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第一九七話 命の恩人──祖父が願う縁
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銭湯での出来事から一夜明けた月曜日。
朝の登校支度をしていると、すみれがやってきて、少し恥ずかしそうに話しかけてきた。
「弘弥くん……昨日、おじいさまと……銭湯で会ったって、本当?」
「え? ああ……うん、会ったよ。無言で背中、流されたけど……」
「……やっぱり」
すみれは、どこか複雑そうな表情を浮かべて、言った。
「実は……その……おじいさま、弘弥くんのこと……とても特別に思ってるの」
「えっ? なんで?」
すみれは、ゆっくりと話し始めた。
「数ヶ月前、近所のスーパーで……おじいさまが倒れたことがあって」
「……えっ」
「そのとき、偶然買い物に来ていた人がすぐに駆け寄って、AEDを使って応急処置してくれて……お医者様が来るまでの数分間、命を繋いでくれたって」
「…………まさか」
「そう……それが、弘弥くんだったの」
俺の頭に、あのときの記憶が蘇った。
たしかに、突然倒れた年配の男性を見つけて、周囲の人に指示を出してAEDを持ってこさせた。
心臓マッサージと電気ショック。
無我夢中だった。
「……あのときの……おじいさん……が、すみれの……?」
すみれは小さく頷いた。
「それ以来、おじいさま……ずっと“あの若者に恩を返したい”って言ってて……。でも名前も連絡先も分からなかったみたいで」
「そんな偶然って……あるか……?」
「でも……弘弥くんが私の話を聞いて、“すみれの想い人”が命の恩人だったって知って……すごく……喜んでたの」
すみれの声が、少し震える。
「おじいさま……『このご縁、大切にしなさい』って……昨日、私に言ったの」
俺は、静かに唇を結び、深く息を吸った。
「……そうだったんだ……」
たった一度の善意。
でも、それがこんな形でめぐりめぐっていたなんて。
風呂場のあの背中流し——あれは、言葉の代わりに俺への“感謝”を伝えていたのだ。
そして、すみれと俺の間に、確かに“何か”が生まれていた。
(つづく)
朝の登校支度をしていると、すみれがやってきて、少し恥ずかしそうに話しかけてきた。
「弘弥くん……昨日、おじいさまと……銭湯で会ったって、本当?」
「え? ああ……うん、会ったよ。無言で背中、流されたけど……」
「……やっぱり」
すみれは、どこか複雑そうな表情を浮かべて、言った。
「実は……その……おじいさま、弘弥くんのこと……とても特別に思ってるの」
「えっ? なんで?」
すみれは、ゆっくりと話し始めた。
「数ヶ月前、近所のスーパーで……おじいさまが倒れたことがあって」
「……えっ」
「そのとき、偶然買い物に来ていた人がすぐに駆け寄って、AEDを使って応急処置してくれて……お医者様が来るまでの数分間、命を繋いでくれたって」
「…………まさか」
「そう……それが、弘弥くんだったの」
俺の頭に、あのときの記憶が蘇った。
たしかに、突然倒れた年配の男性を見つけて、周囲の人に指示を出してAEDを持ってこさせた。
心臓マッサージと電気ショック。
無我夢中だった。
「……あのときの……おじいさん……が、すみれの……?」
すみれは小さく頷いた。
「それ以来、おじいさま……ずっと“あの若者に恩を返したい”って言ってて……。でも名前も連絡先も分からなかったみたいで」
「そんな偶然って……あるか……?」
「でも……弘弥くんが私の話を聞いて、“すみれの想い人”が命の恩人だったって知って……すごく……喜んでたの」
すみれの声が、少し震える。
「おじいさま……『このご縁、大切にしなさい』って……昨日、私に言ったの」
俺は、静かに唇を結び、深く息を吸った。
「……そうだったんだ……」
たった一度の善意。
でも、それがこんな形でめぐりめぐっていたなんて。
風呂場のあの背中流し——あれは、言葉の代わりに俺への“感謝”を伝えていたのだ。
そして、すみれと俺の間に、確かに“何か”が生まれていた。
(つづく)
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