三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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アフター・アフター・レイン・トーク

アフター・アフター・レイン・トーク<CIV>

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(『』…………?♡♡ 不安消してくれようとしただけで、深い意味があるとか約束したつもりとかってわけじゃないのかもしれないけど、ちゃんと全部言葉にしてくれて嬉しいな……♡)

 にぼーっと見惚れていたら、顎を掴む親指がなにやらほんのり官能的な動きをし始めた。

 そう思ってしまったのはわたしの思考回路の問題かもしれないけれど、見下ろしてくる双眸は常より昏く、尽きせぬ光源と思っていた数多の星たちは留守にしているようだった。

(…………これ、絶対にわたししか知らない顔た……。冷たそうで、怖そうで、嫉妬深そうで……♡♡ ちっとも優しくなさそうで、たくさんの人に愛想よくしたりしないで、大切なひとりにだけとびっきりの笑顔を見せて愛を注いでくれそうな彼。……彼にも内緒だいってないけど、わたしがいちばんどきどきしちゃう彼……♡♡ いつもの彼が王子様なら、いまの彼は魔王様……?♡ 少なくとも、いまこんな彼に会うことができるのはわたしだけ……なんだよね♡♡)

 彼の纏った常ならぬ雰囲気に恐れをなすどころか苦しいほどのときめきをおぼえてしまい、人中に当たる息がにわかに熱くなった。

「おーい?♡ 戻ってきて?♡ …………あ、もしかして迷ってる?♡♡ なんでもいいんだよ?♡ 『そんなお願いもいいの?』って思っちゃうようなことでもなんでも受け付けてるから♡ 『してほしいことなんてない』って答えだけはダメだけど♡♡」

 何秒停止していたのだろう。顔の前でぶんぶん手を振られた。それがあまりに高速で反復して行われるものだから、おかしくなって頬が緩んでしまった。満点の星たちもいつもどおり手を取り合って踊るように仲良く煌いている。

「……ぎゅーってして? 息が苦しくなっちゃうくらい……♡」

 彼の前ではいつだってかわいいわたしでいたいのに、掠れたかわいくない声でそう告げるのがやっとだった。

「『息が苦しくなるくらいのハグ』ね♡ 了解♡♡…………でも、きみが俺に願うことは本当にそれだけ?♡♡ 他のことはしなくていいの?♡♡」

 願いを聞き終えた彼は満足そうに目を細め、女性さえしないような妖艶な笑みで尋ねてきた。

「他のことって、ちゅーとか? ……ちゅーもしてほしいよ?♡」
 
 唇を突き出して人差し指でとんとん弾き、待ちきれないみたいにアピールしてみたら、匂い立つ美が弾け飛んだ。

(傾国の美姫に流し目で微笑まれた人たちって、たぶんいまのわたしと似たような感じになってたんじゃないかな……!)

 くらくらふらふら眩暈がしてきて、おまけに腰が抜けそうで、座っているのが奇跡みたいだ。
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