同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

文字の大きさ
520 / 630

【第五一二話】『学園カフェは恋の戦場!?』

しおりを挟む
 文化祭、午前の部。
 俺たちのクラスの出し物──「学園カフェ」は、開店と同時にすでに大盛況だった。

「いらっしゃいませー!」

 ルナが満面の笑顔で客を迎える。メイド服風の制服に身を包み、屈託のない明るさで場を支配していた。

「兄、こっち運んで!」

 注文票を俺に押し付けながら、ルナはにやりと笑った。
 その目には──明らかに「何か」を企んでいる光が宿っていた。

「……ま、またか」
 俺は重い足取りで厨房に向かい、カフェラテとケーキプレートを受け取る。
 そして指定されたテーブルへ。

「お待たせしました──」
 普通に配膳するつもりだった。だが。

「お兄、アーン♥」

 ルナが、当然のようにスプーンを差し出してきた。

「はっ、はああああああああああ!?」

 店内の注目が一気に集まる。
 生徒たち、保護者たち、全員が目を剥いてこちらを見ていた。

「い、いや、俺は、俺は──」

「ほらほらー、文化祭限定の“ご褒美タイム”だよっ!」

「文化祭で一番頑張ってるお兄に、特別サービスってやつ♡」

 ルナの悪魔的な笑顔に、俺の理性がガリガリ削られていく。

(……っ! だめだ、ここでノッたら死ぬ!!)

 必死に顔を真っ赤にしながら、俺はスプーンを受け取り──

「自分で食べます!!」

 全力で拒否した。

 客席から失笑と拍手。
 俺の心臓はすでに持たなそうだった。

 だが、地獄は続く。

 次に現れたのは──

「兄、お疲れさま。」

 碧純だった。

 彼女は、テーブルの陰からそっと差し出すように、一枚の手書きメッセージカードを俺に渡した。

 ──『兄のために、特別に作ったデザートです。ひと口食べたら、好きって言ってね♡』

 顔から火が出そうだった。

「……碧純、これ、普通の客に渡すカードじゃないよな……?」

「うん、兄だけに渡してる。」

 即答だった。

「兄のためだけだから。」

 碧純はほんのり赤くなりながら、だけどまっすぐな目で俺を見つめた。
 ぐああああああああ胃が痛い……!

「……あの、注文のお客様が──」

 すみれが割って入った。

 すみれはメイド服をきちんと着こなし、冷静そのものだった。
 だが、彼女も、さりげなく、俺にだけ小さなメモを渡してきた。

 ──『昼休憩、一緒に取りませんか? あなたと静かに話したいです。』

「…………」
 すみれ、恐ろしい子。

「観察対象、心拍数上昇、胃痛リスク増大──」

 すぐそばで、ひよりが淡々と実況している。
 勘弁してくれ。

 しかも、その隣では──

「黄金の運命、いま開かれん──!」

 ことねが謎の祝詞を上げ始めていた。
 誰か止めてくれ。

 と、そこに。

「──弘弥様っ!」

 ミレーヌが、民族衣装風の制服で駆け寄ってきた。
 金糸の刺繍が眩しく光る彼女のスカートが、ふわりと広がる。

「お、お客様に、異国のお茶をお持ちしました……! でも、でもっ、わたくしの、弘弥様への気持ちも……!」

 もうなにを言ってるのか分からない。
 ただ、彼女が必死なのは伝わった。

 俺は胃を押さえながら必死に微笑み返す。

 しかし、ミレーヌの爆撃はまだ軽い方だった。

 真の破壊者は──エレノアだった。

「──皆様、ご歓談のひとときを」
 エレノアは完璧な貴族の立ち居振る舞いで登場し、
 俺にティーカップを差し出してきた。

「弘弥様、こちら、わたくし自ら淹れた特別な紅茶でございます。」

 流れるような手つきでカップを渡され、
 俺は反射的にそれを受け取った。

「さぁ、お口に──」

 ぐい、と顔を近づけられた。

 至近距離、甘い紅茶の香りと、エレノアの微笑み。

「飲まなければ、外交問題ですわよ?」

 にこやかに脅迫された。

 俺は、
 震える手で、
 震える唇で、
 一口──飲んだ。

「っ……!!」
 味なんて、わからなかった。
 ただただ、心臓が爆発しそうだった。

 胃も痛かった。

 たぶん今、俺は文化祭の中で一番ダメージを受けている男だった。

 ふらふらと厨房に戻ると、
 ドリンクバーの影から紗凪が小さく顔を覗かせていた。

「……無理、するなよ。」

 それだけ言って、
 そっとタオルを差し出してくれた。

(……やっぱ、紗凪だけは、昔から変わらないな)

 俺は、
 滅茶苦茶になった心を、
 彼女の小さな優しさに救われながら、
 そっと、タオルを受け取った。

 だが。

 戦いは、
 まだ、
 始まったばかりだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...