同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第二三三話「修羅場シンフォニー開演! 二人きりじゃ終わらせない」

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屋上に響くルナの声は、まるで戦いのゴングのようだった。

 

「アンタだけ、特別な時間をもらえるなんてズルいよ、りあっち」

 

制服のリボンを結び直しながら、白神ルナはにやりと笑う。
その後ろには、まるで“呼ばれて当然”とでも言わんばかりの顔で──

 

「黒瀬さんと二人きりで話すなんて、わたしも少し……いや、だいぶ気になりますね」

水無瀬すみれが登場。

 

「今後の参考に……観察しに来ただけ」

一ノ瀬ひよりも、当然のように来ていた。

 

そして──

 

「……わたし、先に来てたもん」

 

ぽそりと呟く碧純は、どこから出てきたのか、フェンスの影に座っていた。

 

「ちょっ、まって!? みんな、どうしてここに!?」

 

俺の問いに、誰も答えない。ただ、ニヤリと笑ったり、視線を逸らしたり、拗ねたり、そっぽを向いたり──それぞれが、それぞれの“やり方”で、気持ちをぶつけようとしていた。

 

「はい、じゃあまず、順番に質問しまーす」

 

ルナが勝手に司会進行を始める。

 

「第一問っ。ズバリ──弘弥くんの作品の“最もキスシーンが印象的なヒロイン”は誰?」

 

「なっ!?」

 

「どうせ、碧純ちゃんでしょ? “あの第7巻の口移しの回”、どう見ても妹キャラのアレでしょ?」

 

「ちょっ……それ、偶然だって!」

 

「偶然にしちゃ、やたらと“汗ばんだ制服”描写が多いんだよねー? “お兄ちゃん、ダメだよ……”とか言って」

 

碧純は顔を真っ赤にして、もはや蒸気が見えるんじゃないかというほど煮えていた。

 

「べっ、別に……モデルになったこと、誇りに思ってないし……でも、その……キスシーンは、ドキドキ……しちゃった」

 

「してんじゃん!」

 

「では第二問。主人公の部屋で“お風呂あがりに濡れた髪を拭かれるヒロイン”──あれ、完全に私だよね?」

 

と、すみれ。

「わたし、あの巻だけ、三回読み直しました。ドライヤーの風で髪がふわっとなる描写……弘弥さんの観察眼、好きです」

 

「ちょ、すみれ先輩!? それ、めっちゃ具体的じゃん!」

 

ひよりはうんうんと頷きながら、ノートに書き込んでいた。

 

「“第13巻、風呂上がり描写における接触距離:32cm 視線の持続:平均3秒以上 熱量:高”──ほらね。完全に恋してる距離」

 

「じゃあ、じゃあっ!」

 

りあが一歩前に出た。

 

「“バレンタイン回”で、主人公が“ありがとう”って言って微笑むシーン……あれは、絶対にわたし! あのときと同じ服、わたし持ってる!」

 

「服で判断すなよぉぉぉ!」

 

俺は頭を抱えた。だけど──

 

心のどこかで、ちょっとだけ、嬉しかった。

みんなが俺の作品を、俺自身を、ちゃんと見てくれてるって。

 

「ねぇ、弘弥」

 

最後に静かに声を上げたのは、碧純だった。

 

「本当の気持ち、誰かに言ったことある?」

 

「え?」

 

「わたしのこと、すみれ先輩のこと、ルナちゃん、りあちゃん、ひよりちゃん……イザベラさんも。
みんな、それぞれのやり方で弘弥くんを好きって伝えてる。けど──弘弥くん自身は、“誰か”にちゃんと“好き”って言ったこと、ないよね?」

 

──ドキン、と心臓が跳ねた。

 

「わたし、ずるいって思ってた。弘弥くんはみんなに優しいのに、私は独り占めしたくて、嫉妬して、怒って、泣いて……でも」

 

碧純は、目を逸らさなかった。

 

「ちゃんと、弘弥くんの口から聞きたい。わたしのこと、どう思ってるか。──他の誰にも言わなくていい。私だけに……教えて」

 

 

屋上の風が止まり、時間が止まる。

俺は──答えなければならなかった。

自分の心に。

そして、彼女たちに。

 

でもそのとき。

 

「──真壁弘弥氏、いらっしゃいますか?」

 

突如、屋上の扉が再び開き、見知らぬスーツの男たちが姿を現した。

 

「あなた宛の“緊急勅令”です」

 

「──っ!」

 

イザベラの姿も現れた。目を見開き、口を開こうとする。

 

俺の中で、なにかが動き出すのを感じた。

 

 

──物語は、恋と陰謀が交錯する、新たな幕へ。

 
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