三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CIII>

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(急にどうしたの? ……というか、わたしはなんの話をされてるの?)

 疑問を抱きつつもじっと耐える。口を覆われている状態で声を上げることができる度胸など、わたしには備わっていなかったというのも理由のうちではあるけれど――――。

「……それと同じだよ。人は背負いたい荷物しか背負おうとしない生き物だと思ってる。俺もそう。他の人のはあんまり背負ってあげようって気にならないけど、きみの荷物だったらいくらでも背負える。絶対無理ってわかってても、全部背負ってあげられたらいいのになって思う。きみが背負わされてるのは、俺が背負えるような軽い荷物じゃないんだろうなとも思ってるけど」

 噤んだ口のなかから、上下の歯が擦れ合う音がした。

(彼の気持ちはすごく嬉しい、けど……)

 石臼を挽いたときの――それよりはいくぶん軽めではあるのだろうけれど――ような音がいつまでも耳に残って離れない。
 
「…………『甘える』とか『全部報告する』とかって、すっごく難しいんだよ?」

 思ったことを思ったままに。なんにも悪いことなんてしてないはずなのに、彼の願いを叶えてあげられないせいか胸がちくっと痛んだ。例えるなら、指に刺してしまったささくれがなかなか抜けないような、落ち着かなさ情けなさ居心地の悪さすべて内包した、精神にもじわじわとダメージを与えてくる痛みだ。

(わたしにはやっぱりちょっと難しそうかも。頼ったら悪いなと思って言わないこともあるけど、単純に言ったつもりで忘れちゃってることも結構あるから、彼が思ってるより遠慮してるわけじゃないし、本当はそんなに心配しなくても平気なんだけどなぁ……)

「……そうだね。長いあいだ誰にも頼らないで頑張ってきたきみには簡単なことじゃないのかもしれない。だから、これから少しずつ甘えかたとか頼りかたを覚えていけばいいよ。ここにはいくら頼ってもへっちゃらな頼り(になる)GUYがいることだし、その頼り(になる)GUYはきみの彼氏なわけだし♡♡ うん、それがいい、そうしよう。決定!」

 サムズアップした彼は親指で自分を指した。彼のイメージからはだいぶずれるほどとおい仕草だけれど、こうして彼が大袈裟なくらいおどけるときはわたしの気持ちを軽くしようとしてくれているときだ。

「そんないきなり!?」

「いきなり♡ …………ってことで、いまから俺に甘える練習しておきなよ♡♡ ……ね、?♡ 俺、きみになにしてあげたらいいかな?♡ どんなことしたら喜んでくれるんだろう♡♡ なんとなくこれかなっていうのは思いつくけど、勝手に気持ちを決めつけたくないし。なにしてほしいか言ってみて?♡」

 顎を持ち上げられ、目を合わされる。
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