同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三〇一話 「選べなかった夜、選ばれなかった私──祭りのあとの静けさ」

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花火が終わり、会場を包んでいた光と音の嵐は静まり、
余韻だけが夏の夜空にぽつりと残されていた。

「……行こうか」

俺の言葉に、ヒロインたちは静かにうなずいた。

誰もが、何かを飲み込むように、目を伏せて。

◆ ◆ ◆

駐車場までの道すがら、
無数の屋台の灯りが、少しずつ消えていく。

さっきまであんなに騒がしかったのに、
いまは虫の音と、遠くの風鈴の音しか聞こえない。

「……楽しかったね」
すみれが呟く。

「……うん。最高だった」
俺も小さく答えた。

その背後で、
誰かの鼻をすする音が、ほんの一瞬だけ聞こえた。

誰も、振り返らなかった。

◆ ◆ ◆

帰りの車内。

助手席にすわった碧純は、
窓の外を見ながらずっと黙っていた。

「……お兄、さ」

「あのとき……誰の手を最後に握ったの?」

運転する俺の指が、ハンドルの上で少しだけ震えた。

「……全部、順番じゃなかったんだ。ただ……全員の手を、ちゃんと……」

「……うん、わかってる。お兄、優しいもんね」

それだけ言うと、彼女はまた窓の外へと視線を戻した。

◆ ◆ ◆

帰宅後──

全員が浴衣のまま、家のリビングで座り込んだ。

「汗かいたから、先にシャワー浴びてきていい?」
ルナが口火を切った。

「私もそのあとでいい?」

「順番にね。……あ、タオル忘れずに」

「は~い」

それぞれが散っていく中、
俺は一人、脱力したようにソファに沈んだ。

──すると、ぽん、と頭に手が置かれた。

「……よく頑張ったね、弘弥くん」

すみれだった。

「きっと誰の手を選んでも、誰かは傷ついた。でも、選ばなかったことにも、意味はある。……私はそう思ってる」

「ありがとう……」

彼女の指先は、ほんの少しだけ震えていた。
でもその笑顔は、優しくて温かかった。

◆ ◆ ◆

その夜。

全員が布団に入っても、しばらくは誰も眠れなかった。

「ねえ、弘弥」
ルナの声。

「今度こそ……どこにも行かないでよね?」

俺は、暗闇の中でうなずいた。

(俺は……この“今”を、絶対に守る)

そう、強く願った。
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