同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四七七話『憧れの作家、まさかのご近所さん!?』

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 ミレーヌ=フィオナ=ヴァレンティーヌ──
 金色の精霊とも形容できる美少女留学生は、今日も俺の視界に入り込んでくる。

 席替えの結果、俺のすぐ斜め後ろという絶妙なポジションを手に入れた彼女は、嬉々として話しかけてきた。

「真壁様、今日の国語の課題、お手伝いしていただけますか?」

「真壁様、これは“おにぎり”でよろしいのでしょうか?」

「真壁様、わたくし、漢字の書き取り練習が苦手でして!」

 うん。
 別に助けるのは構わない。

 構わないのだが──

(く、くせええええええええ!!)

 あまりにも距離が近すぎて、ミレーヌ特有の強烈な天然香気がダイレクトアタックしてくる。

 石鹸でも香水でもない。
 まさに、汗と体温と生命そのものが混じり合った、濃密な香りだ。

 鼻が敏感すぎる俺には、もはや致命的なレベルだった。

 そんな地獄のような状況の中──

 事件は、起きた。

 昼休み。
 教室の隅っこでスマホを弄っていた俺。

 ちらっとSNSを覗くと、俺のラノベ作品『パンツと運命と、そして君』の新刊告知が、出版社公式アカウントから投稿されていた。

「ふぅ、これでプロモーションも順調だな……」

 と、俺が独りごちた、その声を──

「……今、パンツと運命と、そして君って……!?」

 背後から、ミレーヌがビシィィィィッと反応してきた。

 顔を真っ赤にして、信じられないものを見る目で、こちらを凝視している。

「ま、ま、ま、真壁様ぁぁっ!?」

「ひゃいっ!?」

 勢いに押され、変な声が出た。

 ミレーヌは震える指で、俺のスマホ画面を指差す。

「そ、その作品……わたくしの祖国でも翻訳されております! エルミナ王国で一番愛されているラノベでございますっ!」

「そ、そうなの……?」

 初耳だった。

 確かに、海外配信されていると聞いたことはある。
 だがまさか、海の向こうで“国民的人気作”扱いされているとは……。

「そ、それを、その作者様が、ここに……このクラスに……! ご、ご近所に……!」

 ミレーヌは完全に壊れた機械のように震えながら、顔を真っ赤にしていた。

 そして次の瞬間──

 バァァァァン!!

 机に両手をついて、叫んだ。

「わたくし、真壁弘弥様の、忠実なる隷属を誓いますっ!!」

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 俺は慌てて手を振ったが、時すでに遅し。

 クラス中の視線が一斉に集まる。

 ミレーヌの金髪が揺れ、俺の視界が真っ白になった。

 そして。

「……おい、あれって……」「ガチ恋勢?」「ちょっと距離近すぎね?」

 周囲のざわめきと共に、ヒロインたち──碧純、すみれ、ルナ、ひより、ことね──が次々と集まってきた。

「な、なにこの空気……」
 碧純が顔を引きつらせる。

「弘弥くん、すごい人気者じゃない」
 すみれが苦笑する。

「やば、あたしより強いラブ勢きたかも~」
 ルナが面白そうに言う。

「観察対象、過剰接触により酸素濃度低下中」
 ひよりがスマホで何か測定している。

「黄金の使徒よ……束縛は罪……」
 ことねは謎の呪文を唱え始めた。

 だが、その場に立つ全員が、共通して感じていたことがあった。

(く、くさい……!!)

 そう。

 近づけば近づくほど、ミレーヌから放たれる香りが教室中を席巻していたのだ。

 男子も女子も、じわりと後退していく。

 唯一、無邪気に笑うミレーヌ本人を除いて。

「さあ! 弘弥様! 今日からわたくしを、弟子にしてくださいませ!」

「と、とりあえず、ちょっとだけ、離れて、話そうか……?」

 俺は必死で微笑みながら、半歩後ずさる。

 だが、ミレーヌの瞳は獲物を見つけた猛獣のように輝いていた。
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