同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四〇〇話 「原点回帰──“夢精”から“恋”へ」

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 ──夜。

 静まり返った自室。
 液晶ディスプレイの光だけが、俺の顔を淡く照らしていた。

 画面には、最新の原稿データ。
 タイトル:『夢精するたびレベルアップ!? 異世界セミナリオ勇者伝説』第7巻。

 クライマックス手前。
 次に書けば、夢精神剣で魔王を倒して世界を救う場面。

 けれど、俺の指は、キーボードの上で止まっていた。

「……書けねえ」

 深く息を吐き、電源を落とす。

 そして俺は――
 プリントアウトしていた原稿束を手に取り、バリバリと破り始めた。

「さよなら、俺の“夢精時代”……!」

 破かれた原稿は、部屋中に舞った。

 ラノベ作家としての象徴。
 直木賞ノミネート作家としての看板。
 社会現象の源。

 それらすべてを、今ここで一旦――終わらせる。

 ◆ ◆ ◆

 ──そして、翌朝。

 俺は真っ白なノートを開いた。

 ペン先が、ためらいながら紙をなぞる。

 タイトル:『君に触れたいと思った夜、僕は初めて大人になった』

(夢精じゃない。“愛”だ)

 それは、触れたくて触れられない距離。
 目が合っても、心までは届かない想い。

 10代の、どうしようもない“ぐらつき”と“焦がれ”を綴る物語。

 初めて、真正面から書こうと思えた。

 ◆ ◆ ◆

 午後。編集部にて。

「はああああああああああ!?!?」

 久遠美月の驚愕の声が部屋に響いた。

「なに、“新作”? “青春純愛”?
 しかもタイトルがさ……“夢精”って言葉が一文字も入ってない……!!」

「だからこそ、書きたいんだ。……今度は、“愛”をさ」

「……あんた、あれだけ“精液で世界救った”くせに、今さら何純情ぶってんのよ」

「俺はただ、書きたいものを書くってだけです……!」

 久遠はジッと俺を見つめ、ふっと息をついた。

「……ま、あんたが本気で書くなら、止めないわよ。
 でもね?」

「それって、夢精じゃないの?」

「だから違うって言ってんだろォォォ!!」

 ◆ ◆ ◆

 そして、その日の夜。

 俺の家に、ヒロインたちが全員集合していた。

 理由は一つ。
「弘弥くんの新作発表会」と称した――青春の会議。

「……ふふっ、“夢精卒業宣言”、見届けに来ました!」

 すみれは優しく笑いながら紅茶を注ぐ。

「お兄ちゃん、ついに“恋”に目覚めたってこと? それはそれで複雑……」
 と、碧純がむくれ顔。

「さあ! ギャルの出番!“恋と夢精の境界線”をギラギラに彩っちゃおうか!」
 テンション高いルナは謎の謳い文句を口にしていた。

「青春……観察……恋愛データ更新……」
 ひよりはパソコン片手に、新ジャンル分析中。

「弘弥くん……その物語の“ヒロイン”は、もう決まってるの?」
 ことねが、少し不安そうに問いかける。

「ふふ……“愛”ね。ふーん……ふーん?」
 と、黒瀬りあが意味深に微笑んでいた。怖い。

「じゃあ私は、“作品に出てくる夢枕役”で再登場狙ってもいいかな?」
 あゆむはちゃっかり布団に座っていた。油断ならない。

 そして最後に、リビングの隅で缶ビールを開けた篠宮みつきが呟いた。

「弘弥……ついに“汚点の少年時代”を卒業したってわけか」

「だからその呼び方やめろって!!」

 ◆ ◆ ◆

 その夜。

 ヒロインたち全員がリビングで雑魚寝状態。
 俺はノートPCの前で、そっとタイピングを始めた。

『恋は、きっと、曖昧なまま始まって。
 触れたいと思った夜にだけ、確信に変わる。
 それが青春で、
 それがきっと、俺たちの物語――』

 そして、振り返ると。
 ヒロインたち全員が、誰一人寝てなかった。

「えっ、聞いてたの!?」

「うん。……“それが青春”なんだよね」
 と、すみれが呟いた。

「……弘弥のこと、もっと好きになっちゃったかも」
 と、ことねが頬を赤らめた。

「じゃあ決まりだね!**『正妻戦争・第二章』**開幕ってことで!」
 ルナの一声に全員が起き上がる。

「えっ!? いやもう夢精終わったから平和に……」

「甘い!!」
「青春は戦場!!」
「小説に愛があるなら、私にもチャンスがあるはず!」
「“一番愛された女”こそが、本物のヒロインでしょ!?」

(ダメだ……これ……地雷包囲網、再構築されてる……!!)

 そして俺は、もう一度思い知る。

 恋は、夢精より過酷だ。
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