同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四四三話 「“匂いの記憶”が恋になる──ラブレター in 靴下」

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 ──放課後の帰宅。

 俺は自室の机に向かって、例の“靴下ラブコメ”の続きを書こうとした。

 けれど、その瞬間。

「……ん? なんだこれ」

 机の上に、丁寧に畳まれた白い靴下が置かれていた。

 しかも、添えられた小さな封筒。

 恐る恐る開くと、中には一通の手紙と──わずかに甘い香りが染み込んだ便箋。

 

『あなたといると、私は自分の足音まで好きになれます。  この香りに、私の気持ちを忍ばせました。         ──水無瀬すみれ』

「…………すみれぇぇぇぇぇ!!」

 机に突っ伏しながら悶えたのも束の間、

 次に俺が見たのは――五足の靴下が並ぶ異様な光景だった。

「え、え、え、まって!? なにこれ!? 洗濯物!? いや違う!!」

 

 ──そこには、

 ・レース付きの黒ハイソックス(香り:石鹸+シトラス系) ・ピンクのライン入りショートソックス(香り:柔軟剤+青春) ・膝下丈のニーハイ(香り:熱気+謎の甘さ) ・VTuberロゴ入りキャラ靴下(香り:機材熱と10時間配信の魂) ・分厚い部活用ソックス(香り:運動後のガチ青春汗)

 ……そして、それぞれに添えられた手紙付き。

 ◆ ◆ ◆

【碧純】

『ねえ、これ、昔の文化祭のとき履いてたやつ。覚えてる?  その日、弘弥はすっごくかっこよかったんだから。  ……ちょっとクサいかもだけど、それも含めて私の気持ち。』

【あゆむ】

『ふふ……これは、秘密の約束用♡  お兄ちゃんの枕元に置いておくから、夜、嗅いで寝てね?』

【りあ】

『この香りが誰かの鼻に届くと思うと……  心がちょっとザワつくの。  けど、そんな私を見て、あなたはどうするの?』

【ルナ】

『はいこれ~!  部活終わりに脱いだやつだけど、気合いは入ってるから安心して!  弘弥、夢精したら感想ちゃんと教えてよね?☆』

【ことね】

『VTuber“ことね”プロデュース・香りのデジタルコラボ靴下です!  再販なしの一点物、愛込めてます♡ by ことねチャンネル』

 

 ◆ ◆ ◆

 俺は崩れ落ちた。物理的に。

「……俺、青春のどこで間違えたんだ……」

(“ラブレターin靴下”って、何!? 何この……情緒と湿気の融合体!?)

 でも──心の奥のどこかで、

 俺は確かに、こう思っていた。

(……最高かよ……)

 

 ◆ ◆ ◆

 その夜。

 俺の机の上は、ほのかに温かく、柔らかな空気に包まれていた。

 靴下たちが、ふわりと寄せる香りとともに。

 “記憶の匂い”は、時に言葉よりも深く恋を語る。

 

 そして俺は、一行だけ、小説の続きを書き始めた。

『君がそっと脱いだ靴下には、君の心が残っていた。』

 

 ──恋は、足元から始まるのかもしれない。
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