同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件

本能寺から始める常陸之介寛浩

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『君と、納豆と、発酵と。──美少女納豆実験編』

【第五六六話】 『納豆の夜──汗とぬるぬると青春と』

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「ぬ、ぬか床より……きつい……かも……」
 タオルの上から藁に包まれた大豆を抱えながら、ルナが呻いた。

 

「でも、ちゃんと発酵させないと……」
 すみれは腕の間に挟んだまま姿勢を保ち、顔だけこちらを向く。
「温度が重要なの。特に初期の発酵段階で36~40度を保たないと、納豆菌が活性しにくくて……」

 

「……体温管理のための寝返り、禁止……苦行では……」
 ひよりはブランケットの中で静かに震えていた。
(それでもデータ収集中)

 

「ていうか……なんでわたくし、またこの役目ですの!?」
 ミレーヌは腹の上に乗せた藁包みをにらみつけながら、かぶせ布団に汗をにじませていた。

 

 そして、静まり返る夜の寝室。
 その中に、なにやら……ぬるっとした気配が。

 

「…………」
 弘弥は一人、別室のソファで毛布を被りながら、それでもどこか落ち着かない気持ちで夜を迎えていた。

 

「ヒロインズ全員、納豆抱いて寝てるって……なにこの状況……」

 

 執筆のための参考資料──それは確かにそうだ。
 だが。

 

(……大丈夫かな。あれ、いくら温度が必要とはいえ、密着させるって……)

 

 その頃、少女たちはそれぞれの悶えの中にあった。

 

「ぬるぬるしてきた……!? これ、絶対できてる! 絶対に発酵進んでる!」
 ルナの声が、寝袋の奥から聞こえる。

 

「兄……これ食べてくれるかな……」
 碧純は額に汗をにじませながらも、大豆を胸元にしっかり固定し、兄のためを思いながら耐えていた。

 

「ふふ、ぬか床よりも……こっちのほうが……すごいわね」
 すみれの声が少し興奮気味だった。

 

「……発酵中……生体反応──安定。だが、粘度不足」
 ひよりの記録メモは止まらない。

 

「もう……我慢できない!」
 ミレーヌは寝返りを打ちそうになり、必死に踏みとどまる。

 

 ──そして、朝。

 

「ふぁ……」
 弘弥が目を覚ましたのは、まだ薄明るい時間。
 そっと部屋を覗き込むと──

 

「ん……お兄ちゃん……」
 碧純が寝言で呟きながら、胸の上に抱えていた藁包みを抱きしめ直す。

 

(……なんて光景だ……青春か……これは……)

 

 弘弥はそっと近づき、テーブルに用意していた「試食用皿」を手にする。

 

「……よし、食ってみるか」

 

 藁包みの一つを開封する。
 ふわっと立ち上る、あの“発酵臭”。

 

(うおっ……本物だ……)

 

 混ぜて、混ぜて、箸で口に運ぶ──

 

「うまい!!」

 

 弘弥は叫びかけた声を、慌てて手で押さえる。

 

(いや、これは……ただの納豆じゃない。魂の納豆だ!)

 

 その声で、ヒロインたちが順に目を覚まし始めた。

 

「……できたの?」
 すみれが髪をかき上げながら近寄る。

 

「めっちゃ、うまい」
 弘弥は力強く言った。

 

「え……ほんとに? うちの体温で、うまく育ったの……?」
 碧純が赤面する。

 

「ぐちゃぐちゃとか言ってごめん……ちょっと……感動してる……」
 ルナは目を潤ませた。

 

「これが青春納豆……」
 ひよりは納豆に見惚れるように言った。

 

「なんなの……わたくしたち……また変な青春してません……?」
 ミレーヌはぽつりと呟いたが、顔には小さな誇りが浮かんでいた。

 

 弘弥は、朝日に照らされた納豆を見つめながら──

 

(……よし、また書こう)

 

 またしても、青春をテーマに、バカで本気な物語を。

 

 ──そう、
『君と納豆と、粘る未来。』

 

 小説のタイトルが、静かに頭に浮かんでいた。
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