同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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第四九六話『過去と向き合う──それでも前を向く』

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 旧校舎の待機室。

 雨はまだ降り続いていた。

 でも、心の中にあった長い長い雨は、
 ほんの少し、止みかけていた。

 紗凪が膝を抱えたまま、俺を見上げる。

 その瞳は、

 もう泣いていなかった。

 だけど、何かを、必死に堪えているように見えた。

 俺は、そっと口を開いた。

「……紗凪」

 名前を呼ぶだけで、
 喉が詰まりそうになる。

 でも、言わなきゃいけなかった。

「俺は……」

 ぎゅっと拳を握る。

「ずっと怖かったんだ」

 紗凪が、目を見開く。

「夢を追いかけたら、
 お前と、すれ違うって分かってたから」

「でも、夢を諦めたら──
 きっと俺は、もっとお前に顔向けできなくなると思った」

「だから、夢を選んだ。
 でも、それは……
 紗凪を捨てたかったわけじゃない」

 震える声で、必死に絞り出す。

「今でも、大切だって、思ってる」

 しん、と静まる室内。

 雨の音さえ、遠くなった気がした。

 紗凪が、小さく、唇を噛みしめる。

 そして──

「……わたしも」

 小さな声で、答えた。

「あなたのこと、嫌いになんて……なれなかった」

 涙じゃなく、
 微笑みながら、言ってくれた。

 その笑顔は、
 俺の知っている、
 あの、幼い日の紗凪のままだった。

 そっと、手を伸ばす。

 紗凪も、ためらいながら、手を伸ばす。

 指先が、触れた。

 ほんの、わずかな接触。

 だけど、それは──

 確かに、繋がった瞬間だった。

 だが、その瞬間。

「……っ、な、なにやってんの!!」

 聞き覚えのある怒声が、響いた。

 びくっとして振り向くと、

 そこには、

 ずぶ濡れのルナ、碧純、すみれ、ひより、ことね、そしてミレーヌが立っていた。

 全員、顔面蒼白、あるいは真っ赤だ。

「え、え、ちょっと待って!? 誤解だから!!」

 俺は慌てて手を引っ込めたが、

 時すでに遅しだった。

 ルナがぷるぷる震えながら、

「弘弥が──幼なじみちゃんと──イチャイチャしてたぁぁぁ!!」

 と叫び、

 碧純は無言で俺に膝蹴りを食らわせ、

 すみれは冷ややかな視線を送り、

 ひよりは「観察対象、恋愛フラグ急上昇」と記録し、

 ことねは「黄金の審判、下される」と呪文を唱え、

 ミレーヌは泣きそうな顔で、ぎゅっとタオルを握りしめた。

 俺は、

 崩れ落ちた。

(……やばい、これは……)

 地雷、超・大・爆・発である。
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