架空戦記 隻眼龍将伝

本能寺から始める常陸之介寛浩

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参の章1590年 暗殺

参の四

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昼間のうららかな春の日差しとは一転変わって、黒い雲が立ち込め稲光が走り強風が城の戸板をガタガタと揺らしていた。
奥州に遅い春の訪れを告げね春嵐であった。
その雲は、この城にいる者の腹の内を表しているかのようである。
伊達政宗は、料理の膳の支度が出来たと保春院の御傍衆のお茶子が告げると膳の支度されている部屋に入る。
鳴子と羽黒もそれに続いて入り部屋の隅に座った。
部屋にはすでに保春院と弟の小次郎が座っていた。
上座に座る政宗に保春院が先ずは一杯と酒を注ぐ、その手は幾分震えているんのようであった。

「政宗殿、心ばかりの膳でございますが湛と召し上がってください」

「母上様が作られた料理はこの政宗にとって何よりの御馳走、これを食べれましたら地獄にでも喜んで行きましょう」

その言葉を耳にした、小次郎が震えだしていた。

「小次郎、いかがした?寒いのか?」

「いえ、何でもありません」

「体をいとえよ、この伊達家、私になにかあれば小次郎が取りまとめねばならぬのだからな」

その言葉にさらに震えが大きくなる小次郎。

「は、心得ております」

政宗の言葉のはしはしからこの場にいる者すべてがこの膳に毒が入っていることを政宗が気が付いているのではないかと思い保春院もガタガタと震えだしていた。

「母上様もいかがいたしました?お寒うございますか?今しばらく待っていてくださればもっと暖かな国を領地にいたしますゆえ」

後には戻れない保春院が膳を勧める。

「政宗殿、さあさあ箸を取ってお食べになられよ」

そう保春院が促す。
政宗が箸を取り、椀を口に運ぼうとする。

「ん?なにやら不思議な香りがいたしますな、この政宗、元来体が弱うございます。食べなれぬ物を口にいたして腹を壊しては小田原への参陣が遅れ申したら伊達家の一大事、そうだ、お茶子、毒見をせい」

保春院と小次郎、お茶子が政宗の顔を凝視し動けなくなる。
保春院が、目からぽたりと涙が流れ出す。

「いかがいたしました?母上様」

「悲しいかな、この母が作った椀に毒が入っていると疑われるとは」

「ええ、母上様が入れなくてもそこの最上の間者が入れることは出来ましょうぞ」

その言葉に小次郎が腰の短刀に手をかける。

「抜くか?小次郎、その抜く刀は政宗に向けるか?お茶子に向けるか?」

そう言って脇に置いていた太刀を左手に持つ政宗。
保春院が小次郎を抱き抜こうとしていた右手を抑え込んで、

「政宗殿、小次郎は何も知らないのです、小次郎はお助けください、仕組んだのはこの母」

と、泣きながら口にすると

「御覚悟~~~」

と、お茶子が懐に忍ばせていた懐剣を抜き政宗に斬りかかった。
と、同時に鳴子が政宗の前に盾とならんと飛び出し、羽黒がお茶子の右手を手刀で叩いた。
懐剣を叩き落されたお茶子は廊下の襖に体当たりをして、外に飛び出した。
すると、そこには稲光で映す二人の人影、伊達成実と片倉小十郎が待ち構えていた。
なおも逃げようとするお茶子に対して、成実が太刀を抜き袈裟斬りで斬り倒した。

「くぅわぁぁぁぁぁ、無念」

部屋では保春院が小次郎の短刀を奪い取り抜き自らの首にあてようとしていた。


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