同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第一六〇話 王女VS妹──激突、女たちの境界線(後編)

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 玄関モニター越しに映ったその姿は、間違いようがなかった。
 キャップを目深にかぶっても隠しきれない気品。
 上品なワンピースの下にスニーカー。
 エレナ・リィ内親王——再び。

「お兄ちゃん、開けたら……死ぬから」

 碧純の瞳は、刃物のように鋭かった。
 だが——インターホンは、しつこく鳴る。

 ぴんぽーん。
 ぴんぽーん。

「……じゃあ、あたしが出る」

 碧純は毅然と立ち上がった。

 そして数分後。
 玄関のドアを開けたその場で、王女と対面。

「ごきげんよう。再び参上仕りました、先生のファン代表でございます」

 エレナは優雅に一礼。
 しかし——

「不法侵入の常習犯であり、“パンツ密輸容疑者”でもありますよね?」

「ふふ……相変わらず、言葉の選び方が痛烈で素敵ですわ」

 二人の目が交錯する。
 火花が散るような緊張が、玄関を満たしていた。

「本日は、どのようなご用件で?」(碧純)

「ただ少しだけ、彼のお顔が見たくて。お元気かどうか、それだけですの」(エレナ)

「“パンツの追加配達”ではないと、証明できますか?」

「まあ……今回は手ぶらですわ。ちゃんと、脱いできましたから」

「言い方やばすぎません!? 今、色々な意味で通報すべきでは!?」

 その瞬間、部屋の奥から弘弥が飛び出す。

「ちょ、ちょっと待って! 二人とも、落ち着いて!!」

「黙ってて、お兄ちゃん」(碧純)
「今は、男の出る幕じゃありません」(エレナ)

 二人の女性の視線が、ピシャリと交差する。

 弘弥、硬直。

 しかし次の瞬間。
 エレナが一歩、踏み込んだ。

「あなたが、彼を守りたい気持ちは分かります。ですが——わたくしも、彼の“創作の火”を支えたいのです」

「“パンツという名の炎”で、ですか?」

「……まあ、少し刺激が強かったのは認めますわ」

 碧純は腕を組み、睨んだまま口を開いた。

「あなたがどう思おうと……あたしは、兄の隣にいたい。日常の中で、ちゃんと寄り添って、一緒に笑って、一緒に怒って——それが、あたしのやり方」

「……それも、素敵ですわね」

 エレナはふっと微笑んだ。
 そして、小さく頭を下げる。

「今日は……これ以上、侵略いたしません。防衛戦線、今回はあなたの勝ちですわ」

 そうして、彼女は一歩下がった。
 けれど——その目は、まだ諦めていない。

「でも、次は。もっと華麗に現れますから」

 軽やかにウィンクして、内親王は去っていった。

 嵐のような訪問。
 そして、残された静けさ。

「……あたし、負けないから」

 背中でそう呟いた碧純の横顔に、
 弘弥は言葉をかけられなかった。

(つづく)

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