同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四七六話『金色の精霊かと思ったら、香ばしかった』

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 新学期。
 春の柔らかな日差しが教室の窓から差し込み、クラスメイトたちは新しい出会いに胸を膨らませていた。

 そんな中、担任の先生が扉を開け、にこやかに紹介する。

「今日からこのクラスに、留学生が編入してきます。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」

 そして、教室の入り口に立ったのは──

 眩しいほどの金色の髪を持つ、美少女だった。

 まるでファンタジー世界から飛び出してきたような存在感。
 長い金銀混じりの髪は太陽の光を受けてきらきらと輝き、
 エメラルドグリーンの瞳が、無邪気に教室を見渡している。

 身長は高すぎず、低すぎず。
 細い体に、制服がどこかアンバランスにフィットしていた。

 その美しさに、教室は一瞬で静まり返った。

「エルフ……?」

 誰かが、小さく呟いた。

 確かに。
 その透明感、存在感は、現実離れしていた。

 男子たちは目を奪われ、女子たちもため息を漏らす。

 そんな中、唯一、俺──真壁弘弥だけは違和感を覚えていた。

 何かが引っかかる。
 何かが、微かに、俺の本能をざわつかせる。

「えっと、自己紹介をどうぞ」

 先生に促され、美少女は一歩前に出る。

「ミレーヌ=フィオナ=ヴァレンティーヌ、と申します。遠い国、エルミナ王国より、文化交流のために参りました。どうぞよろしくお願いいたします」

 柔らかな発音、日本語も流暢。
 完璧な自己紹介だった。

 だが──

 その瞬間、俺の鼻に違和感が突き刺さった。

(……ん?)

 微かな、だが無視できない、
 独特な香り。

 甘く、スパイシーで、どこか獣じみた生々しさを帯びた匂い。

 普通ならシャンプーとか、香水とか、そういうものがふわりと香るはずだ。
 なのに、彼女から漂うのは、天然物の芳香だった。

 ──強い。

 徐々に距離が近づくと、その香りはさらに濃くなっていった。

 他のクラスメイトはまだ気づいていない。
 美貌に圧倒され、香りまで意識が及んでいないのだろう。

 しかし俺は違った。

 なぜなら、俺は──
 嗅覚にだけは異様に敏感な男だったからだ。

 自称・臭気判定士(ラノベ作家兼業)。
 布、香り、汗、湯気、全てを感知するこの鼻が、今、警鐘を鳴らしていた。

(これ……やべえレベルで、キツいぞ……!?)

 見た目は天使。
 香りは、ケモノ。

 そんなギャップを前に、俺は思考をフリーズさせるしかなかった。

 その時、ミレーヌがこちらを見て、にっこりと微笑んだ。

「……あの。あなた様は……?」

 席の近くまで寄ってくる。

 いや、寄るな!
 これ以上、香りが濃くなると理性が死ぬ!!

「ま、真壁……弘弥、です……!」

 俺はビクビクしながら名乗った。

 ミレーヌは、そのエメラルドグリーンの瞳を輝かせ、うっとりと呟いた。

「……真壁弘弥……ああ、なんて素敵な響き……」

(え? なんでそんな反応?)

 戸惑う俺をよそに、彼女はさらに一歩、ぐいっと距離を詰めてくる。

 湯気のような匂いのヴェールに包まれ、俺は一瞬、意識が飛びそうになった。

 教室のざわめきも、遠くに感じる。

(これ……マジで……近い、そして……香ばしい!!)

 こうして、
 俺とミレーヌ=フィオナ=ヴァレンティーヌの、
 香りに満ちた戦いの幕が開いた。
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