249 / 630
第二三三話「修羅場シンフォニー開演! 二人きりじゃ終わらせない」
しおりを挟む
屋上に響くルナの声は、まるで戦いのゴングのようだった。
「アンタだけ、特別な時間をもらえるなんてズルいよ、りあっち」
制服のリボンを結び直しながら、白神ルナはにやりと笑う。
その後ろには、まるで“呼ばれて当然”とでも言わんばかりの顔で──
「黒瀬さんと二人きりで話すなんて、わたしも少し……いや、だいぶ気になりますね」
水無瀬すみれが登場。
「今後の参考に……観察しに来ただけ」
一ノ瀬ひよりも、当然のように来ていた。
そして──
「……わたし、先に来てたもん」
ぽそりと呟く碧純は、どこから出てきたのか、フェンスの影に座っていた。
「ちょっ、まって!? みんな、どうしてここに!?」
俺の問いに、誰も答えない。ただ、ニヤリと笑ったり、視線を逸らしたり、拗ねたり、そっぽを向いたり──それぞれが、それぞれの“やり方”で、気持ちをぶつけようとしていた。
「はい、じゃあまず、順番に質問しまーす」
ルナが勝手に司会進行を始める。
「第一問っ。ズバリ──弘弥くんの作品の“最もキスシーンが印象的なヒロイン”は誰?」
「なっ!?」
「どうせ、碧純ちゃんでしょ? “あの第7巻の口移しの回”、どう見ても妹キャラのアレでしょ?」
「ちょっ……それ、偶然だって!」
「偶然にしちゃ、やたらと“汗ばんだ制服”描写が多いんだよねー? “お兄ちゃん、ダメだよ……”とか言って」
碧純は顔を真っ赤にして、もはや蒸気が見えるんじゃないかというほど煮えていた。
「べっ、別に……モデルになったこと、誇りに思ってないし……でも、その……キスシーンは、ドキドキ……しちゃった」
「してんじゃん!」
「では第二問。主人公の部屋で“お風呂あがりに濡れた髪を拭かれるヒロイン”──あれ、完全に私だよね?」
と、すみれ。
「わたし、あの巻だけ、三回読み直しました。ドライヤーの風で髪がふわっとなる描写……弘弥さんの観察眼、好きです」
「ちょ、すみれ先輩!? それ、めっちゃ具体的じゃん!」
ひよりはうんうんと頷きながら、ノートに書き込んでいた。
「“第13巻、風呂上がり描写における接触距離:32cm 視線の持続:平均3秒以上 熱量:高”──ほらね。完全に恋してる距離」
「じゃあ、じゃあっ!」
りあが一歩前に出た。
「“バレンタイン回”で、主人公が“ありがとう”って言って微笑むシーン……あれは、絶対にわたし! あのときと同じ服、わたし持ってる!」
「服で判断すなよぉぉぉ!」
俺は頭を抱えた。だけど──
心のどこかで、ちょっとだけ、嬉しかった。
みんなが俺の作品を、俺自身を、ちゃんと見てくれてるって。
「ねぇ、弘弥」
最後に静かに声を上げたのは、碧純だった。
「本当の気持ち、誰かに言ったことある?」
「え?」
「わたしのこと、すみれ先輩のこと、ルナちゃん、りあちゃん、ひよりちゃん……イザベラさんも。
みんな、それぞれのやり方で弘弥くんを好きって伝えてる。けど──弘弥くん自身は、“誰か”にちゃんと“好き”って言ったこと、ないよね?」
──ドキン、と心臓が跳ねた。
「わたし、ずるいって思ってた。弘弥くんはみんなに優しいのに、私は独り占めしたくて、嫉妬して、怒って、泣いて……でも」
碧純は、目を逸らさなかった。
「ちゃんと、弘弥くんの口から聞きたい。わたしのこと、どう思ってるか。──他の誰にも言わなくていい。私だけに……教えて」
屋上の風が止まり、時間が止まる。
俺は──答えなければならなかった。
自分の心に。
そして、彼女たちに。
でもそのとき。
「──真壁弘弥氏、いらっしゃいますか?」
突如、屋上の扉が再び開き、見知らぬスーツの男たちが姿を現した。
「あなた宛の“緊急勅令”です」
「──っ!」
イザベラの姿も現れた。目を見開き、口を開こうとする。
俺の中で、なにかが動き出すのを感じた。
──物語は、恋と陰謀が交錯する、新たな幕へ。
「アンタだけ、特別な時間をもらえるなんてズルいよ、りあっち」
制服のリボンを結び直しながら、白神ルナはにやりと笑う。
その後ろには、まるで“呼ばれて当然”とでも言わんばかりの顔で──
「黒瀬さんと二人きりで話すなんて、わたしも少し……いや、だいぶ気になりますね」
水無瀬すみれが登場。
「今後の参考に……観察しに来ただけ」
一ノ瀬ひよりも、当然のように来ていた。
そして──
「……わたし、先に来てたもん」
ぽそりと呟く碧純は、どこから出てきたのか、フェンスの影に座っていた。
「ちょっ、まって!? みんな、どうしてここに!?」
俺の問いに、誰も答えない。ただ、ニヤリと笑ったり、視線を逸らしたり、拗ねたり、そっぽを向いたり──それぞれが、それぞれの“やり方”で、気持ちをぶつけようとしていた。
「はい、じゃあまず、順番に質問しまーす」
ルナが勝手に司会進行を始める。
「第一問っ。ズバリ──弘弥くんの作品の“最もキスシーンが印象的なヒロイン”は誰?」
「なっ!?」
「どうせ、碧純ちゃんでしょ? “あの第7巻の口移しの回”、どう見ても妹キャラのアレでしょ?」
「ちょっ……それ、偶然だって!」
「偶然にしちゃ、やたらと“汗ばんだ制服”描写が多いんだよねー? “お兄ちゃん、ダメだよ……”とか言って」
碧純は顔を真っ赤にして、もはや蒸気が見えるんじゃないかというほど煮えていた。
「べっ、別に……モデルになったこと、誇りに思ってないし……でも、その……キスシーンは、ドキドキ……しちゃった」
「してんじゃん!」
「では第二問。主人公の部屋で“お風呂あがりに濡れた髪を拭かれるヒロイン”──あれ、完全に私だよね?」
と、すみれ。
「わたし、あの巻だけ、三回読み直しました。ドライヤーの風で髪がふわっとなる描写……弘弥さんの観察眼、好きです」
「ちょ、すみれ先輩!? それ、めっちゃ具体的じゃん!」
ひよりはうんうんと頷きながら、ノートに書き込んでいた。
「“第13巻、風呂上がり描写における接触距離:32cm 視線の持続:平均3秒以上 熱量:高”──ほらね。完全に恋してる距離」
「じゃあ、じゃあっ!」
りあが一歩前に出た。
「“バレンタイン回”で、主人公が“ありがとう”って言って微笑むシーン……あれは、絶対にわたし! あのときと同じ服、わたし持ってる!」
「服で判断すなよぉぉぉ!」
俺は頭を抱えた。だけど──
心のどこかで、ちょっとだけ、嬉しかった。
みんなが俺の作品を、俺自身を、ちゃんと見てくれてるって。
「ねぇ、弘弥」
最後に静かに声を上げたのは、碧純だった。
「本当の気持ち、誰かに言ったことある?」
「え?」
「わたしのこと、すみれ先輩のこと、ルナちゃん、りあちゃん、ひよりちゃん……イザベラさんも。
みんな、それぞれのやり方で弘弥くんを好きって伝えてる。けど──弘弥くん自身は、“誰か”にちゃんと“好き”って言ったこと、ないよね?」
──ドキン、と心臓が跳ねた。
「わたし、ずるいって思ってた。弘弥くんはみんなに優しいのに、私は独り占めしたくて、嫉妬して、怒って、泣いて……でも」
碧純は、目を逸らさなかった。
「ちゃんと、弘弥くんの口から聞きたい。わたしのこと、どう思ってるか。──他の誰にも言わなくていい。私だけに……教えて」
屋上の風が止まり、時間が止まる。
俺は──答えなければならなかった。
自分の心に。
そして、彼女たちに。
でもそのとき。
「──真壁弘弥氏、いらっしゃいますか?」
突如、屋上の扉が再び開き、見知らぬスーツの男たちが姿を現した。
「あなた宛の“緊急勅令”です」
「──っ!」
イザベラの姿も現れた。目を見開き、口を開こうとする。
俺の中で、なにかが動き出すのを感じた。
──物語は、恋と陰謀が交錯する、新たな幕へ。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる