同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第三七九話 「久しぶりのお約束──夢精は裏切らない」

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 ──朝。

 カーテン越しに差し込む陽光。
 窓辺で囀る小鳥たちのさえずり。
 耳元では遠く、洗濯機の回る音。

「……ああ……」

 布団の中、ぬくもりに包まれながら、
 俺は深呼吸をひとつ。

(昨夜は配信だったな……ことねとのコラボ……)

 思い返せば、あの配信は奇跡だった。

 地雷回避の言葉選び。
 深夜テンションによる本音の漏洩。
 そして視聴者の涙。ことねの告白。

(やらかさずに済んだ……俺、やっと一つ、“作家”として乗り越えたんだ……)

 ──そう思った矢先だった。

(……ん?)

 何かが、違う。

 下半身にまとわりつくぬるりとした湿り気。
 下着とパジャマ、そしてシーツへと染み込む感触。

(これは……)

 まさか。まさかまさか。
 昨夜はあれだけ集中して、意識も保って……
 いや、でも――夢の中、誰かと……えっ、誰だっけ……?誰だった……?

「………………」

 ゆっくりと、布団をめくる。
 世界が、白く染まった。

 \\\ ぶちまけられた“青春の残滓”がそこにあった ///

「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 ◆ ◆ ◆

「久々の夢精!?」 「このタイミング!? 配信翌日ってどういうことだよぉぉぉ!!」

 布団を抱えて廊下を全力疾走、
 階段を駆け下りて洗面所へダイブ。

 全身を冷水で洗い流しながら、心は叫び続ける。

(これが、これが俺の“余韻”だっていうのか!!)
(感動の夜からわずか数時間で、オチがこれ!? 俺の青春、毎回落差がジェットコースターなんだけど!?)

 そんな俺の慟哭は、当然――

「……弘弥?」

「おはよう。あれ? その汗だくの顔と手に抱えた布団……まさかまた?」

「“出たな、夢精”顔だね」

「“定期イベント”としてカレンダー登録しとく?」

 ヒロインたち、なぜか早起き。
 そして当然のように、俺の“事件”を察知していた。

 ◆ ◆ ◆

 リビング。

 洗濯機に布団を詰め込む俺。
 だが、ヒロインたちはどこからともなく現れる。

「今日のはすごい量だったね♡」

「シーツまでいってたの、2週間ぶり?」

「ちなみに、アニメ二話放送翌日で夢精発生率80%。ちゃんと記録してるよ?」

「データ化しないで!やめて!数値で見ると余計に恥ずかしいから!」

「あとで“夢精に至った原因分析”やろうね~!」

「“どのヒロインの影響が大きかったか”でパネルディスカッションしよ?」

「ぐぅぅぅぅぅぅ……っ!!誰か俺の記憶を消してぇぇぇ!!!」

 ◆ ◆ ◆

 布団を干していた俺は、ベランダの向こうに気配を感じた。

「ん?」

 ぴしゅっ、と缶の開く音。

「あらあら……お久しぶり、“青春の染み”」

 ――篠宮みつき。
 元ヤン看護師。地雷姉属性。俺の初恋。
 そして、現在隣のアパートに住む“誘惑の化身”。

「布団、また干してるってことは……夢、見たんだね?」

「わ、わああああ!? なんでそれを!!」

「ふふっ、だって“布団がべちゃべちゃ”だもの♡」

「もうほんとやめて!この人、ナチュラルにセクハラ!!」

「でも、よかったよ。
 ちゃんと“出てる”ってことは、まだまだ青春真っ只中ってことだからね」

 彼女はそう言って、にひにひと笑う。

「お姉さんが、いつでも“処理の相談”乗ってあげるから♡」

「……っ!!!」

 そしてその頬が、わずかに紅潮していたのは――
 ビールのせいか、それとも、思い出のせいか。

 ◆ ◆ ◆

「……これ、ホントにラブコメ……?」

 布団の端でつぶやく俺に、スマホの通知が鳴る。

【#アニメ夢精神回】
【#夢精再現率が高すぎて笑った】
【#次は誰の影響か投票中!】

(……お願い、誰か……この世界から“夢精”って言葉、消して……)

 ◆ ◆ ◆

 だが、まだ終わらない。

 その夜。

 リビングにいた碧純が、スマホを見ながらふと呟いた。

「ねぇ弘弥、“非公式ヒロイン人気アンケート”って知ってる?」

「……は?」

「SNSで話題。“誰が一番エロくて正妻向きか”って投票」

「うわあああああああああああ!!!!」

 青春は止まらない。
 そして夢精も──裏切らない。
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