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壁に映えるブラソへの誓い

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突然の担当変更に、僕は、緊張してしまい前の夜は、眠れなかった。七海からのLINEも、無視したい所だったけど、無視した後が、大変な事になりそうだったのえ、当たり障りのない話題で、誤魔化していた。前から、気になっている人の担当になったなんて、間違っても、言えなかった。僕は、永遠にお爺さんやお婆さんのリハビリ師だと、思い込んでいる。
「新君、目が血走っているわよ」
看護師達に、揶揄われながら、僕は、リハビリの時間が来ると、平然を装い、莉子を迎えに行った。
「あ!」
105号室に、入るとすぐ僕は、声を上げた。
「よ!申し送りしなきゃな」
病室の奥に立つ、やたらと背の高い男が手を挙げていた。
「お前・・・」
諦めの悪い奴。黒壁だった。本当に、お前は、黒い壁だよな。隣には、もう車椅子に莉子は移乗済みになっていた。
「よろしくお願いします!」
莉子が頭を下げると、黒壁が、いつも、そうしていたと言わんばかりに、膝掛けを、渡していた。
「今さー。話していたんだよね」
黒壁は、いかにも親しい所を見せつけたいのか、ねーに力を入れて、首を傾げていた。
「莉子がさ。アラタの事を新人のシンだと思っていたんだって」
患者を呼び捨てにするなんて。僕は、少し、顔を引き攣った。
「何か、思い込んじゃって」
莉子は、笑い、両手を合わせた。
「昔から、勘違いが多くて」
「いいから、いいから、こいつは、いつまでも、新人君。初々しいから、ジジババのアイドルなんだよ」
さあ、行くよとばかり、黒壁が、莉子の車椅子を押そうとした蘇の時
「くおらー!!」
ハスキーな声が木霊して、師長が立ち塞がった。
「自分の担当を放り出して、何をしているの。ハナさんが、お待ちよ」
そういうと、太い腕で、黒壁の襟足を掴むと、莉子から力ずくで、離した。
「はーい。西園寺。がんばりんしゃい」
きつい東北訛りと大きな手で、僕の背中を押し出した。
「西園寺?」
莉子が、驚いて僕の顔を見上げる。
「みんな、呼びにくいから、下の名前で、呼んでて・・」
僕は、ネームプレートを指して説明する。
「イメージと違う」
「イメージ?」
「画数多すぎ」
「そうなんだ。書道とか、あったでしょう?僕の名前は、バランスを取るのが大変で。いつも、新がでかくはみ出る」
「あー。わかります」
莉子は、笑う。こんな風に笑うんだ。いつも、遠くから見ていた莉子は、寂しそうに遠くを見ていた。
「莉子も大変だった」
「はみ出る。はみ出る」
僕は、莉子の車椅子を押しながら、リハビリ室へと向かっていった。手術の時に、短くした髪は、ようやく伸びてきたが、それを隠すかの様に、ニット棒を深く被っている。踊り手だったのに、髪を短く切らなくてはならなかったなんて。僕には、わかる。療養生活で、筋肉は、すっかり落ちてしまっただろうけど、このしなやかな腕、背中が、表現するフラメンコの美しさが。
「先生。また、踊れるようになれるかな」
あの後、壁に映る自分のブラソの動きを見ながら、何気なく、呟いた莉子の言葉。僕は、その時に決心したんだ。また、踊れる身体になれるよう支えるって。
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