同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四〇一話 「愛と性と、そして夢精と──全国高校生読書感想文コンクール最優秀賞」

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 ──秋。

 季節は夏の騒がしさを過ぎ、
 読書の秋、文化の秋、感想文の秋――。

 そして、ついに発表された。

【第52回 全国高校生読書感想文コンクール】
 最優秀賞作品:『夢精と恋と僕の成長記録』
 著:神奈川県 県立浜沢高等学校 2年・佐々木律也

「……え?」

 思わずテレビのニュース速報を二度見した俺は、信じられない声を上げた。

「受賞者コメント」
『夢精という言葉を、初めて“綺麗なもの”だと思いました。
 それは、誰かを好きになったときに、自分の体が反応するってことだから。
 この作品を読んで、自分の“恥ずかしい”が“愛おしい”に変わりました』

「いやいやいやいやいや!?」

 ◆ ◆ ◆

 同日、出版社の打ち合わせ室にて。

「なによこれ!? なんなの!? 全国放送で“夢精”が大絶賛されてんだけど!?」

 編集者・久遠美月は、手に持った朝刊を机に叩きつけた。

「“推薦図書”よ!? 教育委員会、推薦図書に選定!?
 “思春期の揺らぎと純粋な恋を描いた青春小説”ってキャッチコピーで!? ねぇ弘弥、なにこれ!?」

「俺が知りたいです!!」

 ◆ ◆ ◆

 書店にて。

【青春×夢精】
 ──常設特設コーナー 爆誕。

 棚に並ぶのは、俺の新作『君に触れたいと思った夜、僕は初めて大人になった』を中心に――

『夢精で世界を救った少年のラストメモリー』
『恋とおむつと、現実逃避のレゾナンス』
『愛と性と洗濯物』
『溢れたら、おしまいですか?』
『夜を濡らす、青春の残滓(ざんし)』

「タイトル攻めすぎだろ出版業界!!!」

 ◆ ◆ ◆

 学校の廊下でも、噂が止まらない。

「えっ、真壁くんの小説って、推薦図書?!」

「マジで感想文書いたよ! 先生が“正直に書きなさい”って言ったから、“俺も夢精しました”って書いたら賞もらった!」

「お前か!! それお前か!!!」

「でもさ、なんか……ちょっと救われた感じはするんだよね。
 性のことって、いつも隠されてるからさ。弘弥くんの作品は、そうじゃなかった」

「………………」

(うっ……何この……思春期男子の涙腺直撃コメント……!)

 ◆ ◆ ◆

 そして夜、自宅。

 ヒロインたちに囲まれて、俺は膝を抱えていた。

「……ねぇ弘弥くん、どうするの? 次のテーマ」

「もう……“夢精”から逃げられないんじゃ……?」

「恋も、性も、青春も、すべてそこから始まってる……」

「むしろ弘弥の人生、ぜんぶ“夢精”から物語が始まってるんじゃ?」

「……それって、“原点”なんだよね」

「おむつしないと寝られなかった日から、今ここまで──」

「やめろォォォォォォ!!!」

 ◆ ◆ ◆

 深夜。

 ひとりでベランダに出ると、夜風が心地よくて、
 ふと、思った。

(こんなに恥ずかしいはずなのに、
 ……なぜか、今が一番、“物語”に近い気がする)

 背中に声がかかった。

「弘弥、おめでとう。……出版界に、革命起きたよ」

 久遠美月だった。
 小さな缶ビール片手に、俺の隣に立つ。

「おめでとう、“夢精作家”」

「その称号、いらねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 夜空には、まるで青春の爆発を祝福するような、ひときわ大きな星が瞬いていた。
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