同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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【第五一三話】『裏イベント──“告白成功率アップ”のジンクス』

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 午後。
 学園内はさらに盛り上がりを見せていた。

 カフェも賑わい、劇場エリアでは演劇やバンド演奏が続き、模擬店からは甘い匂いが漂う。
 文化祭という非日常が、確実に生徒たちを浮き立たせていた。

 そんな中──

「ねぇ知ってる?」
 カフェの休憩時間、客席の陰から漏れ聞こえた噂話に、ヒロインたちは耳をそばだてた。

「文化祭の日に、ある場所で手を繋いで願い事をすると、絶対に両想いになれるんだって!」

「マジで!? どこどこ?」

「中庭の銀杏の下だって! 放課後がチャンスらしいよ!」

 その瞬間。
 ヒロインズの目が、光った。

「──これだ!」

 ルナが即座に立ち上がった。

「これ、絶対にやらないと!」
 碧純が興奮気味に叫ぶ。

「恋愛成就ジンクス……科学的根拠は不明ですが、試す価値はありますね」
 すみれが冷静にメモを取る。

「観察対象、恋愛行動実施予定追加」
 ひよりが即座にスケジュールに組み込む。

「黄金の奇跡、運命の手繋ぎ──」
 ことねが詩人モードに突入。

「わ、わたくしも……! 弘弥様と……っ!」
 ミレーヌが手をぎゅっと握りしめる。

「ふふ、これは逃せないチャンスですわね」
 エレノアがにこやかに微笑むが、目は本気だった。

「……負けない」
 紗凪が、小さく、でも確かな声で呟いた。

 全員の瞳に、はっきりとした「戦闘モード」の光が宿っていた。

「よし、作戦会議だ!」
 ルナが勢いよく宣言する。

「まず、放課後に弘弥を自然に中庭まで誘導する!」

「誘導できたら、あとは手を繋ぐだけ……!」

「兄をどうやって中庭に呼び出すかが勝負だね」
 碧純が真剣に頷く。

「条件整理──」
 ひよりがホワイトボードに箇条書きする。

 1.放課後、中庭の銀杏の木の下
 2.手を繋いで願い事をする
 3.それだけで恋が成就する(らしい)

「シンプルでわかりやすいわね」
 すみれが腕を組む。

「黄金の時間帯──日没直前が最適」
 ことねがタイミングまで完璧に計算する。

「……誰より先に、弘弥様と……っ!」
 ミレーヌは顔を真っ赤にして震えている。

「ふふ……油断なりませんわね、皆様」
 エレノアが優雅に笑う。

「絶対……私が、手を繋ぐ」
 紗凪が誰よりも静かに、しかし強く誓った。

 ヒロインズ、全員一致の目標。
 ──「銀杏の下で、弘弥と手を繋ぐ」。

 だが、当の本人──弘弥は、その作戦をまったく知らされていなかった。

 ◆

 その頃。
 弘弥は、カフェの裏で一人、必死に休憩していた。

「……疲れた……胃が……」
 テーブルに突っ伏しながら呻く。

 体力も精神もすり減らされ、
 さらには胃も悲鳴を上げるこの状況。

(文化祭って、こんな……過酷なイベントだったか……?)

 そんなことを思いながら、
 小さな缶コーヒーを片手にぼんやり空を見上げる。

 そこへ。

「弘弥くん!」
 すみれが現れた。

「ちょっと、手伝ってほしいことがあって……」

「え、ああ、いいけど……」
 素直に応じる弘弥。

「ありがとう。じゃあ、中庭の方までお願いできる?」

(中庭?)

 弘弥は小さく首を傾げた。
 だが、特に疑問も持たず頷いた。

「わかった、行くよ。」

 ──まんまと、誘導成功。

 ◆

 そして。
 すぐ後ろでは、ヒロインズたちが物陰からこっそり覗いていた。

「よし、すみれ成功!」
 ルナがガッツポーズを決める。

「兄、ちょろすぎ……」
 碧純がため息をつく。

「さあ、ここからが勝負です」
 すみれが微笑む。

「観察対象、接触計画第2段階へ」
 ひよりが記録を更新。

「黄金の時間、間もなく到来──」
 ことねが詠う。

「わたくしも……急がないと……!」
 ミレーヌが焦る。

「ふふ、これで正妻戦争も一歩リードですわね」
 エレノアが静かに燃える。

「絶対、負けない」
 紗凪がぎゅっと拳を握った。

 ──銀杏の木の下。
 弘弥をめぐる、新たな戦いが、いま始まろうとしていた。
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