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【第五一二話】『学園カフェは恋の戦場!?』
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文化祭、午前の部。
俺たちのクラスの出し物──「学園カフェ」は、開店と同時にすでに大盛況だった。
「いらっしゃいませー!」
ルナが満面の笑顔で客を迎える。メイド服風の制服に身を包み、屈託のない明るさで場を支配していた。
「兄、こっち運んで!」
注文票を俺に押し付けながら、ルナはにやりと笑った。
その目には──明らかに「何か」を企んでいる光が宿っていた。
「……ま、またか」
俺は重い足取りで厨房に向かい、カフェラテとケーキプレートを受け取る。
そして指定されたテーブルへ。
「お待たせしました──」
普通に配膳するつもりだった。だが。
「お兄、アーン♥」
ルナが、当然のようにスプーンを差し出してきた。
「はっ、はああああああああああ!?」
店内の注目が一気に集まる。
生徒たち、保護者たち、全員が目を剥いてこちらを見ていた。
「い、いや、俺は、俺は──」
「ほらほらー、文化祭限定の“ご褒美タイム”だよっ!」
「文化祭で一番頑張ってるお兄に、特別サービスってやつ♡」
ルナの悪魔的な笑顔に、俺の理性がガリガリ削られていく。
(……っ! だめだ、ここでノッたら死ぬ!!)
必死に顔を真っ赤にしながら、俺はスプーンを受け取り──
「自分で食べます!!」
全力で拒否した。
客席から失笑と拍手。
俺の心臓はすでに持たなそうだった。
だが、地獄は続く。
次に現れたのは──
「兄、お疲れさま。」
碧純だった。
彼女は、テーブルの陰からそっと差し出すように、一枚の手書きメッセージカードを俺に渡した。
──『兄のために、特別に作ったデザートです。ひと口食べたら、好きって言ってね♡』
顔から火が出そうだった。
「……碧純、これ、普通の客に渡すカードじゃないよな……?」
「うん、兄だけに渡してる。」
即答だった。
「兄のためだけだから。」
碧純はほんのり赤くなりながら、だけどまっすぐな目で俺を見つめた。
ぐああああああああ胃が痛い……!
「……あの、注文のお客様が──」
すみれが割って入った。
すみれはメイド服をきちんと着こなし、冷静そのものだった。
だが、彼女も、さりげなく、俺にだけ小さなメモを渡してきた。
──『昼休憩、一緒に取りませんか? あなたと静かに話したいです。』
「…………」
すみれ、恐ろしい子。
「観察対象、心拍数上昇、胃痛リスク増大──」
すぐそばで、ひよりが淡々と実況している。
勘弁してくれ。
しかも、その隣では──
「黄金の運命、いま開かれん──!」
ことねが謎の祝詞を上げ始めていた。
誰か止めてくれ。
と、そこに。
「──弘弥様っ!」
ミレーヌが、民族衣装風の制服で駆け寄ってきた。
金糸の刺繍が眩しく光る彼女のスカートが、ふわりと広がる。
「お、お客様に、異国のお茶をお持ちしました……! でも、でもっ、わたくしの、弘弥様への気持ちも……!」
もうなにを言ってるのか分からない。
ただ、彼女が必死なのは伝わった。
俺は胃を押さえながら必死に微笑み返す。
しかし、ミレーヌの爆撃はまだ軽い方だった。
真の破壊者は──エレノアだった。
「──皆様、ご歓談のひとときを」
エレノアは完璧な貴族の立ち居振る舞いで登場し、
俺にティーカップを差し出してきた。
「弘弥様、こちら、わたくし自ら淹れた特別な紅茶でございます。」
流れるような手つきでカップを渡され、
俺は反射的にそれを受け取った。
「さぁ、お口に──」
ぐい、と顔を近づけられた。
至近距離、甘い紅茶の香りと、エレノアの微笑み。
「飲まなければ、外交問題ですわよ?」
にこやかに脅迫された。
俺は、
震える手で、
震える唇で、
一口──飲んだ。
「っ……!!」
味なんて、わからなかった。
ただただ、心臓が爆発しそうだった。
胃も痛かった。
たぶん今、俺は文化祭の中で一番ダメージを受けている男だった。
ふらふらと厨房に戻ると、
ドリンクバーの影から紗凪が小さく顔を覗かせていた。
「……無理、するなよ。」
それだけ言って、
そっとタオルを差し出してくれた。
(……やっぱ、紗凪だけは、昔から変わらないな)
俺は、
滅茶苦茶になった心を、
彼女の小さな優しさに救われながら、
そっと、タオルを受け取った。
だが。
戦いは、
まだ、
始まったばかりだった。
俺たちのクラスの出し物──「学園カフェ」は、開店と同時にすでに大盛況だった。
「いらっしゃいませー!」
ルナが満面の笑顔で客を迎える。メイド服風の制服に身を包み、屈託のない明るさで場を支配していた。
「兄、こっち運んで!」
注文票を俺に押し付けながら、ルナはにやりと笑った。
その目には──明らかに「何か」を企んでいる光が宿っていた。
「……ま、またか」
俺は重い足取りで厨房に向かい、カフェラテとケーキプレートを受け取る。
そして指定されたテーブルへ。
「お待たせしました──」
普通に配膳するつもりだった。だが。
「お兄、アーン♥」
ルナが、当然のようにスプーンを差し出してきた。
「はっ、はああああああああああ!?」
店内の注目が一気に集まる。
生徒たち、保護者たち、全員が目を剥いてこちらを見ていた。
「い、いや、俺は、俺は──」
「ほらほらー、文化祭限定の“ご褒美タイム”だよっ!」
「文化祭で一番頑張ってるお兄に、特別サービスってやつ♡」
ルナの悪魔的な笑顔に、俺の理性がガリガリ削られていく。
(……っ! だめだ、ここでノッたら死ぬ!!)
必死に顔を真っ赤にしながら、俺はスプーンを受け取り──
「自分で食べます!!」
全力で拒否した。
客席から失笑と拍手。
俺の心臓はすでに持たなそうだった。
だが、地獄は続く。
次に現れたのは──
「兄、お疲れさま。」
碧純だった。
彼女は、テーブルの陰からそっと差し出すように、一枚の手書きメッセージカードを俺に渡した。
──『兄のために、特別に作ったデザートです。ひと口食べたら、好きって言ってね♡』
顔から火が出そうだった。
「……碧純、これ、普通の客に渡すカードじゃないよな……?」
「うん、兄だけに渡してる。」
即答だった。
「兄のためだけだから。」
碧純はほんのり赤くなりながら、だけどまっすぐな目で俺を見つめた。
ぐああああああああ胃が痛い……!
「……あの、注文のお客様が──」
すみれが割って入った。
すみれはメイド服をきちんと着こなし、冷静そのものだった。
だが、彼女も、さりげなく、俺にだけ小さなメモを渡してきた。
──『昼休憩、一緒に取りませんか? あなたと静かに話したいです。』
「…………」
すみれ、恐ろしい子。
「観察対象、心拍数上昇、胃痛リスク増大──」
すぐそばで、ひよりが淡々と実況している。
勘弁してくれ。
しかも、その隣では──
「黄金の運命、いま開かれん──!」
ことねが謎の祝詞を上げ始めていた。
誰か止めてくれ。
と、そこに。
「──弘弥様っ!」
ミレーヌが、民族衣装風の制服で駆け寄ってきた。
金糸の刺繍が眩しく光る彼女のスカートが、ふわりと広がる。
「お、お客様に、異国のお茶をお持ちしました……! でも、でもっ、わたくしの、弘弥様への気持ちも……!」
もうなにを言ってるのか分からない。
ただ、彼女が必死なのは伝わった。
俺は胃を押さえながら必死に微笑み返す。
しかし、ミレーヌの爆撃はまだ軽い方だった。
真の破壊者は──エレノアだった。
「──皆様、ご歓談のひとときを」
エレノアは完璧な貴族の立ち居振る舞いで登場し、
俺にティーカップを差し出してきた。
「弘弥様、こちら、わたくし自ら淹れた特別な紅茶でございます。」
流れるような手つきでカップを渡され、
俺は反射的にそれを受け取った。
「さぁ、お口に──」
ぐい、と顔を近づけられた。
至近距離、甘い紅茶の香りと、エレノアの微笑み。
「飲まなければ、外交問題ですわよ?」
にこやかに脅迫された。
俺は、
震える手で、
震える唇で、
一口──飲んだ。
「っ……!!」
味なんて、わからなかった。
ただただ、心臓が爆発しそうだった。
胃も痛かった。
たぶん今、俺は文化祭の中で一番ダメージを受けている男だった。
ふらふらと厨房に戻ると、
ドリンクバーの影から紗凪が小さく顔を覗かせていた。
「……無理、するなよ。」
それだけ言って、
そっとタオルを差し出してくれた。
(……やっぱ、紗凪だけは、昔から変わらないな)
俺は、
滅茶苦茶になった心を、
彼女の小さな優しさに救われながら、
そっと、タオルを受け取った。
だが。
戦いは、
まだ、
始まったばかりだった。
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