三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<XLIX>

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「そんなことでいいの?」 

 確認してきた彼は、わたしを抱き締めるために両腕を広げて待機している。

「…………うん。ねぇ、お願い♡」 

 即答できなかったのは、彼に頼んだ文言がわたしの本当に欲しい言葉とはやや異なっていたからだ。

(本当は『』じゃなくて…………)

 口にする直前で本当の願いを引っ込めてしまったのは、彼が『一生』ではなく、あえて『死ぬまで』と言い換えたことになにか意味があるのではないかと考えたからだ。

だよ。なにがあっても、どんな出会いがあっても。きみは誰にも渡さないって決めた」

 両腕でしっかり抱き締められたことを認識した直後、凛とした声が響く。同時に、触れ合った箇所から振動が伝わった。マイクを通さずともよく通り、わたしの身体をも揺らす声は、彼の意志の強さを反映しているようだ。

(『』がいい。君はわたしと『死ぬまで一緒』にいられたら、それで満足しちゃうの? わたしは嫌だよ…………。死んでからも一緒がいい。……でも、いますぐじゃなくても、いつかそう言ってもらえればいいや。『死ぬまで一緒』って約束してくれたから、時間はたっぷりあるもんね……♡♡ そのあいだに、もっともっとわたしのこと好きになってもらえるように頑張ろう。『人生全部のこりじかん使い切ってもまだ一緒にいたい』と思ってもらえるように)

 声に出さずに誓ったいまこの瞬間の気持ちを自分の身体に刻み付けようとしているのだろうか。わたしは無意識に彼を抱き返すだけでなく、癖になる肌触りのシャツに頬擦りをしていた。
   
「あれ?♡ どうしたの?♡ きみから俺にくっついてくるなんて珍しいね♡♡」 

 我に返って仰ぎ見た彼は、幸福そうに目を細めていた。

「えっと、こうしたい気分だったの…………♡ 邪魔だったらどくね?」 

「邪魔なんて思わないよ♡♡ ずっとここにいてほしいくらい♡」

「ずっとは無理だよ♡ ……でも、わたしももう少しだけぎゅーってしててほしい……♡」

 恥じらって目を逸らしつつ、ファンデーションやリップが移ってしまっていないかチェックした。

(顔ぐりぐりしちゃって汚しちゃったかもと思ったけど、セーフだったみたい。よかった。他人の服汚すこと自体NGだめだけど、新品おろしたてのお洋服汚すなんて論外だもんね。……でも、わたしのお化粧品のせいで汚れちゃってても、彼は嫌な顔したり悪態ついたり……みたいなことはしない気がする。お洗濯で落ちなくても『個性的な柄がもっと個性的になったね♡ これ着てるの世界で俺だけだよ。すごくない?♡』ってフォローしてくれたかも。それどころか『きみが俺に思いっきり甘えてくれた証拠だね♡♡』って喜んでくれたかも……)

 わたしのせいで皺が寄った部分には不自然なベージュやピンクは見当たらなかったので、安心して再び顔を上げた。
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