同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三〇〇話 「きみと、空を焦がす──夜空に咲いた未来への光」

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 朝。

 いつもよりも早起きした俺は、浴衣姿のヒロインたちに囲まれていた。

「お兄、浴衣、ちゃんと帯結べてる?」

「弘弥くん、ほら、髪に花飾り……変じゃない?」

「帯の結び方が少し甘いわ。こっち向いて」

「観察対象の“和装抵抗値”低下中……可愛い」

「ひろや、目そらさないで。こっち、ちゃんと見て」

「弘弥様、私たちをエスコートする覚悟はおありですか?」

 ──今日は、ツインリンクもてぎで開催される花火大会。

 しかも、ただの花火じゃない。
 音楽と花火、レーザー演出まで完全シンクロした、
 まるで物語のクライマックスのような祭典。

「“一緒に見る相手”によって、未来が変わる」

 ──そんな予感さえ抱かせる夜。

 ◆ ◆ ◆

 到着した会場は、人の波と熱気で溢れていた。

 昼のうちは屋台を巡り、焼きそば、金魚すくい、ラムネ、わたあめ。

 それぞれのヒロインと、いつもと違う時間を少しずつ重ねていく。

「これ、カップルが一緒に食べると恋が叶うらしいよ?」

「ねえ、弘弥。私、今日はずっとあなたと一緒にいたい」

「……まるで“デートの終盤”みたいな雰囲気だね」

「ひろや、今夜の花火、誰と手つなぐの?」

「それによって、誰が正妻か……決まっちゃうのよ?」

「ふふふ……“選ばせない選択”もまた、策略ですわ」

 ◆ ◆ ◆

 そして、日が暮れる。

 観覧席に全員が座り、ライトダウンの合図。

 司会者のカウントダウンとともに、
 スタジアム全体が沈黙に包まれ──

 ドンッ!!

 ──夜空が裂けた。

 視界いっぱいに広がる金、赤、紫の光。

 それに合わせて鳴り響く交響曲第九番。

 リズムに合わせて空を彩る光の渦、
 同時に足元から響く低音と振動。

 花火と音楽と光が、完全にシンクロしている。

「わあ……」「綺麗……」「すごい……」

 ヒロインたちは、誰もが言葉を忘れて見上げていた。

 その横顔に、光が映える。

 汗と浴衣の隙間から覗くうなじ、
 細く伸びる指先、きらめく瞳。

 すべてが、息を呑むほどに美しかった。

 ◆ ◆ ◆

 花火のクライマックス。

 “きみと、空を焦がす──”
 と、スクリーンに浮かび上がる文字。

 その瞬間、俺は一人ひとりの手を、順に握った。

「ありがとう」

「あなたがいたから、ここに来られた」

「ずっと一緒にいたいって思ったよ」

「手、離さないで……」

「ずっと、ずっと……好きだったの」

「……選ばれなくてもいい。でも、そばにいたい」

 涙ぐむ子もいた。
 笑って手を握り返す子もいた。
 そして──
 ただ黙って、俺を見つめていた子も。

 俺はそのすべてを、抱きしめたくなった。

 でも、選べなかった。

 だから俺は、空を見た。

 咲いては消える花火の、その刹那の美しさに、
 言葉を乗せて、願った。

(どうか、みんなが笑っていられますように)
(どうか、この瞬間が、少しでも長く続きますよう
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