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アフター・アフター・レイン・トーク
アフター・アフター・レイン・トーク<XCII>
しおりを挟む「ね…………ねぇ! 君ってホラー好きだったっけ?」
彼といるときに生まれる沈黙は少しも怖くなんてないけれど、映画の内容から少しでも離れたい一心で話を続けた。
「うーん、ジャンルでいえばわりと好きなほうかなぁ。特にこれが好きみたいな作品はないけど、凝った特殊メイクがたくさん見られるのはいいよね。聞こえてくる音が少なめなのもいい。……これはたぶん『余白』の概念だな。俺の感性も、自分で思ってるより日本人っぽいってことなのかもね。間もちゃんと取ってるし、お化けの台詞をあえて聞き取りにくくする代わりに人間の息遣いを大きくして、得体の知れなさを強調しながら想像を搔き立ててるところにも工夫を感じる。ありがちなあらすじだからどうかなぁと思ってたけど、ただのB級とは違ってそうだな……」
脇腹を小突かれた彼はすっかり批評家モードに入っていて、当初の目的を忘れてしまっているかのようだった。
「…………いまの話はちょっと作り手っぽいね?」
「確かに半分くらいは作り手の目線で見てるかも、俺。……お化け屋敷もそうだよね。ただ怖そうなもの詰め込めばいいわけじゃなくて、目玉になってる仕掛けを際立たせるために削ってる部分もかなりあるだろうし」
(彼が色々喋ってくれてるおかげで怖くなくなってきたかも。……画面はあんまり見たくないけど……)
「やっぱり音ってある程度絞ったほうがいいのかな?」
「うん。人混みにいるときって、一緒にいる人の声が大好きで聞き慣れてても紛れちゃうでしょ。日常的に聞いてない声なんてもっと埋もれちゃうはずだし、少なくしたほうがいいと思うよ。特にこういう死者が登場するようなホラー作品だと、静けさも一種のおばけの存在アピールになるんじゃない? ……生きてる人間が多いと、当たり前だけど雑音も多くなるからね」
(おばけみたいなこと言うなぁ……!? 彼はちゃんとここにいるよね? ……おばけなんかじゃないよね?)
恐ろしくなって彼の服の裾を掴んだけれど、素材のせいですぐに指をすり抜けていってしまった。
「えぇ……? 怖くなるようなこと言わないで……。まだ始まったばっかりなのに…………!」
「俺がいるのに怖いの?」
画面を凝視していた彼が、肩のところから覗き込んできた。
「…………ひとりよりは怖くない……けど……」
「怖いかぁ。……もしかして、密着度が足りてないんじゃない?♡♡ よそよそしいとまではいかないけど、ラブラブ絶頂期のカップルにしては控えめすぎると思うんだよね。いまの俺たち。もっとこっちおいでよ♡ こないだお風呂入ったときはいまより近くにいたよ?♡」
心底不思議そうだった瞳がふっと緩んで、あばらの下に通された安全バーのような腕にぐっと力がこもった。
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