡ 俺なんてこてんぱんに負かすくらいの気持ちで挑んできてくれないと♡♡」

 彼はポッキーを持っていないほうの手を強く握って力説した。血気盛んな彼らしい。

「わかった。……負けない!」

 本気には本気で返さなくては失礼だ。覚悟を決めて深く頷いた。
 
「そうそう、その調子♡♡ 他に決めておくことは…………なさそうかな?♡ スタートの合図はきみに任せていい?♡ 準備出来たら、親指立てるとか片目瞑るとかして教えてほしいな♡」

「じゃあ、右手上げるね。こんな感じで肩のらへんまで」

 控えめすぎる生徒になった気分で挙手をした。
 
「OK♡ ……いざ尋常に……!」

 それを確認した彼がポッキーを咥えて先端を差し出してきたので、小さく口を開けてそれを咥えた。

「…………あ、ごめん! ちょっと待って。向きが逆だった! それ食べちゃっていいよ」

 わたしが先端を咥える寸前に待ったがかかった。

「……向き? 別にどっちでもおんなじじゃない?」

 彼と言葉を交わすためにポッキーを摘み、体温でチョコが溶け出してしまう前に急いで上下をひっくり返し、コーティングのされていない持ち手のほうを持った。

(わたしは本当にどっちでもいいと思ってるけど、それは自分が食べるならの話で、彼にはコーティングされてるほう食べてほしい。……彼もたぶんそう思ったから、わざわざ止めたりしたんじゃないかなぁ。『ポッキーゲーム』なのに、違うお菓子のほうがポッキーゲームに向いてない?)

 手のなかのポッキーをちらりと見て考える。
 
 太さは異なるけれど同じ棒状で手を汚す心配もなく、最後までチョコがたっぷり内臓されているお菓子のほうが、ポッキーゲームに最適なのではないだろうかと。
 
 もし彼がわたしの推測どおりのことを思って、わざわざ開始直前に待ったをかけたのだとしたら、少なくともわたしたちにとっては。
 
「ううん。持ち手にはチョコがかかってないから、こっちとそっちは全然別物でしょ。……あれ? それ食べないの?」

 袋から新しいポッキーを取り出そうとしていた彼が、不思議そうな顔で尋ねてきた。
 
「……うん。まだ君も食べてないみたいだから、一緒に食べたいなぁと思って……♡」

「なにそれ♡♡ かわいいなぁ♡♡」

「かわいいのは君のほうだと思うけど…………♡」

「俺?」

「うん。……わざわざ向き変えたのは、どうしてだった?」

「きみには少しでもおいしいほう食べてほしいと思って♡♡」

「やっぱり。……かわいい……♡」

 にぱっと笑った彼を直視できず、口元を押さえた。ポッキーを持ち替えていなかったら、体温でチョコレートが溶けてしまっていたに違いない。
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