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第6話 サイダーとソーダとシードルと
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「わたし、きみの名前好きだな」
「普通だろ」
突然の告白に少しだけ目を大きくして、発言者をまじまじ見つめる。
愛の告白なら飛び上がって喜んでいたが、相手は会話の途中で別人に変わったり鞄に空きがあるくせに手でペットボトルを持ち歩いたりする変な奴だ。常識を期待するだけ無駄だろう。
「ううん。爽汰ってソーダみたいじゃん! 全然普通じゃない。素敵な名前だよ」
「……そういや、來夢がいつも飲んでるやつもそんな感じの名前だな。てか、どう違うんだ。サイダーとソーダ。英語だとサイダーってシードルのことじゃなかったっけ」
どこかで目にしたうろ覚えの情報も、恋する男にとっては会話のお助けアイテムと化す。
「いつもサイダー飲んでるの知ってた? 爽汰、わたしのこと大好きじゃーん♡」
こういう冗談を言う奴なのは知ってるけど、少しも意識されてないみたいでムカつくな。
「知ってる。來夢とずっと一緒で羨ましかった」
「ペットボトルが?」
「悪いかよ」
「ううん。『嫌でも目に入るだろ。好きじゃなくても』って言われると思ってたから」
來夢はいつも上がっている口角を思いっきり下げ、大きな瞳を細めて、甘さのない男の物真似を披露してくれた。
「俺のイメージそんなかよ。てか、声真似上手いな!?」
「えへへ。ちゃんと似てた? まあ、わたしも爽汰のこと大好きだし? 声帯模写もお手のもの~……ってね!」
「疑問系かよ」
「ううん。大好き! この気持ちに疑問符は必要ないのだ!」
「…………あっそ」
「やっぱり爽汰にはソーダが似合うなあ。サイダーじゃなくてさ」
嬉しいくせに顔を背けた俺を見て、來夢がくすくすと笑い出した。
「教えてくれんの? サイダーとソーダの違い」
「うん。訊かれたことには答える主義だし、まずは大前提からね! さっき爽汰も言ってたけど、外国でサイダーって注文したらシードルが出てくるんじゃないかな」
「やっぱりか。じゃあ、來夢が俺をソーダっぽいと思ったのはなんで?」
我ながら呆れるほどの言葉足らずだ。このときだって『じゃあ、そのときは気を付けないとな』くらいのことは言ってやれたのに。
「切り込むね~。……でも、とりあえず説明の続きからいこっか。サイダーとソーダの違い。大雑把にいうと、味付きの炭酸水をサイダー、無味無臭の炭酸水のことをソーダって呼ぶのが一般的じゃないかな。だから、甘さ控えめな爽汰はサイダーよりもソーダっぽいかなーって!」
「……ふうん」
「リアクションうっすいなー。いいけどね!」
けらけら笑って水に流す來夢は、甘さとさわやかさを両立させたサイダーのようだと思った。
「…………來夢はサイダーみたいな男のが好き?」
「爽汰と出会う前は。でも、今は爽汰が好きだよ? ソーダみたいに甘い男じゃなくて、ソーダみたいなクール系でもなくて、わたしは爽汰が好き!!」
この幸せが少なくともあと数年は続いてくれるはずだと信じていたのに。
*
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